「実家管理費控除」は空き家を増やす制度なのか?よくある誤解に答えます
「実家管理費控除」という話をすると、だいたい同じ反応が返ってきます。
「それって、空き家を持ち続ける人を増やしてしまうんじゃないですか?」
「解体したほうが問題が早く解決しませんか?」
ぼくはこの問いを、何回となく聞いてきました。
そのたびに「あ、そう見えるよな」と思いながら、丁寧に答えてきました。
誤解が広がるのは、制度の名前が先走っているからだと思っています。
「管理費を控除する」と聞くと、「空き家のままでいることを国が後押しするのか」というイメージが浮かぶ。
そう受け取るのは、ごく自然な反応です。
でも今日は、その誤解をひとつひとつ丁寧に解いていきたいと思います。
「実家管理費控除」は、空き家を増やすための制度ではありません。
むしろ、目的はまったく逆です。
そもそも、どんな家を対象にしているのか
まず前提として、この制度が想定している「実家」のイメージを共有させてください。
たとえば、こんなケースです。
親が認知症になって施設に入った。
子どもたちは関東と関西に離れて暮らしている。
実家は地方の一軒家で、誰も住んでいないけれど、相続はまだ始まっていない。
売るかどうかも、まだ決めていない。
この家、「空き家」と呼んでいいのか、ちょっと迷いますよね。
社会通念上は、1年を通して人が住んでいなければ空き家です。
でも感覚的には、「まだ親の家」であって、「放棄した家」ではない。
家族の中では、まだ整理がついていない状態です。
実家管理費控除が対象にしているのは、こういう「移行期」にある実家です。相続前、判断前、家族の話し合いがまだ続いている段階の家。
完全に放棄された家を支援しようという話ではありません。
誤解①「空き家を持ち続ける人を優遇する制度では?」
これが一番多い誤解です。
たしかに、「管理費を支援する」と聞くと、「空き家のままにしておいてもいい」というメッセージに聞こえる。でも、制度の目的はそこにありません。
問題の本質は、「空き家が存在すること」ではなく、「誰も見ていない家が増えること」です。
草が伸びる。
郵便物がたまる。
雨戸が閉まりっぱなしになる。
通風も通水も止まる。
外から見て「誰も管理していない家」になっていく。
こうなると、建物は一気に傷みます。そして近隣への影響も出始める。
この「傷み始める時期」に管理を入れることが、実家管理費控除の目的です。
決して空き家を固定化するための制度ではなく、放置空き家への転落を防ぐための制度です。
持ち続けることを推奨しているわけではない。
管理されないまま放置されることを防ごうとしているのです。
誤解②「売却や活用を遅らせるのでは?」
「管理費を支援されたら、売らなくていいやってなるんじゃないか」という懸念も、よく聞きます。
でも現実は逆です。
管理されていない家ほど、売却や活用が難しくなります。
建物が傷む。
庭が荒れる。
カビや湿気が広がる。
外観だけで「大変そうな物件」と判断される。
こうなると、いざ売ろうとしても価格が下がり、買い手がつきにくくなる。
つまり、管理をサボると、選択肢が減るのです。
逆に、最低限の管理が続いている家は違います。
売るにしても、貸すにしても、次の判断がしやすい状態を保てる。
実家管理費控除は、売却や活用を遅らせる制度ではありません。
将来の判断を、なるべくフラットな状態で迎えるための「時間を整える制度」だと、ぼくは考えています。
家を急いで売らせることが目的ではない。
でも、売れる状態を保つことは、十分に目的になりえます。
誤解③「税金で個人の家を守るのはおかしいのでは?」
この意見は、感情としてよくわかります。
「なぜ個人の財産を、公のお金で守らなければならないのか」という疑問は、正直で真っ当な問いだと思います。
ただ、空き家問題は、すでに個人だけの問題ではなくなっています。
放置された家は、近隣の生活環境に影響します。
雑草、害虫、景観の悪化、防犯リスク、火災リスク、倒壊リスク。
行政への苦情が増え、指導が入り、最終的には行政代執行という手段まで出てくる。
つまり、個人が管理できなくなった家の影響は、地域と行政にじわじわと広がっていきます。
であれば、問題が大きくなってから行政コストをかけるよりも、問題になる前に小さな管理費を支援するほうが、社会全体として合理的ではないか?
