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空き家税を始める前に、「空き家」の定義を決めませんか。課税される家・されない家の境界線

先日、朝日新聞さんの取材を受けた件が掲載されてました。

この中でも市長さんが話していたように、次はどの空き家に課税してどの空き家には課税しないのか、という問題が出てきます。
今回の寝屋川市の線引きは今後の空き家税の方向性を決めると思うので注目です。

そしてニュースを見た方から、さっそくいくつか声が届いています。

いちばん多いのが、これです。

「うちの実家も、今後課税されるんでしょうか」

親が施設に入って、実家には誰も住んでいない。
転勤で数年だけ家を空けている。
相続したばかりで、兄弟とまだ話し合っている。
売りに出しているけれど、買い手が見つからない。
月に一度、草を刈りに通っている。

どれも、身に覚えのある光景だと思います。

そして、こうした家をぜんぶ「空き家」とひとくくりにして課税してよいのか、というと、ぼくはそう思いません。

今日はこんなことを書きたいと思います。

空き家税の議論は、どうしても税率の話に集まります。
何パーセントなのか、いくら取られるのか。でも、本当に大事なのはそこじゃない気がしています。

大事なのは、どこからが課税される家で、どこまでが課税されない家なのか。つまり、定義です。

寝屋川市は第一号です。
ということは、これから他の自治体でも同じ議論が始まる可能性があります。だからこそ、今のうちに考えておきたい。

「空き家」という言葉は、実はけっこう曖昧です

まず、いまの法律を確認しておきます。

空家等対策特別措置法では、空家等をこんなふうに定義しています。
ものすごくざっくりいうと、「居住やその他の使用がされていない状態が、ふつうになっている建物と、その土地」です。

国の基本指針では、「ふつうになっている」の目安として、おおむね一年を通じて使われていないこと、が示されています。

ただ、ここで気をつけたいのは、ひとつの情報だけで空き家かどうかを決めるわけではない、ということです。

人の出入りはあるか。
電気やガス、水道は使われているか。
住民票はどうなっているか。
登記はどうか。
郵便物はたまっていないか。
建物はどう管理されているか。
所有者はなんと説明しているか。
売却や賃貸の動きはあるか。

こういったものを組み合わせて、総合的に判断します。

つまり「住民票がないから空き家」「水道を止めているから空き家」と、一発で決まるものではないんですね。

ここ、意外と知られていない気がします。

よく言われる整理と、そこに感じる違和感

空き家税の話になると、たいていこう説明されます。

「使われていない家に税をかけて、市場に出るよう促す制度です」

シンプルで、わかりやすい。だから広まりやすい。
実際、都市部ではこの説明でおおむね正しいと思います。

でも、現場で所有者の話を聞いていると、この整理だけでは足りない場面によく出会います。

たとえば、お母さんが施設に入って三年目、という方。
実家には誰も住んでいません。
でも、まだお母さんは元気で、「帰りたい」と言うこともある。
だから家財も片付けていないし、売る決断もできない。
その代わり、月に一度は通って、窓を開けて、水を流している。

この家は「使われていない家」でしょうか。

法律の文言だけを見れば、たしかに使われていません。
でも、この家に税をかけて「市場に出せ」と迫ることが、政策として正しいとは、ぼくにはどうしても思えないんです。

一方で、まったく別のタイプの家もあります。

十年前に相続して、それきり一度も行っていない。
鍵がどこにあるかも分からない。
草は伸び放題で、屋根には穴が空いている。
近所からは苦情が来ているらしいけれど、連絡もつかない。

同じ「人が住んでいない家」でも、この二つはまったく違う。

空き家が悪いのではなくて、放置が問題なんです。

ぼくはずっとそう言ってきましたが、税の議論になると、この当たり前が急に見えなくなる気がしています。

とはいえ、「放置」をどう見分けるか

じゃあ「放置かどうか」で線を引けばいいじゃないか、という話になります。

その通りです。ただ、これがなかなか難しい。

というのも、所有者に聞けば、たいてい「放置しているつもりはない」と答えるからです。そして、多くの場合、それは嘘ではありません。

「いつか売るつもりです」
「そのうち片付けようと思っています」
「息子が戻ってくるかもしれなくて」

こういう言葉を、ぼくは何十回も聞いてきました。
そのたびに、責める気にはなれません。だって、本当にそう思っているんです…。

でも、五年たっても十年たっても、状況は変わっていない。

ここが、空き家問題のいちばん切ないところです。
悪意で放置している人は、ほとんどいません。みんな、迷っているだけなんです。

だからこそ、制度の側は意思ではなく、行動の跡で判断するしかないんだと思います。

「売るつもり」ではなく、媒介契約を結んで広告が出ているかどうか。
「直すつもり」ではなく、見積もりを取って工事の契約があるかどうか。「管理している」ではなく、いつ誰が行って何をしたか記録があるかどうか。

