【ショートショート】flash fiction kiss / 創作大賞2026 / オールカテゴリ部門 / 応募作品
flash fiction kiss〜
「なぁ、あんた。
うちのことほんまに口説けると思ってるん?」
北新地の夜_____。
雨上がりのアスファルトが街灯を反射して、
毒々しいほどに光っている。
私は、隣にいる「シュッとした」男の横顔を
盗み見た。
高級そうなスーツの袖から覗く手首には、私の
月収を軽く超えるであろう時計が光っている。
「口説くなんて、そんな大層な。ただ、君と
過ごす時間がもう少しだけ長ければいいと思って
いるだけやで。」
男は、いかにも「慣れている」風の、嫌味のない
セリフで返してきた。
その完璧なエスコートも、少し冷えた指先を
絡めてくるタイミングも、何から何まで計算
され尽くしているようで逆に可笑しくなって
くる。
「ふーん。お金持ちの人はみんなそんなスカした
こと言うんや」
私はわざと冷たく突き放しながらも、彼の手を
ほどくことはしなかった。
彼の運転する高級車に乗り込むと、香水の匂いが鼻をくすぐった_____都会の夜の匂い。
そこには愛なんて欠片もないけれど、この
瞬間だけは、まるで映画のヒロインにでも
なったような錯覚を楽しめる。
車は環状線へと駆け上がり、深夜の静寂を切り
裂いていく。
オレンジ色のナトリウムランプが、一定の
リズムで車内を明滅させ、彼の瞳に怪しい光を
宿らせる。
カーブを曲がるたびに重なる視線。
彼の手が私の膝に滑り、熱が伝わる。
「なあ、このまま終わるのは惜しいと
思わへんか」
静かな声は低く、耳元で震えてぞくぞくした。
私は「余裕のあるフリ」をしてふっと鼻で笑う。
「ええよ。でもうち、絶対忘れられへんような『特別』やないと、すぐに飽きてまうで」
彼は満足げに口角を上げた。
そして突然、アクセルを深く踏み込んだ____
「じゃあ最高の『特別』をプレゼントしたる」
スピードが上がる。
夜景が光の線になって後ろへ流れていく。
彼が左手で私の顎をクイッと持ち上げた。
顔が近づく。
時速百キロを超える、危険な角度。
私はそっと準備をした。
このスリルに完全にとろけてしまう準備を。
唇が重なった、まさにその刹那・・
_____ピカッ!!!_____
振り向く間もないほど、暴力的なまでの純白の
光が、私たちの顔を真正面から焼き付けた。
「・・えっ!?」
私が呆然とする中、彼は満足そうにブレーキを
踏み、車を路肩の非常駐車帯へ寄せた。
彼は懐からスマートフォンを取り出し、何やら
手慣れた様子で画面を操作している。
・・?
さっきまでの情熱的な空気はどこへやら____
「完璧や。最高のアングルやで。」
「今の何なん?撮影?」
私が尋ねると、彼は子供のような無邪気な
笑顔で、私にスマートフォンの画面を見せて
きた。
そこには、設置されていた「オービス(自動速度違反取締装置)」が、私たちの「キスの横顔」を鮮明に、かつ高画質で捉えた通知画面が表示されていた。
「これな。警察のデータベースから高精細で
落とせる裏技があるんや。
プロのカメラマンでも撮れない『エモい』
写真が撮れたで。」
彼はそう言って、私の腰に手を回し、そっと
抱き寄せて私を見つめた。
「君との出会いを、公的な記録として残して
おきたかったんや。
あ、反則金の手続きは、明日僕の秘書に
やらせるから心配せんでええ。」
まさかのカミングアウト。
私は乾いた笑い声を上げた。
__ああ、確かにこれは『特別』やわ____。
深夜の高速道路。
数万円の反則金と引き換えに記録された、ほんの一瞬の罪とラブロマンス。
「あんた、ほんまに最低で、最高にシュールな
男やな」
私は彼に、今度は自分から熱いキスをした。

明日には、データベースの中で私たちは永遠に
結ばれている__________。
end
あとがき_____
ショートショートという「一瞬」の文学
(注:個人的な視点)
ショートショートとは、一言で言えば
「最も純度の高い、物語の閃光」です。
数ページ、あるいは数百字という極限まで
削ぎ落とされた言葉の中に、日常をひっくり
返すような驚きや、余韻を閉じ込める・・
それは、長い小説を読み解く時間のない
現代において、一瞬で心を奪う、
「文学のショートカクテル」のような存在です。
「flash fiction kiss」に込めた3つの意味
今回のタイトルには、著者なりの「願望」と
「遊び心」を3つ込めました。
flash_____一瞬の非日常
オービスの白光。
それは、無機質な「罪の記録」であると同時に、都会の喧騒の中で二人が「恋人」として焼き付けられた、【瞬間の永遠】を象徴しています。
fiction_____嘘の魔法
この物語は、北新地の夜風や阪神高速の
スリルが生み出した完全な作り話です。
けれど、その嘘(フィクション)の中にこそ、
現実では味わえない【ロマンス】を潜ませ
ました。
flash fiction kiss_____偏愛と願望
「Flash Fiction」は、実は、英語圏での
ショートショートを意味する固有名詞の一つ。
ぼくはこの形式を愛してやみません。
現実は時に退屈で残酷ですが、物語の中では
誰もが、閃光のような接吻(キス)とともに、
日常という檻を飛び越えられる。
これはぼくのショートショートへのラブレター
であり、読者の皆さんと、
【一瞬の非日常的ロマンス】を共有したい
という、著者としての願望の形です。
⚠️最後に
お伝えした通り、完全なるフィクションです。
危険運転を推奨するものではありませんし、
オービスの写真を入手する裏技も架空の設定
です。
現実の道路交通法はロマンスよりも重く遵守
しましょう。
法を犯していいのは、フィクションという檻の
中だけ。
そんな「想像の毒気」をご理解ください。
・・高速ぶっ飛ばしながらチューとか、
絶対あかんよね・・・汗
でも、読んでくれてありがとう。
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それが、ぼくの「愛」と「エモ」を育むエネルギーです。もし「もっと感動を!」と感じてくれたら、チップで応援を。未だ見ぬエモい景色をお届けします!心からの愛を込めて♡