つまりこれは、所有者だけを助ける話ではありません。
近隣住民を守り、地域の景観を守り、行政の負担を減らし、建物の価値をなるべく失わせない。
そういう公共性のある話として考えるべきだと思っています。
個人の財産だからこそ、個人に任せっきりにしてきた。その結果が、いまの空き家問題でもあります。
誤解④「管理すれば空き家のままでいい、というメッセージになるのでは?」
これは、制度設計の話として重要な指摘です。
たしかに、「管理費を控除する」という制度をそのまま作ると、「空き家のまま何年でも置いていていい」というメッセージになりかねない。
そこは気をつけなければいけない点です。
だからこそ、実家管理費控除には設計上の条件が必要だと考えています。
例えば…、
対象期間を限定する。
相続前や施設入所後の一定期間に絞る。
管理内容を明確にする。
そして、活用・売却・解体・相続整理に向けた相談とセットにする。
ここは寝屋川市の空き家税の運用も参考にしたいところです。
つまり、「管理費を控除します」で終わりにするのではなく、管理を入口にして、次の判断へつなげる設計が必要です。
管理はゴールではありません。
家を放置させず、家族が落ち着いて判断できる時間をつくるための、つなぎです。
誤解⑤「空き家対策は売却や解体を進めるべきでは?」
もちろん、売却や解体が必要な家はあります。
危険な状態の家、再利用が難しい家、所有者が使う意思のない家については、早めの判断が求められます。それは間違いない。
ただ、「すべての家をすぐに売れ」「すべての家をすぐに壊せ」という一律の考え方は、現実に合いません。
親の介護がまだ続いている。
相続人同士の話し合いが終わっていない。
家財の整理が追いついていない。
長年住んだ家への思い入れがあり、すぐには結論を出せない。
こういう家は、全国にたくさんあります。
そして、その間に管理が止まるから、空き家問題が悪化するんです。
「売るか、壊すか、放置するか」という三択だけでは、現実は動きません。その前に「まず管理して、状態を悪化させない」という選択肢を制度として用意すること。
それが、ぼくたちの考える実家管理費控除の出発点です。
この制度が目指している社会のかたち
誤解をひととおり解いたところで、あらためて整理します。
実家管理費控除が目指しているのは、こんな社会です。
親が施設に入ったあとも、実家がいきなり放置されない。
遠方に住む家族でも、管理を外部に頼みやすくなる。
草刈りや通風・通水、防犯確認が、近隣に迷惑をかける前にできる。
家の状態を保ちながら、売却・活用・解体・承継を、冷静に考えられる。
つまり「空き家になってから対策する」のではなく、「空き家になる前から管理する」社会に変えること。
それが、この制度の本当の目的です。
空き家問題は、相続の日に始まるのではない
ぼくがずっと現場で感じてきたのは、空き家問題は相続後に突然始まるのではないということです。
親が家を離れたその日から、静かに始まっています。
施設に入った翌日から、その家は誰も住んでいない家になります。
草は伸び始め、郵便物はたまり始め、建物は少しずつ傷み始める。
でも家族は、介護のことで手いっぱいで、家のことまで気が回らない。
それが1年、2年と続くうちに、気づけば「問題のある空き家」になっている。
この現実を変えるには、制度もまた、相続後だけを見ていてはいけません。介護中・施設入所中・相続前という時期の実家管理に、もっと目を向ける必要があります。
というわけで
「実家管理費控除は空き家を増やす制度なのか」という問いへの答えは、ぼくの中でははっきりしています。
「違います。これは、放置を減らすための制度です」
いつも言っていますが、空き家が存在すること自体は問題ではありません。
問題なのは、誰にも管理されないまま、地域に迷惑をかけ続ける家が増えることです。
そのために、まず管理する。
状態を保つ。
判断できる状態を残す。
実家管理費控除は、その「まず」の部分を支える制度として提案しています。
もし「うちの実家もそういう状態かもしれない」と感じた方がいれば、今の実家の管理状況をいちど確認してみてください。
草は伸びていないか、郵便受けはたまっていないか、雨戸は開け閉めされているか。
小さな確認が、大きな問題を防ぐことがあります。
そして、もしこういう制度が日本に必要だと感じていただけたなら、ぜひ周りの方にもこの話を広めてもらえたら嬉しいです。
世論というのは、そういう小さな共感の積み重ねから動いていくものだと、ぼくは信じています。
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