地震のあと、空き家はすぐに狙われる。発災「直後」から始まる火事場泥棒の話
熊本県で最大震度7を観測する大きな地震がありました。
被災された方に、心からお見舞いを申し上げます。
地震のニュースを見るとき、ぼくらはどうしても倒壊や津波、火災に目がいきます。
揺れが収まって、みんなが避難所や親戚の家に移って、ひとまず命が助かった。よかった。…で、話が終わった気になってしまう。
でも、そこからもうひとつ、静かに始まる被害があるんです。
それが、留守になった家を狙う空き巣や窃盗です。
これは本当に許してはいけない最低の行為です。
被災したみなさんの心を折ってしまうような行為は断じて許してはいけません。
しかもこれは、「所有者が気をつけましょうね」で片づけていい話ではなくて、ぼくは「空き家に関わる仕事をしている人みんなに関係のある話」だと思っています。
不動産、建設、士業、警備、清掃、解体、リフォーム、そして地域の金融や自治体まで。
今日はそのあたりまで一緒に考えてみたいと思います。
「1〜2週間後が危ない」ではなく、狙われるのは発災直後から
災害と窃盗の話をすると、「避難生活が長引いた頃に泥棒が出る」というイメージを持つ人が多い気がします。落ち着いた頃にこそ気をつけよう、と。
ところが実際のデータを見ると、そうでもないんですね。
前回の熊本地震のあと、被災地を管轄する警察のデータでは、空き巣の認知件数が地震の前と後で大きく増えていました。
発災前のおよそ3か月半と、発災後のおよそ3か月半を比べると、8割ほど増えていた、という記録が残っています。
しかも被害が集中していたのは発災後3か月ほどのあいだ。
つまり、じわじわ増えるのではなく、混乱のまっただ中で一気に来る。
避難所や親族宅に移って、道路もライフラインもぐちゃぐちゃで、誰も家に戻れない。その「戻れない時間」そのものが、狙われる時間なんです。
だから、「1週間たってから防犯を考えよう」では、正直もう遅い。
避難と同時に、防犯のことも少しだけ頭の片隅に置いておく必要があります。
こわいのは「空き家であること」ではなく「誰にも見られていないこと」
ここが今日いちばん伝えたいところなので、先に言ってしまいます。
災害後に狙われるのは、空き家そのものではありません。
狙われるのは、誰にも見られていない家です。
犯罪をする側は、何か特別な記号をつけて回っているわけではありません。もっと単純に、外から見て「この家、しばらく誰も来てないな」と分かる家を選んでいる。
夜になっても電気がつかない。
郵便物や新聞がたまっている。
玄関前の物が何日も同じ位置にある。
割れた窓や壊れた扉がそのまま。
ブルーシートがめくれたまま風になびいている。
周りの家は片付けが進んでいるのに、その一軒だけ手つかず。
そして、避難先や「しばらく戻れない」という情報が、SNSにうっかり書かれている。
こういう小さなサインの積み重ねで、家は「無防備です」と語ってしまうんですね。
そして厄介なのは、避難が長引くほど、このサインが濃くなっていくことです。
奈良女子大学の研究チームが熊本地震の被災者を対象に行った調査では、避難した日数が長くなるほど空き巣被害にあうリスクが高まる、という関係が統計的に確認されています。
避難が1か月に及ぶとリスクはおよそ1.6倍、2か月だと2.7倍あまり。
あくまで一つの調査結果ではありますが、「戻れない時間が長いほど危ない」という感覚には、ちゃんと裏付けがあるわけです。
特に狙われやすいのは、この3つ
もう少し具体的にいきましょう。
ぼくが現場感覚で「これは危ないな」と思うのは、次の3つのパターンです。
ひとつめは、もともと空き家だった実家。
所有者が遠くに住んでいて、地震のあともすぐには見に行けない家です。窓や瓦や塀が壊れても、持ち主はその事実すら把握できない。外から見ても、管理している人がいるのかどうか分からない。いちばん「見られていない家」になりやすい。
ふたつめは、住民が長期避難している家。
ふだんは人が住んでいるのに、避難によって事実上の空き家になっているケースです。しかも、現金や車、工具なんかを置いたまま避難していることが多い。能登半島地震のあとも、避難中の住宅から現金などが盗まれる被害があり、警察は施錠と貴重品の持ち出しを繰り返し呼びかけていました。
みっつめは、玄関や窓が壊れてしまった被災住宅。
鍵をかけたくても、そもそもかけられない家です。外から見ただけで入り口が分かってしまうし、片付け業者やボランティアの出入りが多い時期だと、不審な動きも紛れて見えにくくなる。
どれも「持ち主が悪い」わけじゃないんです。
地震という不可抗力のあとで、たまたまそういう状態になってしまった。それだけ。だからこそ、外からの「人の目」が要る。
盗まれるのは、現金や貴金属だけじゃない
