【創作大賞2026】応募作品 / 母よ、あなたは美しい
ぼくの母は、今年56歳。に、なった。
ぼくの家から、電車で3駅離れたアパートで
1人で暮らしている。
父はいない。
物心ついた時からずっといない。
母は、自宅近所のスーパーの鮮魚コーナーで
パートをしている。
ほぼ毎日、誰かの夕飯のサバを捌く。
昔は相当ヤンチャしてたらしい。
女番長ってやつ。
「昔のアタシに会ったら、あんた、確実に
シメられてたと思うで」
怒ったとき、そう真顔で言うくらいには
ヤンチャだったらしい。
その人が、女手ひとつでぼくを育ててくれた。
すごいよな。
本当にすごいことだと思う。
でも最近の母は、ちょっと違う。
ボーっとしてる時間が増えた。
天然なエピソードが増えた。
疲れてるんだな。たぶん。
ぼくは職場のおばちゃんから、
よく1人で行く銭湯の無料券をもらった。
「これ使こてゆっくりしておいで」って。
ぼくを気に入ってもらえてるんだと思う。
何回もくれる。嬉しい。
それで思った。
これ、母と行こう。
日曜。母と調整して休みを合わせた。
朝から母を迎えに行って、最寄り駅から
銭湯まで出てる送迎バスに2人で乗った。
バスの中、母はずっと外見てた。
口数が少ない。やはり、少し
ボーっとしてる。疲れてるのかな。
銭湯に着いた。
そしたら早速、母がやらかした。
脱衣所に入るなり、
「あれ?ここ模様替えした?
ロッカーの場所変わってへん?」
って真顔で聞いてきた。
______母ちゃん。
あんた、ここ来るの初めてやで。
母、固まる。
「・・せやったわ」
タハハ。
湯は、めちゃくちゃ気持ちよかった。
熱い湯船に浸かるなり、母が、
「あんたも大きなったなあ」って言いながら
両手でおっぱい揉んできた。
______母ちゃん。
・・今更かよ。
母の肩が、なんだか小さく見えた気がした。
湯上がり、フードコートへ。
普段は値段気にして、1人の時は利用しない。
でも、そこのお蕎麦とうどんが美味いって
おばちゃんがゆってたから、母に食べて
欲しくて楽しみにしてた。
すると・・・
座った瞬間、目の前の大きなTVモニターで
サッカーワールドカップ、
日本対チュニジア戦が始まった。
ぼくも母も、サッカーのことなんて
ほぼ何も知らない。
オフサイドって何?何点取ったら勝ちなん?
そういうレベル。
それなのに・・
日本がゴールを決めるたびに、
フードコート中から拍手と歓声。
いつのまにか、母もつられて立ち上がって
叫んでた。
「やったあああ!!!」
______母ちゃん。
どうした?
まあ楽しそうだし、いいか・・
そう思って見ていたら、しばらくして
事件が起きた。
母、急にしょんぼり。ぼくにこう言った。
「なんか、チュニジアさん全然、
点入らへんなあ。かわいそうやから
アタシそろそろチュニジアさん応援するわ」
______母ちゃん。
チュニジアさん、って・・💦
そして、母はそこから本気で
チュニジア代表を応援し始めた。
日本のゴールが決まるたびに「あー・・」って
言いながら肩を落とす母。
ガチでへこんでた。
ぼくは、麺がのびていくのを見ながら、
周りのお客さんの反感をかわないか、
ビクビクしていた。
______母ちゃん。
シ、シイー・・🤫💦
何回も言った。
結局試合が終わる頃には、お昼ご飯の
はずが、ほぼ夕方になっていた。
のびたお蕎麦を食べて、母、一言。
「美味いやん♡」
今日一、ご機嫌だった。
・・チュニジアさん、完敗だったのに。笑
母を家まで送って、ぼくは1人、帰宅途中に
ある図書館でこれを書いている。
ここからは、ちょっとだけ真面目な話。
実は母は今、ある病気を抱えている。
詳しくは、ここには書かない。
もしかしたら、近いうちに入院することに
なるかもしれない。しないかもしれない。
まだまだ若いし。きっと大丈夫。
母は何も言わない。
いつも通り、天然な顔して笑ってる。
でも、ぼくは知ってる。
ぼくは今、職場の都合で1人暮らしをしてる。
でも最近は、
近い将来、母と一緒に暮らすことを、
本気で計画している。
別に大げさなことじゃない。
ただ、近くにいたいだけ。
それだけ。
______母ちゃん。
ヤンチャで、女番長で、天然で、ちょっと
抜けてて、でも、ぼくを1人でちゃんと
育ててくれた人。
チュニジアさんみたいに、
「劣勢になってる方」を応援する人。
優しさをありがとう。
母よ、あなたは美しい。
タハハ。

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