君の道どこまでも真っ直ぐ伸びていて道先案内もう要らないね
昨夜は息子の好物ばかりを食卓に並べて、ふたりで食べた。もう暫くはこんなことも無いのかな、とおいらが言ったら「ちょくちょく来るよ」なんて言ってはくれたけど、慰めてくれたんだろうなと思った。
今朝、忙しく荷造りしていた息子が急に静かになったなと思っていたら、泣きながら部屋に入ってきて、「時間無くてなあなあになるの嫌だから」と言って、真っ赤な目をして、ほとほと涙を流しながら「今まで育ててくれてありがとう」と言ってくれた。それでおいらはたいした相槌も打てず「うん、うん」「泣かないで、お願い」としか言えず、そのまま二人でぎゅっとハグしてた。息子の体温があったかかった。こんなふうにハグしたのなんて、最後はたぶん小学生くらいの頃。大人になった息子と、旅立ちの日にこうしてハグ出来るなんて思ってなくて。
だから嬉しくて、ただ嬉しくて。
その後バタバタと引越し屋さんが荷物を搬出してくれて、息子も玄関からひとり出掛けて行った。
出る時に親指を立てた拳をごつんとさせて、「行ってらっしゃい」を言った。おいらは笑顔でいたつもりだったけど、ちゃんと笑えていたかは自信が無い。きっと不格好な笑顔だった。
そうして息子はひとり、暑い外へと出掛けていった。
夫が早くに亡くなったから我が家はずっと母子ふたり暮らしで、息子にたくさん笑わせて貰っては日々を暮らしてきた。23歳。来月には24歳になる息子。4月から新卒で働き始めて新任研修が漸く終わり、配属先も決まったところ。ここまで来るのにだいぶん廻り道をした子だった。でもおいらはそんなんマイナスだなんて捉えてなくて、廻り道をした分だけいろいろ見えてくるものもあるだろうさくらいにしか思ってなくて。息子は焦ったりしたこともあったかもしれないけど、不安をあまり表に出さない子だったな。そうして今日、立派に旅立ちの日を迎えた。独り立ちをした。
自分で探した物件はなかなかに優良物件で運が良かった。きっと日々を忙しく過ごしながらもきちんと暮らしていくだろう。
おいら親らしいこと殆ど出来なかった。ありがとうなんて言って貰えるような立派な親ではない。それでも出来る限りのことを教えてどうにか道先案内人の務めを果たせたと思う。
これから息子はひとりで道を決めて歩いて行く。行先を見晴るかしては一歩一歩踏みしめて歩いてくだろう。あんまり心配はしていない。真面目だし、道を踏み外すようなことはしないと信じてる。それでも祈ってる。前途には出来るだけ楽しいことがあるように。真っ直ぐに伸びた道を、偶に廻り道しながら、でもおもしろおかしく暢気に歩いて、たくさんの眺めを楽しんでいけたらいい。そして心の豊かな人になってほしい。もう親の案内は必要ない。うちの子は自分で歩いて行ける子だ。そんなふうに育ってくれた。ありがとうはおいらの台詞だ。
行ってらっしゃい。
気をつけてね。
