友情とでらべっぴんを天秤にかけるやつ
あの日、僕らには“どうしても見たいもの”がありました。
それは、見てしまったらもう子供には戻れないもの。──エロ本です。 でも、それ以上に大事なものもあると、僕たちはその夜、知りました。
駅前の“謎の自販機”
中学1年のある日。 友達のかやんが、塾の帰りにこう言いました。
「駅前の雑貨屋の横の自販機な……でらべっぴん売ってるらしいで」
えっ。
「自販機やから誰にもバレへん。買ってきたろか?」
一瞬で、僕たち全員テンションMAX。
メンバーは、僕、たったん、岩田、そして初登場のくわっちゃん。 みんなでお金を出し合い、かやんに“任務”を託すことになりました。
その日の夕方、僕たちは中央公園で、かやんの帰りを待っていました。
バスから泣きながら降りてきた勇者
バスが到着。 そこにいたのは……肩を落とし、明らかに様子がおかしいかやん。
「うえーーーん、ごめーーーん!! お金入れたのに、でらべっぴん出てけぇへんかったーーー!!」
雑貨屋のおっちゃんにも言ったけど、 「ほんまに入れたんか?」と疑われて返金もされず、 かやんは泣きながら帰ってきたのです。
僕たちはガックリ。 でもそれより目の前で泣いてる友達の姿に、なんとかしてやりたいと思いました。
くわっちゃんの静かな怒り
「かやん、謝らんでええよ。悪いんは雑貨屋のおっさんや。あとで文句言いふらしといたるから。それより、花火しよーや!」
──流石たったん、ナイスフォロー!
僕も花火を手渡しました。 ……が、
一人だけ、うつむいたまま動かないやつがいます。 くわっちゃんです。
「くわっちゃん、どうしたん? 花火しようや」
「……やらん」
「え、なんで?」
そう聞くとくわちゃんは
唇から血が滲むほどの悔しそうな顔で呟いた。
「俺が欲しいのはただ1つ................でらべっぴん」
ええええええーーーーっ!?
フォロー台無しーーーー!!
友達よりエロ本優先タイプーーーーー!!
打ち上がったのは、空気と花火
その一言に、かやん再び大号泣。
「え〜ん、ごめ〜ん。くわちゃーん。」
そのとき、岩田がまさかの追いうちをかける。
「ごめんって、何に対して謝ってるん?」
やめてーー!!岩田のバカーー!!
お母さんの言葉をそのまま引用してるー!!
……空気が最悪になりかけたその時、たったんが動きました。
「パラシュート行くでーーーー!!」
ドーーーーン!!!
打ち上げ花火が夜空に咲き、パラシュートがふわっと落ちてきました。
僕たちは一斉にダッシュ。
エロ本なんて忘れて、花火を追いかけていました。
そして、今も思い出す
目的は達成できなかったけど、 あの夜の空気、友達の涙、笑い声、火薬のにおい──
なんか、全部覚えてるんです。
……今でも、パラシュートを見ると思い出します。 あの日、僕らが“まだ子供”やったこと。
そして、ちゃんと“なにか”が残っていたことを。
