日本郵便の空き家対策は、利益相反なのか。空き家管理士の視点で考える「郵便局×専門家」の可能性
あなたは「郵便局が空き家の見回りをしている」と聞いて、どう思いますか?
「へえ、それは便利そう」と感じる方もいれば、「でも、それって大丈夫なの?」とひっかかりを覚える方もいるかもしれません。
ぼくは後者の感覚、でもすごく大事だと思っています。
かなりの個人情報をもっているところが、家の中まで入り込むという事…。
今日は、日本郵便が進める空き家対策の取り組みと、そこに潜む「利益相反に見える構造」について、空き家管理士の立場から整理してみたいと思います。
これは批判ではなく、「じゃあどうすればもっとよくなるか」という提案の話です。
日本郵便は、すでに空き家対策の現場にいる
まずは事実の整理から…。
日本郵便はいま、「郵便局の空き家みまもり」という管理サービスを全国で提供しています。
月1回の見回りを基本に、郵便受けの状況確認、庭木・雑草のチェック、施錠確認、不法投棄の有無など、空き家の外観を定期的に見てまわるサービスです。通風・通水や草刈りといったオプションも用意されています。
さらに、自治体向けの空き家調査業務も受託しています。
三重県玉城町では、郵便局社員が自治体の示した調査項目に基づいて空き家の現状確認を行う取り組みがすでに始まっています。
つまり日本郵便はいま、
所有者情報に近い立場(転居情報を保有)
地域を日常的に見ている立場(配達ネットワーク)
空き家管理サービスを提供する立場(みまもりサービス)
この3つを同時に持っています。
で、ここが今回の話の核心です。
転居情報の提供は、空き家対策として必要な仕組み
最近、管理不全空き家の所有者を把握するために、日本郵便が自治体へ転居情報を提供できる制度が話題になっています。(ちなみに1件1000円だったと思います)
改正空き家の特措法の中でも、電力会社などインフラの会社が情報を提供できるようになりました。
これ自体は、現場の立場からすると「ようやく」という感覚があります。
空き家の管理不全問題で、現場が一番困るのは「所有者に連絡がつかない」ことです。
登記上の住所に通知を送っても届かない。
住民票が移されていない。
相続人が遠方にいる。
誰が管理責任を持つのか分からない。
こうなると、行政も地域も手が出せなくなります。
草木は繁茂し、建物は劣化し、近隣への影響が出はじめても、誰にも話が届かない。
だから、転居情報を活用して所有者と行政をつなぐ仕組みには、一定の公益性があります。
この点はしっかり評価したいです。
ただし、「利益相反に見える構造」は残る
とはいえ、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
日本郵便は、自治体に転居情報を提供します。
同時に、空き家管理サービスも提供しています。
この構造を、所有者の側から見るとどう映るでしょうか。
「情報を持っている会社が、その情報をもとに自社のサービスを売りに来るのでは?」
そう感じる人がいたとしても、不思議ではありません。
制度上は、情報提供と営業活動は当然分けられます。
しかし、空き家対策は住民の信頼がなければ成り立ちません。
法的に問題がないことと、社会的に納得されることは、少し違うんです。
ぼくが気になるのは、こういうことです。
自治体への情報提供と、自社の空き家管理サービスの営業は、本当に完全に分かれているのか。
所有者が自然と日本郵便のサービスに誘導される構造にはなっていないか。すでに地域で空き家管理を担っている中小事業者との公平性は保たれているか。
これは批判ではなく、「仕組みとして明確にしておくべき点」として整理したい論点です。
日本郵便を批判するより、役割を分けるべき
ここから前向きな話をします。
日本郵便には、他の誰も簡単には持てない強みがあります。
全国に広がる郵便局のネットワーク。
地域を毎日見ている配達スタッフ。
遠方に住む所有者との接点。
自治体との連携実績。
これは空き家対策にとって、本当に大きな資産です。