冷たく聞こえるかもしれません。
でも、これは所有者を疑うためのルールではなくて、きちんとやっている人が正しく守られるためのルールです。

行動の跡がある家は、税から外す。
跡がない家だけを、対象にする。

その線引きなら、ぼくは納得できます。

家を、五つに分けてみる

ここからが今日の本題です。

空き家をひとつの箱にまとめるから、話がおかしくなる。
ぼくは、住宅を五つの段階に分けて考えたほうがいいと思っています。

A 住んでいる家、使っている家

人が生活している。あるいは店舗や事務所として使われている。ここは説明不要ですね。

B 一時的に不在の家

転勤、入院、施設入所、家族の介護。理由があって、一時的に離れている家です。戻る可能性もあるし、家族が方針を検討している最中でもある。

C 活用の準備が進んでいる家

売却の媒介契約を結んで広告が出ている。解体の見積もりを取っている。リフォームの申請が進んでいる。相続の登記や遺産分割を進めている。要するに、次に向かって動いている家です。

D 管理されている空き家

いまは使われていないけれど、定期的に人が見に行っている。換気して、水を流して、草を刈って、郵便物を片付けている。壊れていれば直す。連絡先もはっきりしている。

E 放置されている空き家

使われていない。売る動きも貸す動きもない。管理もされていない。誰も見に行っていない。

空き家税がねらうべきなのは、Eです。ここだけです。

BもCもDも、人は住んでいません。でも、放置はされていない。

「無居住」と「放置」は、別の言葉なんです。

この五段階は、そのまま市場の地図になります

さて、ここからは事業者の方に向けた話です。

この五段階、じつはそのまま需要の地図として読めます。

寝屋川市の税が全国に広がったとして、何が起きるか。
所有者は、自分の家をEから動かそうとします。Eにいると課税されるからです。

じゃあ、どこへ動かすのか。BかCかDです。

そして、Eから抜け出すには、行動の証拠が要る。ここに需要が生まれます。

Cに動かしたい人は、不動産会社と媒介契約を結ぶ必要があります。
解体業者に見積もりを取る必要があります。
リフォーム会社に相談する必要があります。
司法書士に相続登記を頼む必要があります。

Dに動かしたい人は、管理の記録が要ります。
誰かが定期的に通って、写真を撮って、報告書を出す。
この業務は、いま空き家管理を専門にやっている会社だけのものではありません。
清掃、警備、造園、地域の工務店。すでに現場に足を運ぶ体制を持っている業種なら、いくらでも参入できます。

Bにとどまる人にも、証明が要ります。
施設入所の書類、転勤の辞令、入院の記録。これを誰が整理して、自治体に出すのか。介護事業者やケアマネジャーが、いちばん近い位置にいます。

つまり、空き家税は「証拠をつくる業務」の需要を生むんです。

これは、いままでの空き家ビジネスとは少し性格が違います。
空き家を売る、貸す、直す、という出口の話ではなくて、その手前の「動いていることを示す」という業務です。

地味ですが、確実に発生します。しかも、課税の期限があるぶん、動機がはっきりしている。

なぜ、BやCからEに落ちるのか

ただ、ここに落とし穴があります。

いま挙げた需要は、「所有者が動く」ことが前提です。でも現実には、動かない人がたくさんいる。

なぜでしょうか。

ぼくが現場で見てきたかぎり、理由はだいたい三つです。

ひとつめは、判断する人が決まっていない
兄弟が三人いて、誰も「自分が決める」と言い出さない。悪気はなくて、みんな他の二人に遠慮している。そうしているうちに、五年たつ。

ふたつめは、まだ終わっていない気持ちがある
親が施設にいる。まだ生きている。その家を売るという決断は、親の人生に区切りをつけることのように感じられる。だから、できない。

みっつめは、何から手をつければいいか分からない
家財が残っている。登記も昔のまま。誰に相談すればいいのかも分からない。分からないから、考えないようにする。

この三つは、どれも制度では解決しません。税をかけても、解決しません。

でも、事業者の視点で見ると、この三つがそのまま断層です

判断者が決まらない家には、第三者が入って整理する役割が要ります。
気持ちの区切りがつかない家には、売らずに済む選択肢。

つまりDの「管理」が要ります。何から手をつけるか分からない家には、最初の一歩を案内する人が要ります。

需要が生まれないのではなくて、需要が言葉になっていないだけなんです。

そこを言葉にできた事業者から、仕事が始まると思っています。

固定資産税の特例と、混同しないでください

ここで、ひとつ整理しておきたいことがあります。

空き家税のニュースが出ると、必ずこの質問が来ます。

「空き家にすると、固定資産税が6倍になるって本当ですか」

半分本当で、半分違います。

住宅が建っている土地には、固定資産税を軽くする特例があります。これが外れると、負担がぐっと上がる。ここまでは本当です。

でも、人が住んでいないだけでは、この特例は外れません

外れるのは、管理不全空家や特定空家として、行政から勧告を受けた場合です。
つまり、管理がされておらず、周囲に迷惑がかかる状態で、行政が指導しても改善されなかったとき。
そこまで進んで、はじめて特例の話になります。

