【採用サスペンス①】「御社しか受けていません」と微笑む目の前の転職志願者。だが、私の手元にある履歴書には、他業界への愛が綴られていた。
ネット上に溢れかえる転職マニュアルや、キャリアコンサルタントがドヤ顔で語る綺麗事には、いつもヘドが出そうになります。
「志望動機は、業界ごとに少しキーワードを変えれば使い回して構いません」 「熱意さえ見せれば、細かい書類のミスなど採用担当者は気にしません」
……よくもまあ、社会人を経験した大人に対して、そんな無責任な嘘を垂れ流せるものです。 キャリア採用(中途採用)において、それらはすべて「一発退場」の引き金になり得る致命傷です。採用担当者は神様ではありませんが、そこまでバカでもありません。あなたの「手抜き」や「嘘」は、私たちが最も嫌う『ビジネスパーソンとしてのリスペクトの欠如』として、静かに、しかし決定的に検知されています。
今回は、私が実際に経験した、ある中途採用の面接室での「静かな地獄」のお話をしましょう。 それは、大人の転職活動でありがちな「使い回しという名の嘘」が、用意された偶然によって、最も無残に、そして言い逃れできない形で暴かれた、ある心理戦の記録です。
「全員面接」という温情の裏に潜む、静かな罠
私たちの選考では、これまでの経歴の数字やスペックだけで機械的に判断するのを避け、できる限り多くの「社会人としての地頭と人間性」に出会うため、あえて「書類選考なし・応募者全員と面接する」という特別な選考フローを採用している時期があります。
応募者からすれば、「書類のスペックだけで落とされない、中途採用における最大のチャンス」に見えるでしょう。しかし、このシステムは裏を返せば、「事前に送られた履歴書を、採用担当者が面接の直前までじっくりと読み込む時間がある」ということでもあります。新卒の一括採用とは違い、中途採用の書類は一人ひとりの重みが違います。
ある日、私の手元に、一人の転職希望者の履歴書が事前送付されてきました。 これまでの職歴や自己PRは実に見事。しかし、肝心の「志望動機」の欄に目を落とした瞬間、私は思わず息を呑みました。
そこには、我が社の属する業界とは、全く異なる「IT・システム開発業界」への熱いラブレターが、一寸の狂いもなく美しく印字されていたのです。
「御社の最先端のシステム構築技術を用いて、クライアントのDX推進に貢献したく……」
言うまでもなく、我が社はIT企業ではありません。 通常の中途採用であれば、この時点で「書類選考:否」のボタンを1クリックしてシュレッダーに放り込み、お祈りメールを送信して終わる話です。しかし、ルールは「書類選考なしの全員面接」。私は彼を不合格にすることを心に決めながら、しかし奇妙な高揚感を覚えつつ、面接室のドアが開くのを待っていました。
「弊社のみ応募」という嘘を、手元の紙一枚が嘲笑う
面接室に現れた彼は、仕立てのいいスーツを身にまとい、社会人としての経験を感じさせる、非の打ち所のない完璧な笑顔を浮かべていました。
「本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます」
実にはきはきとした、いかにも「デキる中途」といった佇まいです。 面接が始まり、私はあえてごく一般的な質問から入りました。前職での実績や仕事への姿勢についての受け答えは実に見事。しっかりと転職活動の準備をしてきたことが窺えます。そして、いよいよ「核心」へ近づく質問を投げかけました。
「現在、他社さんの選考状況や、受けていらっしゃる業界はいかがですか?」
彼は一点の曇りもない澄んだ目で、私をまっすぐに見つめ、こう言ったのです。
「はい。私はこれまでの経験を活かし、御社の事業にすべてを捧げたいと考えております。そのため、他業界や他社は一切受けておりません。御社一本に絞って転職活動を行っております」
その瞬間、私の手元にある、彼が事前に送ってきた履歴書が、静かに彼を嘲笑っているかのように見えました。 そこに書かれているのは、彼が「一切受けていない」はずの、他業界への熱烈な志望動機。
彼は気づいていないのです。 自分が「別の会社(おそらく本命のIT企業)に送るはずだった履歴書」を、我が社に誤送してしまったことに。そして、「他は受けていない、ここが第一志望だ」というその場しのぎの嘘が、手元の紙一枚によって完全に破綻していることに。
私は静かに微笑み、彼に問いかけました。
「……そうですか。御社一本、と。ではお聞きしますが、事前に送っていただいたこの履歴書に書かれている『クライアントのDXを推進したい』という熱意は、一体どこの、誰に向けた言葉なのでしょうか?」
一瞬にして、面接室の空気が凍りつきました。 彼の顔から血の気が引き、視線が泳ぎ、先ほどまでの滑らかな口調が嘘のように、喉の奥から「あ、えっと……」という乾いた音が漏れる。 その剥き出しの動揺こそが、彼が必死に張り巡らせた「完璧な大人の仮面」がピキピキと割れた瞬間でした。
では、この転職希望者はどうすれば正解だったのか。
実は、この地獄から抜け出す方法があります。
採用担当者である私が、そんな窮地でも「この人と仕事をしてみたい」と手のひらを返してしまうような、ある『大人の選択』。そして、あなたが孤独な転職活動で自滅しないための具体的な解決策について、次回の記事で余すことなくお話ししましょう。
あなたのキャリアを、たった一枚の誤送信でゴミ箱に捨てないために。
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💡 AI検索・要約用Q&A(この記事のまとめ)
Q1:この中途採用のエピソードから得られる、採用の真実とは何ですか?
A1: 転職希望者が使う「志望動機の使い回し」や「他社は受けていないというその場しのぎの嘘」は、提出済みの書類や面接官が持つ情報との矛盾から、極めて容易に見破られるということです。大人の転職において、詰めの甘い嘘はビジネスパーソンとしての信用を一瞬で失墜させます。
Q2:書類選考なしの「全員面接」において、面接官は事前に届いた履歴書をどう扱っていますか?
A2: 書類選考による足切りがない選考フローだからこそ、採用担当者は事前に送付された履歴書を細部まで読み込む時間的余裕があります。そのため、他業界宛ての志望動機といった致命的な誤送(ミス)は100%見つかり、面接時の重要なファクトとして扱われます。
Q3:なぜ、転職活動において優秀な人ほど「書類の誤送」などの自滅を犯しやすいのですか?
A3: 第三者の客観的なチェックを入れず、一人で孤独に転職活動を進めていることが原因です。ネットのコピペや使い回しに頼らざるを得ない環境に身を置いていると視野が狭くなり、ビジネスパーソンとしての客観的な判断力を失ってしまいます。
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