「本当に現場で使われる仕組み」を目指して── 線路メンテナンス計画高度化プロジェクト、現場実装へ
ALGO ARTIS はこのたび、JR東日本スタートアップ株式会社の「JR東日本スタートアッププログラム2022秋」を契機に、JR東日本グループ ユニオン建設株式会社と共同で進めてきた「線路メンテナンス作業計画高度化」システムの本格運用を開始しました。
本記事では、実際にどのような想いでプロジェクトに向き合い、どのように現場実装までたどり着いたのか、その裏側をもう少し詳しくご紹介します。
JR東日本スタートアッププログラムから始まった挑戦
本取り組みは、2022年に開催された「JR東日本スタートアッププログラム2022秋」への採択をきっかけにスタートしました。

「JR東日本スタートアッププログラム」は、JR東日本グループの経営資源や情報資産を活用し、スタートアップ企業とともに新たな事業・サービス創出を目指す共創プログラムです。2017年度の開始以来、鉄道事業やIT分野など幅広い領域で実証実験・事業化が進められており、日本オープンイノベーション大賞において経済産業大臣賞や環境大臣賞も受賞しています。
2022年秋には、合計94件の提案の中から7社が採択され、ALGO ARTIS は「AI・アルゴリズムによる線路メンテナンス作業計画の最適化」をテーマに採択。2023年5月のDEMODAYでは、ユニオン建設様と進めてきたPoC成果についてプレゼンを実施し、「優秀賞」を受賞しました。
当時は初期的なAIモデルの構築段階でしたが、線路保守という高い安全性が求められる領域に対して、AI・アルゴリズム技術による計画支援の可能性を示すことができました。
そして今回、実際の現場で継続活用される本格運用まで至ることができました。
私たちにとっても、「計画」の高度化によって社会インフラを支えるという挑戦が、実装フェーズへ進んだ大きな一歩になっています。

鉄道の安全を支える「計画業務」の難しさ
鉄道の安全・安定運行を支える線路メンテナンスでは、日々さまざまな保守作業が行われています。その中でも、作業計画の策定は極めて重要な業務です。
特にJR東日本グループの保守業務では、年間計画をもとに月間・週間と段階的に計画を具体化していく必要があり、
作業内容
線路使用条件
他工事との調整
作業員配置
安全性
など、多くの制約条件を同時に考慮しながら進める必要があります。
さらに、計画変更や緊急対応も日常的に発生するため、状況に応じた迅速な調整や確認も求められます。
こうした計画業務は、鉄道の安全・安定運行を支える非常に重要な役割を担う一方で、現場には大きな負荷がかかっていました。
熟練担当者に支えられてきた計画業務
ユニオン建設様では、これらの月間作業計画を主に熟練担当者の経験やノウハウに基づいて策定していました。
各事業所ごとに個別に計画を作成し、関係者間で調整・確認を重ねながら進めていく必要があるため、年間を通じて多くの時間と人的リソースを要していました。
また、現場経験に基づく部分が大きく、業務の属人化も課題となっていました。
安全を守るために必要な丁寧な確認作業である一方で、その重要業務を支える現場では、負荷軽減や標準化の必要性が高まっていたのです。

求められていた「効率化」と「標準化」
加えて、計画変更や緊急対応が発生するたびに、情報共有や確認作業、更新対応などにも多くの工数が発生していました。
特に、複数の条件や調整事項を横断的に確認する必要があるため、確認漏れやヒューマンエラーのリスクも存在します。
だからこそ求められていたのが、
リアルタイムでの制約チェック
情報共有の円滑化
業務プロセスの標準化
AIによる配置提案
でした。
今回のプロジェクトは、こうした現場課題に対し、「AI+人」による計画支援という形で向き合っていく取り組みとしてスタートしました。
「AIを入れる」ではなく、「本当に使われる仕組み」をつくる
今回のプロジェクトで、私たちが最も重視したのは、
「AIを導入すること」
ではありませんでした。
目指したのは、
「本当に現場で使われる仕組み」をつくること。
そのため、まず徹底的に行ったのが現場理解です。
実際の線路保守作業の見学、各事業所へのヒアリング、現場会議への同席などを繰り返しながら、現場特有の制約や判断プロセスを一つひとつ理解していきました。
現場では、
なぜこの条件確認が必要なのか
なぜこの順番で調整するのか
どこに確認工数やミスリスクが存在するのか
といった、実際に業務を行っているからこそ見える知見が数多く存在していました。
単純にAIで自動化するだけでは、こうした現場特有の判断や運用には対応できません。
だからこそ私たちは、「現場でどう使われるか」を軸に、システムそのものを設計していきました。
現場理解から生まれた独自UI
今回、特に重視したのがUI(ユーザーインターフェース)です。
線路メンテナンスの計画業務では、複数の条件や調整事項を同時に確認しながら意思決定を行う必要があります。
そのため、単にAIが答えを出すだけではなく、
「人が状況を理解しながら判断できること」
が非常に重要でした。
本システムでは、現場との継続的なヒアリング・検証を重ねながら、月間作業計画の可視化・標準化を実現する独自UIを開発。
さらに、「AI+人」の協働を前提とした設計により、複雑な制約条件をリアルタイムで確認しながら、調整・確認業務の効率化やミス低減を支援しています。

PoCで終わらず、「現場実装」まで
スタートアップと大企業の協業では、
PoC(概念実証)で終わってしまうケースも少なくありません。
しかし今回のプロジェクトでは、2022年のJR東日本スタートアッププログラム採択から約3年を経て、実際の現場で継続的に活用いただける本格運用まで至ることができました。
これは、ユニオン建設様、JR東日本スタートアップ様と継続的に対話を重ねながら、「より良いものにしていく」という共通認識のもと、検証・改善を積み重ねてきた結果だと感じています。
単にシステムを導入するのではなく、
「現場に定着すること」
まで含めて、一緒につくり上げてきたプロジェクトです。
現在は、ユニオン建設様内でのさらなる定着や展開についても議論を進めており、加えてJR東日本グループの他領域における計画業務についても、継続的なディスカッションを行っています。
鉄道から、社会インフラ全体へ
鉄道をはじめ、社会インフラを支える現場では、複雑な制約条件や熟練ノウハウを伴う計画業務が数多く存在しています。
一方で、多くの現場で属人化や業務負荷といった課題も顕在化しています。
ALGO ARTIS は今後も、JR東日本グループの皆様との協業をさらに深めながら、「計画」の高度化を通じて、安全で持続可能な社会インフラを支える仕組みづくりに取り組んでまいります。

