神戸市の「マンション空室税」、タワマンだけじゃなくなりました
先週、神戸市の空室税をめぐるニュースが流れてきました。ご覧になった方も多いかもしれません。
これまで「タワマンの空き部屋に課税する」という話で報じられてきたものが、対象を分譲マンション全体に広げる方向で大筋合意した、という内容でした。
一戸建ては対象外。
あくまで分譲マンションが対象という整理のようです。
このニュース、多くの記事では「タワマン規制の話が広がった」という書かれ方をしています。
でもぼくはちょっと違う読み方をしています。
今日はそのあたりを書いてみたいと思います。
先に結論めいたことを言ってしまうと、対象が広がったのではなくて、問題の所在が最初とは違うところにあったと分かってきた、というのがぼくの見立てです。
そもそも、タワマンの管理は壊れていない
まず、ちょっと意外な事実からお話しします。
去年、サンテレビが神戸市中央区のタワーマンションについて取材をしていました。
管理組合が市に報告している届出を見ると、いずれのタワマンも空き住戸の割合は5%以下。修繕積立金の収納率もほぼ100%。
実際に管理組合に問い合わせたところ、「空室はほぼゼロに近く、賃貸に出ている部屋も持ち主とちゃんと連絡がついている。修繕積立金などのトラブルは起きていない」という回答だったそうです。
これ、ぼくには腑に落ちる話でした。
投資目的で都心のタワマンを買う人というのは、その部屋を資産として見ています。
資産価値が下がると困る。
だから管理費も修繕積立金も払います。
滞納すれば売るときに響くと分かっているからです。
連絡先も生きています。
売買のときに困りますから。
総会には出てこないかもしれませんが、委任状は返ってきます。
つまり、投機の部屋は「空いている」けれど「管理を壊してはいない」んですね。
ここが最初の分かれ道だとぼくは思っています。
管理を壊しているのは、もっと地味な部屋です
では、マンションの管理を実際に止めているのは何か。
ぼくがこれまで調べてきた案件で見てきたのは、こういう部屋です。
親が施設に入って、誰も住まなくなった一室。
相続はしたけれど、兄弟の誰が引き継ぐか決まらないまま何年も経っている部屋。
持ち主が高齢になって、遠方の子どもが実質的に管理しているけれど、名義は親のままという部屋。
つまり背景は戸建て空き家と同じなんです。
戸建て空き家とちがうのはこういう部屋は、たいてい外から見ても分かりません。
マンションの管理費は口座から自動で落ちていきます。
だから所有者が何年放置していても、しばらくは表面上、何も起きない。
でも、じわじわ効いてきます。
総会の案内が届かない。
届いても誰も開けない。
議決権を持つ人の連絡先が古いまま更新されていない。
そして大規模修繕の決議をしようとしたときに、分母には数えられるけれど賛成も反対もしない部屋が、静かに積み上がっている。
つまり空いていることが問題なのではなくて、誰も向き合っていないことが問題なんです。
ぼくはずっと、空き家の線引きは「空いているかどうか」ではなく「放置されているかどうか」に引くべきだと言ってきました。
マンションの一室でも、話は同じだと思っています。
だから、対象が広がったんじゃないでしょうか
ここで最初のニュースに戻ります。
検討会は昨年5月から6回開かれてきました。
当初は、投資目的などで居住者がいないタワマンの空室を減らすことを想定していたそうです。
それが最終的に、分譲マンション全体に広がった。
報道では「対象拡大」と書かれています。
でもぼくには、これは拡大というより方向転換に思えます。
タワマンを調べてみたら、思ったほど管理は壊れていなかった。
むしろ、ふつうの分譲マンションのほうに、静かに滞留している部屋があった。だから対象を変えた。
そういうことなんじゃないかと、ぼくは勝手に想像しています。
投機じゃない。でも人が住んでいない。総会が開けない。
この一行に、今回の話の芯があるような気がしています。
とはいえ、住民票で切ると混ざります
ここまで書いてきて、ぼくには気になっていることがあります。
今回の答申案では、居住実態を住民票の有無で判断する方針が示されています。
バルセロナ市がやっている水道使用量での確認も検討したものの、居住との線引きが難しいと結論づけたそうです。
行政の初手としては、これは現実的な判断だと思います。
既にあるデータで、いちばん確度が高い。
ゼロから調査するコストを考えれば、まず住民票から入るのは筋が通っています。そこは責める話ではありません。