空き家税と、特例解除は、まったく別の制度です。

空き家税は「使われず、動かされていない家」に対するもの。
特例解除は「管理されず、危険な家」に対するもの。目的が違います。

ここを混ぜて説明すると、所有者は必要以上に怯えます。
そして、怯えた人は、動くのではなく固まります。

事業者の方には、ぜひここを正確に説明していただきたいと思っています。正しく怖がってもらうことも、大事な仕事です。

都市と地方で、この税の意味は変わります

もうひとつ、書いておきたいことがあります。

寝屋川市のような都市部では、住宅の需要はあります。
それなのに空き家が市場に出てこない。だから、税で背中を押す。この設計は、理にかなっています。

でも、地方では事情が違います。

売りに出しても、買い手がつかない。
値段をつけようがない。そういう家が、いくらでもあります。

そこに同じ税を持ち込むと、どうなるか。売りたくても売れない人に、税だけがかかる。

これは、政策として機能しません。

ぼくの個人的な考えですが、地方で必要なのは「市場に出すための税」ではなくて、「放置を防ぐための仕組み」だと思っています。

そして、放置を防ぐには、罰だけでは足りません。

たとえば、親が施設に入っていて、まだ相続も始まっていない家。
ぼくはこれを「留守宅」と呼んでいますが、こういう家をきちんと管理している人には、なんらかの支援があってもいいんじゃないか。

管理の費用を控除するとか、そういう仕組みです。

ペナルティの側と、支援の側。両方そろって、はじめて所有者は動けるようになる。

これはあくまでぼくの仮説で、協会としての正式な見解ではありません。
でも、寝屋川市の議論が全国に広がっていくなら、この論点は避けて通れないと思っています。

じゃあ、Dはどうするのか

正直に書いておきます。

この五段階でいちばん悩ましいのは、Dの「管理されている空き家」です。

管理されているから課税しない、というのは一見きれいです。
でも、そう決めてしまうと、「管理さえしておけば、いつまでも寝かせておける」という抜け道にもなりかねません。

都市部で住宅需要が逼迫している地域なら、Dにも一定の負担を求める設計はあり得ると思います。
逆に、地方で流通の見込みが薄い地域なら、Dは守るべき状態です。
むしろ、そこにたどり着いてもらうことがゴールになる。

つまり、Dの扱いは、その自治体が何を目的にしているかで変わります。

ぼくは空き家管理を仕事にしていますから、「管理していれば免除」と言いたい立場です。
でも、それを主張として先に出すのは、フェアじゃない気がしています。

ここは、まだ議論の余地がある。そう書いておきたいと思います。

定義を、言葉にしてみる

ここまでの話を、ぼくなりに一文にまとめてみます。

空き家とは、いま生活や事業のために実質的に使われておらず、その状態がある程度続いている住宅のこと。
ただし、転勤や入院、施設入所、介護、相続手続き、改修や売却の活動といった理由があって、適切な管理と、次に向けた具体的な行動が確認できる住宅は、課税の対象となる放置空き家とは区別する。

そして、課税すべき家については、こうです。

課税すべきなのは、正当な不在の理由がなく、実質的な利用もなく、流通や活用に向けた行動もなく、適切な管理も確認できない住宅です。

条文としては、まだ荒いと思います。でも、方向としては、こういうことだと思っています。

明日、確認できること

長くなりました。最後に、明日からできることを書いておきます。

所有者の方へ。 ご自分の家が、A〜Eのどれに当たるか、いちど当てはめてみてください。もしEに近いなら、まず何かひとつ、記録に残る行動を起こす。不動産会社に相談してもいいし、管理を頼んでもいい。大事なのは、動いた跡が残ることです。

事業者の方へ。 ご自分の事業が、A〜Eのどの段階に関われるか、書き出してみてください。すでに現場に足を運ぶ体制があるなら、Dの領域に手が届きます。書類や手続きに強いなら、BやCの証拠づくりが仕事になります。

というわけで、今日は空き家税の入り口にある「定義」の話をしてみました。

空き家税の時代に必要なのは、空いている家を探すことではないと思っています。

管理も活用もされないまま、社会から切り離されてしまった家を見つけて、所有者が動き出せる仕組みをつくること。
たぶん、そこが本丸です。

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