8月も少しずつ終わりに近づいています。
昼間はまだ夏の暑さが残っていますが、ふとした瞬間に秋の気配を感じるようになってきました。
光が少しずつ変わり、
お店には秋の新しいコレクションが並び始め、
自然と手に取りたくなる色も、明るい夏色から、深みのある複雑な色へと変わっていきます。
毎シーズン、「今年のトレンドカラー」が発表されます。
でも、そんな色を見るとき、私が気になるのは、
「今、何色が流行っているの?」
ということだけではありません。
それよりも、
「この色が“糸”になったら、どんな表情になるだろう?」
と考えるのが好きです。
同じ色でも、滑らかな布の上で見るのと、柔らかなカシミヤ、毛足のあるアルパカ、さらりとしたリネンの上で見るのとでは、まるで別の色のように感じることがあります。
そして、この秋は特にこんな色の糸に出会いたいと思っています。
深みのあるグリーン
鮮やかなエメラルドグリーンではありません。
針葉樹の葉。
苔。
深い森。
雨に濡れた葉。
そんな自然を思わせるグリーンです。
一目見ただけでは、グリーンなのか、グレーなのか、あるいは少しブラウンが混ざっているのか分からない。
私は、そんな複雑なグリーンが好きです。
ウールになると、とても温かみのある印象に。
カシミヤなら、静かで上品に。
毛足のあるアルパカなら、写真ではなかなか伝えきれないほどの奥行きが生まれます。
ミルクホワイト、ベージュ、チョコレートブラウン、グレー、ブラックとも合わせやすい色。
この秋のニットでは、こうした深みのあるグリーンがとても美しく見える気がしています。
ワイン、プラム、深いベリーカラー
秋になると、なぜかまた惹かれるのがワイン系の色です。
でも今、特に気になるのは、はっきりとしたボルドーではありません。
少しブラウンを含んだ色。
少し紫やグレーを感じる色。
夕暮れの光の中で見る赤ワイン。
熟したプラム。
ダークチェリー。
黒に近いほど深いベリー。
そんな色です。
細く滑らかなウールなら、とてもエレガントに。
そこにカシミヤやアルパカのような繊細な毛羽が加わると、色そのものがさらに深く見える気がします。
Dusty Rose ― 少し大人になったピンク
ピンクは春だけの色ではありません。
秋になると私が惹かれるのは、少し色褪せたバラのようなピンク。
くすみがあり、少しブラウンやグレーを含んだ色です。
そんなピンクは、もう「甘い色」には見えません。
チョコレートブラウン。
チャコールグレー。
ミルクホワイト。
カーキ。
深いグリーン。
そんな秋の色とも、とてもよく似合います。
特に、光沢の強くない柔らかなマットな糸で見てみたい色です。
色が表面で主張するのではなく、編地の中に静かに溶け込んでいるような。
そんなダスティローズに惹かれます。
チョコレートと大地の色
今、ブラウンという色がとても美しく見えます。
そして天然繊維には、驚くほどたくさんのブラウンがあります。
ビターチョコレート。
ココア。
カフェオレ。
木の樹皮。
雨に濡れた土。
キャメル。
温かみのあるナッツブラウン。
そして時には、染めて作った色よりも、素材そのものが持っている色が一番美しいことがあります。
ヤクやキャメル、一部のウールが持つ天然の色には、人工的に再現するのが難しい奥行きがあります。
だからこそ、秋になるとより魅力的に感じるのかもしれません。
「ただのグレー」ではないグレー
美しいグレーは、単純に黒と白を混ぜただけの色ではないと思っています。
ほんの少しブルーが入っていたり。
グリーンを感じたり。
ブラウンや紫が隠れていたり。
その「ほとんど見えない色」があることで、グレーはぐっと面白くなります。
特に好きなのは、メランジのグレー。
異なる色の繊維が混ざることで、自然な色の揺らぎが生まれます。
少し離れて見ると、グレー。
でも近くで見ると、その中にたくさんの小さな色が見える。
シンプルなセーターやカーディガンなら、それだけでも十分に美しいと思います。
そして、季節を超えて残る色
ミルクホワイト。
真っ白ではなく、天然繊維のような柔らかな白です。
クリーム。
オーツミルク。
無漂白のウール。
温かみのあるアイボリー。
秋の深い色が並ぶ中で、こうした色が少し入るだけで、空気が生まれるように感じます。
そしてこの色は、糸そのものの質感を主役にしたいときに特に美しい。
ケーブル模様。
リブ編み。
ふっくらとした編地。
あるいは、とても美しい素材を使ったシンプルなメリヤス編み。
色が静かだからこそ、糸の表情がよく見えます。
なぜ私はトレンドを見るのか
「今年のトレンドカラーだから」という理由だけで糸を選ぶ必要はないと思っています。
糸は、一つのシーズンよりもずっと長く私たちのそばにあるものだからです。
今日買った糸を、数か月後に編み始めるかもしれません。
そして完成した服は、その先何年も着るかもしれません。
だから私にとってトレンドは、何かを買うためのルールではありません。
むしろ、周りをもう一度ゆっくり見てみるためのきっかけです。
今まで気づかなかった色を見つけたり。
以前なら通り過ぎていた色に、もう一度目を向けたり。
違う素材になった姿を想像したり。
私は「今年のトレンドカラーそのもの」を探すより、その色の少し複雑で、少し意外な表情に出会いたいと思っています。
ただのグリーンではなく、グレーと土の色を含んだグリーン。
ただのピンクではなく、乾いた花びらのようなピンク。
ただのブラウンではなく、繊維そのものが持つ自然なブラウン。
この秋、私が探したいのは、きっとそんな色です。
トレンドはいつか終わります。
でも、大好きなセーターの美しい色は、それよりずっと長く私たちのそばに残ってくれると思うからです。