ただ、住民票の有無で切ると、さっきの2種類の部屋が同じ籠に入ります。
管理を壊していない投機の部屋も、管理を壊している滞留の部屋も、どちらも「住民票がない部屋」です。区別がつきません。
ぼくの提案は、二の矢のほうです
とはいえ、じゃあ課税をやめろという話ではありません。
放置を減らしたいという目的には、ぼくは賛成です。
管理組合が回らなくなるマンションが増えるのは、誰にとってもいいことがない。
行政が動くこと自体は、むしろ遅すぎたくらいだと思っています。
ぼくが言いたいのは、課税は一の矢としては効くけれど、それだけだと片手落ちになるということです。
罰則側だけを作っても、人は動きません。動く先がないからです。
考えてみてください。「住まないなら税金がかかりますよ」と言われた所有者に、選択肢はいくつあるでしょうか。
売る。貸す。自分で住む。この3つだけです。
でも、売れない事情がある人がいます。
兄弟の合意が取れていない。
相続登記が終わっていない。
思い出があって決心がつかない。
貸すのも同じです。荷物が残っている。リフォーム代が出せない。管理の手間が読めない。
つまり、動きたくても動けない人には、税金は「圧」にはなっても「解決」にはならないんですね。
だから、ぼくが必要だと思っているのは支援側の受け皿です。
具体的には、マンションの一室に対する管理サービスです。
ここ、市場としてはほぼ空白です
戸建ての空き家管理サービスというのは、もう商品としてかなり整理されています。ぼくらもやっていますし、他社さんもたくさんあります。
月に一度見に行って、換気して、通水して、郵便物を回収して、写真を送る。相場もだいたい決まっています。
ところが、マンションの一室に対して同じことをやるサービスは、ほとんど商品化されていません。
理由はなんとなく分かります。
マンションは共用部を管理会社が見てくれるので、放置しても壊れにくい。草も生えないし、屋根も飛びません。だから需要が見えにくかった。
でも今回の話が現実になると、需要の形が変わります。
売るか貸すかを決められない人が、「決めるまでのあいだ、放置していない状態を保つ」ための選択肢を必要とするようになるからです。
今回の答申案には、住民票がない場合には必要に応じて納税などの実績を調べる、という記述もあります。
ここは大事なところで、住民票だけで一律に決めるつもりはないという含みがあります。
つまり、「この部屋はちゃんと向き合われている」と示す材料があれば、判断が変わりうるということです。
これは「行動の痕跡」と言ってもいいかもしれません。
管理報告書が毎月出ている。
定期的に人が入っている。
管理組合と連絡が取れている。
そういう痕跡が積み上がっている部屋と、5年間誰も鍵を開けていない部屋は、同じ「空室」でも意味がまったく違うはずです。
制度がそこまで見てくれるかどうかは、まだ分かりません。
でも、見てくれる余地は残されていると、ぼくは読んでいます。
明日できること
ここで最後に整理します。
所有者の方は、まず自分の部屋の住民票がどうなっているかを確認してみてください。それから、管理組合から届く書類がちゃんと自分の手元に届いているかどうか。届いていないなら、住所変更届を出すだけで、状況はかなり変わります。5分で終わります。
事業者の方は、今の自分の商品リストを眺めてみてください。「マンションの一室が空いている」というお客さんが来たときに、渡せるものが1つでもあるでしょうか。ないなら、そこが空白です。
神戸市以外の方も、他人事ではないと思っておいたほうがいいです。寝屋川市は市全域で条例を可決しましたし、京都市も2030年度から動きます。都市部の分譲マンションを持っている方は、地域を問わず、一度状況を整理しておいて損はありません。
というわけで、今回のニュースをぼくなりに読むと、こうなります。
空いている部屋が悪いのではありません。誰も向き合っていない部屋が問題なんです。
神戸市の議論は、そこにようやく手が届きかけている、その途中経過なんじゃないかと思っています。
制度がどう固まるかは、まだ分かりません。
でも、動く前に整理しておいた人のほうが、あとで楽をします。
これは、この仕事をしていて何度も見てきたことです。
もし「うちのマンションの部屋、このままでいいのかな」と気になった方、慌てる必要はありませんが、考えはじめるのに早すぎることはないと思います。
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