ストレス源から逃げることで、ストレスに強くなった こころのケアのおはなし⑨
「もっとストレスに強かったら……」
そう思って、自分を責めてしまうことはありますか?
私には何度もあります。
小・中学生の頃はいじめを受け、両親に相談しても「気持ちを強く持て」「反発しろ」と根性論で返されてきました。
私は、「心の強い人になりたい」と長く願い続けてきました。
大人になってからは、退職者が相次ぐ職場でのハラスメント。
私は心身ともに限界を迎え、適応障害と診断され、退職を選びました。
「もうダメだ」と思いました。自分はやっぱり弱いのだと。
ですが少しずつ時間が経って、「もしかしたら今の私は、前よりもしなやかになってきている」「退職という経験をしたからこそ、逆に強くなってきている」と感じるようになりました。
今回は健康心理学での概念を用いりながら、ストレスに対する強さについて、考えをまとめていきたいと思います。
ストレスへの弱さに悩む方々に、ストレスに強くなることへのヒントになればうれしいです。
ストレスの強さに関連した2つの概念
心理学では、「ストレス対処するための力」として、ハーディネスとレジリエンスという2つの概念があります。
ハーディネス -折れにくい心の土台-
ハーディネスは、強いストレスや困難に直面しても、心がすぐには崩れず、前向きに物事に向き合おうとする「耐える力」や「基礎的な打たれ強さ」のことです。
この力は次の3つの要素で構成されています。
➀コミットメント:人生や仕事に前向きに関わろうとする姿勢
➁コントロール:「自分にできることがある」と思える感覚
③チャレンジ:困難や変化を成長のきっかけと捉える柔軟
これらが備わっていると、ストレスに対して根本的に「折れにくい」心を持つことができると言われています。
レジリエンス -一度折れても、戻ってこれる力-
一度倒れても、もう一度立ち上がって前に進んでいける“しなやかな強さ”のことです。
レジリエンスには、4つの要素があります。
➀感情のコントロール:不安や落ち込みの中でも自分を保てること
➁自己効力感:「自分ならなんとかなる」と信じられる気持ち
③社会的つながり:誰かに話を聞いてもらえる環境
④意味づけ:つらい経験に、自分なりの意味を見出す力
この二つの関係性 -ハーディネス→レジリエンス→ストレスへの適応-
最近の心理学では、ハーディネスとレジリエンスは、ひと続きのプロセスの中で働いていると考えられています。
具体的には、次のような流れが示されています。
ハーディネスは「最初の土台」としてストレスに対する防御の役割を果たします。
ハーディネスが揺らぐような大きなストレスがあったとき、私たちは一度心が崩れることもあります。そのときにレジリエンスが重要になります。レジリエンスから、少しずつ心を回復させることができるのです。
そのプロセスを通じて、人は「適応力」を取り戻していきます。
ここでいう適応とは、何かに合わせて無理をすることではなく、
自分らしく、自然体で、その場所に“いられる”ことです。
私の休職→退職経験から感じること
ポジティブでなくても、闘争心がなくても、ストレス耐性が付く
私はポジティブではありません。比較的ネガティブなのは変わらずです。
パワハラをした相手への反骨精神も、正直あまりありません。
寧ろ、その相手と関わること自体が不快でしかなかったので、退職によって縁が切れたことに、ほっとしています。
ですが、今回の件を通して、明確に思っていることがあります。
パワハラ上長のように、扱いづらい人・気に入らない人だと思った相手をぞんざいに扱うような人間は、反面教師にしかできない。そうなりたくはない。
体調を崩したのは、自分が仕事を抱えすぎていたのもある。私は抱え込みやすいけど、限界があるってことを痛感することが出来た。
経験から明確な学びや、こうしたい・こうなりたいと思えることを得られた、と考えています。
レジリエンスの要素、「意味付け」に近いものではないでしょうか。
体調を崩してしまったので、代償は大きいですがね…。
挫折・心が折れる経験は、ストレス耐性がつくきっかけ
逆境は、私たちの中にある「強くなる力」を引き出してくれるきっかけにもなり得ると思えます。
ポジティブでなくても、負けん気がなくても、ストレスに強くなれる。
折れない硬さではなく、折れても戻れる“しなやかさ”を得るのだと思います。
