京都市・寝屋川市・フランス・カナダ。4つの空き家税を並べて見えた、地方の「もう一つの税」
今日はこんなことを書きたいと思います。
京都市や寝屋川市のような税を、そのまま人口減少地域や中山間地域に持ち込んでいいのか。
都市の空き家問題と、地方の空き家問題は別物なんじゃないか。
そんな話です。
まず、京都市の税は「居住に戻す税」
京都市の「非居住住宅利活用促進税」から見ていきます。
名前が長いので、ものすごくざっくりいうと「人が住んでいない住宅に、追加で課税しますよ」という制度です。
個人的には京都市が導入する「空き家税」はいわゆる空き家問題に関する対策というよりも、海外資本や投機目的に対抗する施策かと思います。
ポイントは、対象が危険な空き家だけじゃないところ。
空き家や別荘、セカンドハウスなど、生活の本拠として使われていない住宅が広く対象になります。
ここでいう「生活の本拠」というのは、住民票がどこにあるかではなく、実際にそこを生活の中心として使っているか、という考え方です。
住民票がなくても実際に住んでいれば対象外だし、逆に住民票があっても実態がなければ対象になりうる。
なぜこんな税をつくったのか。
背景には、京都市ならではの事情があります。
景観規制が厳しくて高いマンションが建てにくく、住宅の供給が増えにくい。
その一方で市場に流通していない空き家が多く、若い世代が家を買いにくくなっている。
だから「住める家が空いたまま放置されているなら、活用のほうへ動かしてほしい」というわけです。
これ、実はカナダのバンクーバーがやっている空き家税の発想にわりと近いんです。
バンクーバーも住宅価格の高騰と住宅不足が深刻で、空いている家を長期の賃貸住宅として使ってもらうことを目的に課税しています。
つまり京都市の税は、住める家を「もう一度、人が住む状態に戻す」ための税なんですね。
なお、京都市の制度には、施設入所や入院、相続などのやむを得ない事情に対する配慮も設けられています。
ここは後で効いてくるので、頭の片隅に置いておいてください。
寝屋川市の税は「市場に戻す税」
次に寝屋川市。こちらの「空き家流通促進税」は、少し狙いが違います。
対象になるのは、賃貸や売却の予定がない空き家。
売る、貸す、住む、そういった形で住宅市場に戻してほしい、という制度です。
市長さんも歳入の確保ではなく、所有者の行動変容を促すのが目的だと説明しています。
税金を取りたいわけじゃなくて、動いてほしい、というメッセージなんですね。
こちらはフランスの制度に発想が近いです。
フランスには、住宅需要が供給を大きく上回る地域で、長く空室のままの住宅に課税する仕組みがあって、しかも空室の期間が長引くほど税率が上がっていく。
空けておくより流通させたほうが得になるように設計されているわけです。
寝屋川市がそのままフランス型というわけではありませんが、「空き家のまま持ち続けるより、市場に戻すほうが有利になる」という思想は共通しています。
ここまでを、いったん並べてみます。
京都市の税は海外資本や投機目的に対抗する施策で「住める家を、人が住む状態に戻す税」。
寝屋川市の税は「使われていない家を、売買や賃貸の市場に戻す税」。
狙う先は少し違いますが、どちらも根っこには同じ前提があります。
その前提とは「この地域には、まだ住宅への需要がある」ということです。
ここからが本題。地方には「売りたくても売れない家」がある
で、ここがぼくが一番書きたかったところです。
京都市も寝屋川市も、大前提として住宅需要があります。
だから「活用しないなら課税」という圧力が、ちゃんと行動につながる。
売れば買い手がいる、貸せば借り手がいる。だから背中を押す意味がある。
でも、地方はどうでしょう。
地方の空き家所有者が、みんな活用をサボっているわけじゃないんです。
むしろ逆で、動きたくても動けない家がたくさんある。
空き家バンクに登録しても問い合わせが来ない。
不動産会社に相談しても「うちでは扱えません」と言われる。
0円で差し上げますと言っても引き取り手がいない。
解体しようにも、解体費が土地の値段を上回ってしまう。
相続人が遠くに住んでいて話が進まない。
共有名義や相続登記が済んでいなくて、そもそも誰も決められない。
接道の問題で建て替えもできない…。