だから、日本郵便を「空き家管理業界の競合」と見るのはもったいない。
必要なのは、役割の整理です。
日本郵便は「見つける・知らせる・初期確認する」。
空き家管理士は「判断する・管理する・改善する」。
自治体は「制度的に後押しする」。
この三角形がきちんと機能すれば、利益相反に見える構造を、公益的な連携に変えることができます。
空き家管理士協会が提携できる5つの方法
では具体的にどう連携できるか。協会として考えている方向性を整理してみます。
① 見回り後の実務対応
日本郵便の見回りで草木の繁茂や郵便物の滞留、建物の破損などが見つかった場合、地域の空き家管理士が改善対応を行います。
草刈り、通風通水、簡易清掃、防犯対策など、実務を担う受け皿です。
② チェックシートと報告基準の監修
郵便局スタッフが現場で何を見るべきかを、協会が整理・監修します。
管理不全リスク、防犯リスク、近隣苦情リスク、建物劣化リスクなど、専門的な視点を現場レベルに落とし込みます。
③ 郵便局スタッフ向け研修
郵便局員は建物の専門家ではありません。
空き家の外観チェックポイント、管理不全の兆候の見分け方、写真の撮り方、自治体につなぐべきケースの判断など、協会が研修を提供します。
サービス品質の向上にもつながります。
④ 自治体との三者共同提案
日本郵便・自治体・空き家管理士協会の三者で、管理不全空き家の予防モデルを設計します。
日本郵便が外観確認し、自治体が所有者通知を行い、協会が専門相談と管理実務を担う。この形なら、自治体も導入の判断がしやすくなります。
⑤ 中立的な相談窓口の設置
所有者への案内を、日本郵便のサービスだけに限定しない。
軽い見守りで足りるなら日本郵便、草刈りや通風通水が必要なら空き家管理士、売却や活用を考えるなら不動産団体、危険な状態なら自治体へ。
所有者の状況に応じて、複数の選択肢を中立的に示す窓口です。
大事なのは、情報提供と営業を混ぜないこと
この連携が社会的に意味を持つためには、いくつかの原則が必要だとぼくは思っています。
自治体への転居情報提供と、日本郵便の空き家管理サービスの営業は、制度として明確に分離すること。
自治体通知のなかで、特定の民間サービスだけに誘導しないこと。
所有者には必ず複数の選択肢を提示すること。
地域の空き家管理士・事業者が公平に参加できる仕組みにすること。
協会はこの原則を守りながら、中立的な専門窓口として動く立場です。
日本郵便と競合するのではなく、お互いの強みを活かした分担をする。
そのためには、「どこまでが日本郵便の役割で、どこからが専門家の役割か」を、社会的に合意できる形で整理していく必要があります。
空き家対策は「見つける」だけでは終わらない
最後に、空き家管理士らしい視点で話を締めます。
所有者が見つかった。通知が届いた。それで空き家問題が解決するわけではありません。
本当に大事なのは、そのあとです。
誰が草を刈るのか。
誰が通風通水をするのか。
誰が台風前に確認に行くのか。
誰が近隣からの苦情を受け止めるのか。
そして、誰が「まだ管理で守れる家」と「次の活用を考える家」を見極めるのか。
ここに、空き家管理士の出番があります。
というわけで、今日は日本郵便の空き家対策をめぐる構造的な論点と、空き家管理士協会としての提案を整理してみました。
日本郵便が空き家対策に関わること自体は、悪いことではまったくありません。
むしろ、地域を日々見ている郵便局の力は、これからの空き家対策にとって大きな可能性を持っています。
ただ、情報を持つ立場とサービスを提供する立場が重なる以上、公平性と透明性は欠かせません。
だからこそ、空き家管理士協会のような専門団体が行政と民間の間に入り、中立的な受け皿になる意味があります。
空き家を見つけることは、スタートです。
その家を誰が、どうやって守るのか。
そこまで設計できてはじめて、空き家対策は本当に機能します。
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