心をすり減らすような環境に長くいれば、限界がきます。
私自身も持つハーディネスが弱くなってしまいました。
でも崩れてしまった経験から、私の中に少しずつ、しなやかに立ち直る力=レジリエンスを育ててくれたのだと、今では思えるようになりました。
実際に過去の研究でも、私の感想と似たことを示唆しています。
心理学者エミー・マステンは、レジリエンスを“ordinary magic(ありふれた魔法)”と表現しました。「レジリエンスとは特別な才能ではなく、誰もが日常の中で育てていける力である」と。
失敗や挫折、心が折れそうになる体験を通してこそ、人は自分の中にある“立ち直る力”を発見し、育てていくことができる。
レジリエンスが身につくと、ハーディネスも回復する
もう一度やっていこうと思える“しなやかな心”を持てること。
その心を育ててくれる人や場所とのつながりを大切にする。
そのことでレジリエンスが強化し、そこからハーディネスの力も回復するのではないかと思えます。
実際にハーディネスは後天的な体験を通して身に付けられると、過去の研究から示唆されています。
心理学者スザンヌ・コバサ(Kobasa, 1979)は、はじめ、ハーディネスを「性格的特性」として説明しました。
しかしその後の研究で、ストレスの体験や意味づけ、教育的介入を通して、ハーディネスは後天的にも高められるという可能性が示唆しています。
心理学者サルバトーレ・マッディ(Maddi, 2002)は、実際のストレス場面におけるハーディネス・トレーニングを行い、
「ハーディネスは学習や経験によって強化できる可塑的な資質である」と提言しました。
Maddi, S. R. (2002). The story of hardiness: Twenty years of theorizing, research, and practice. Consulting Psychology Journal: Practice and Research, 54(3), 175–185.
レジリエンスの成長回復に必須な要素2つ
研究内では、レジリエンスが成長するためには、2つの要素が必要だと述べています。
長年、逆境における発達を研究してきたエミー・ワーナー(Werner, 1992)やマイケル・ラター(Rutter, 1985)は、
レジリエンスの形成には、「安心できる人間関係」や「安全な居場所」が中核になることを示しています。
ワーナーのハワイにおける追跡研究では、幼少期に大きな困難に直面した子どもたちの中でも、少数ながら健やかに成長していった子どもたちには共通して、信頼できる大人や、受け入れてくれる環境との出会いがあったと述べています。
Rutter, M. (1985). Resilience in the face of adversity: Protective factors and resistance to psychiatric disorder. British Journal of Psychiatry, 147(6), 598–611.
私の経験からもこの知見はしっくりと来ます。
休職以降、誰かに話を聞いてもらえたこと。安心できる環境に身を置けたこと。「もう頑張らなくてもいいよ」と言ってくれる人がいたこと。そうした支えの中で、私の中に、少しずつ回復していく心の力が芽生えてきました。
危機的な状況では、この2つの要素があるかないかで、挫折から立ち直れるかに直結するように考えます。これらの要素が得られない場合、最悪社会との断絶、引きこもり問題に発展する危険性があると考えます。
また自分にあわない人間関係や居場所では、レジリエンスが育たないとも考えることが出来ます。
ストレスに押しつぶされそうなとき、それがあなたの心の弱さのせいではなく、ただ「その場所が、あなたに合っていなかっただけ」です。
限界を感じたなら、逃げていい。立ち止まってもいい。助けを求めていい。環境が合っていれば、人は試行錯誤しながらでも、必ず乗り越えていけます。
おわりに -ストレスに立ち向かうだけで、耐性は高まる-
もし今、あなたが「もう限界かもしれない」と感じていたら、
どうか、無理をしないでください。心が壊れてしまう前に逃げてください。
あなたは、すでに“戦ってきた”人です。
経験の中に、きっとこれからの「強さ」の種があります。