「まあ、盗まれても現金くらいでしょ」と思う人もいるかもしれません。ここは空き家管理を仕事にしているぼくらだからこそ、しつこく言いたいところです。
もちろん現金、通帳、印鑑、貴金属は狙われます。仏具や骨董品も。でも、それだけじゃないんですね。
最近の被災地で目立つのが、金属類です。
能登半島地震の被災地では、寺や空き家に入り込んで、仏具や蛇口といった金属を大量に盗んでいた事件が報じられました。
被害は数百点、総額にして数千万円規模。
しかも犯行は一度きりではなく、被災地に長く居座りながら、何十件も繰り返されていた。給湯器や室外機、銅線、農機具、発電機。
お金に換えやすいものは、ひととおり標的になると思っておいたほうがいい。
ここに関しては被災地以外でも急増しているので注意が必要です。
そして、被害は「盗まれる」だけで終わりません。
窓や扉を壊される。
室内を荒らされる。
一度侵入経路ができると、繰り返し入られる。
ときには不法占拠や火災にまでつながる。
おまけに、荒らされたあとだと、保険を請求するための「地震でこう壊れた」という証拠が失われてしまうこともある。
一次被害の上に、二次、三次の被害が積み重なっていくわけです。
ここに、事業者の出番がある
さて、ここまでは「所有者がどんな目にあうか」の話でした。ここからが、空き家ビジネスに関わる人に向けた本題です。
いま挙げた「所有者がやるべきこと」を並べてみると、実はそのほとんどが、事業者が代わりに担える仕事なんですね。
たとえば発災後、命の安全がまず最優先という大前提のうえで、所有者側にできることとして、建物の外観と被害を写真や動画で残す、可能な範囲で貴重品を持ち出す、壊れた開口部を板や補助錠でふさぐ、近隣に避難先と連絡先を伝える、保険会社や管理業者へ早めに連絡する。
といったことが挙げられます。
石川県警も、鍵がかからない場合には補助錠を使ったり、開口部に戸板を当てたりといった応急の防犯策を案内していました。
でも、遠くに避難している所有者に、これを全部やれというのは酷です。
倒壊の危険がある家に一人で戻るのは論外だし、余震のなか大事な家財を取りに帰って命を落とす、なんてことは絶対に避けなければいけない。
防犯のために命を危険にさらしたら、本末転倒ですから。
だからこそ、ここに需要が生まれます。
所有者が戻れないあいだ、代わりに外から家を見て、被害を写真で記録して、応急の仮施錠をして、警察や保険会社や工事業者につないでいく。
この一連の動きは、まさに空き家管理の仕事の延長線上にあります。
平時の空き家管理は、建物の劣化を防いだり、郵便物や草木を確認したり、風を通したり、というのが中心です。
近隣に迷惑をかけないための仕事、といってもいい。
でも災害時には、そこに地域の防犯インフラとしての役割が乗っかってくる。
被害状況の確認、不法侵入の痕跡チェック、仮施錠、写真報告、関係各所への接続、そして継続的な巡回。
災害後の空き家管理は、建物を守るだけの仕事ではないんです。所有者が戻れないあいだ、その家が「誰にも見られていない状態」になるのを防ぐ仕事。ぼくはそう捉えています。
「災害時空き家巡回」を、地域で準備できないか
個人の対策だけでは、どうしても限界があります。
そこでぼくが前から考えているのが、地域単位の仕組みづくりです。
イメージとしてはこんな感じです。
平時のうちから、所有者が緊急連絡先を登録しておく。
災害が起きたら、管理事業者が外観を確認しに回る。
所有者の許可を得たうえで仮施錠をする。
決まった様式の写真報告書をつくって共有する。
不審者の情報は警察や自治会と共有する。
必要なら防犯カメラやセンサーライトを一時的に付ける。
施設に入っている高齢者の家や、遠方所有者の家から優先して見ていく。
これは絵空事ではありません。
能登半島地震のあとには、住民が避難して不在になった地域に防犯カメラが設置され、防犯を担う専門部隊も派遣されました。
最近では、被災地の治安を専門に扱う拠点も動き出しています。
ただ、ここで一つ現実的な壁があるんです。
行政も警察も自治会も管理事業者も、「災害が起きてから急に連携しよう」としても、まず間に合わないんです。
誰が鍵を預かるのか、誰にどこまで連絡していいのか、責任の範囲はどこまでか。
こういうことは、平時に決めておかないと動けない。
逆にいえば、平時にこの仕組みをつくっておける事業者や自治体は、いざというとき地域から本当に頼られる存在になります。
ここは、リスクの話であると同時に、けっこう大きなチャンスの話でもあると思っています。
災害で壊れた家を、犯罪でもう一度壊させない。
そのためにも、空き家管理を「平時の便利なサービス」で終わらせず、「災害時の地域インフラ」として捉え直す時期に来ているんじゃないか。
ぼくはそんなふうに思っています。
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