こういう家が、現場には本当にあるんです。
つまり地方では、市場に出さないから空き家なのではなくて、市場に出しても動かないから空き家になっている。
この順番が、都市とはまるで逆なんですね。
こういう地域に「売却・賃貸しないなら課税します」という制度を持ち込んだらどうなるか。
売りたくても売れない人に、できないことを求めて課税するだけになりかねません。
背中を押しても、そもそも押す先に答えがない。
しかも地方の空き家には、もう一つ別のパターンがあります。
「売れない家」に加えて、「持ち主が施設に入って、突然空いてしまった家」です。
親が介護施設に入所した瞬間から、実家が無人になる。
でも本人はまだ元気で、所有者は本人のまま。
子どもが勝手に売るわけにもいかない。
こういう家は、そもそも売る売らないの土俵にすら立っていません。
おもしろいのは、さっき挙げた海外の制度も、こういう「本人のせいじゃない空室」には課税しない設計になっていることです。
フランスには市場価格で貸し出したり売りに出したりしているのに借り手や買い手がつかない場合は課税を免除するという考え方がありますし、バンクーバーの制度にも介護施設からの書類などを示せば免除の対象になる仕組みがあります。
要するに、課税で背中を押すタイプの税ですら、「動きたくても動けない事情」はちゃんとよけているんです。
本場でさえそうなっている。
だとすれば、需要そのものが乏しい地方に、都市型の税をそっくりそのまま持ち込むのは、やっぱり無理があるんじゃないか。
ぼくはそう思うわけです。
都市の空き家問題と、地方の空き家問題は違う
ここで一度、都市と地方の違いを整理しておきます。
都市部で起きているのは、「住める家があるのに、市場に出てこない」という問題です。
だから所有者に促したいのは、売る・貸す・住む。税の目的は住宅の供給や流通を増やすことで、うまくいった姿は「その家がまた住宅として使われること」です。
一方、地方や中山間地域で起きているのは、そもそも「住宅への需要そのものが少ない」という問題です。
ここで所有者に本当に求めたいのは、売る・貸すではなく、まず「ちゃんと管理して、危険や迷惑を出さないこと」だったりします。
税をかけるとしても、その目的は流通促進というより、防災・防犯・環境保全に近い。うまくいった姿は「また住宅として使われること」ではなくて、「放置されず、安全が保たれていること」なんです。
同じ「空き家税」という名前でも、都市と地方では目指すゴールがぜんぜん違う。
ここを一緒にすると、たぶん現場が苦しみます。
乱暴に一言でまとめると、都市の空き家税は「住宅を市場に戻す税」。
でも地方で本当に必要なのは、「地域への迷惑を防ぐ税」なんです。
この構造は、実は事業者にとっての地図でもある
ここまで制度の話をしてきましたが、これ、事業に関わる方にとっては、けっこう大事な地図になると思っています。
都市で「市場に戻す税」が広がると、得をするのは基本的に売買や賃貸の仲介です。
課税で背中を押された所有者が「じゃあ売るか、貸すか」と動けば、そこに仕事が生まれる。
都市の空き家税は、ある意味で不動産仲介の出番を増やす税でもあるわけです。
ところが地方は事情が違います。
売れない家、借り手のつかない家、施設入所で空いた留守宅。
これらが課税で追い詰められても、仲介はそう簡単には動けません。
売り先も貸し先もないんですから。
じゃあ地方では何の出番が増えるのか。ぼくは、「管理」だと思っています。
売れない家がそのまま残るなら、その家を安全な状態に保つ仕事が要る。
定期的に見回って、草を刈って、風を通して、郵便物を片づけて、雨漏りや破損がないか確認する。
地味だけど、放置と管理を分ける決定的な作業です。
地方の空き家対策の主役は、実は売買仲介ではなく、この「管理」という仕事なんじゃないか。
都市型の税が地方でうまく回らないという構造は、裏を返せば「地方でこそ管理の需要が伸びる」というサインでもあるんです。
不動産、建設、士業、介護、警備、清掃、解体、地域金融、自治体…。
空き家と接点を持つ業界は多いですが、地方でまず立ち上がってくるのは、この管理まわりの需要じゃないかとぼくは見ています。
というわけで
長くなってきたので、そろそろまとめます。
京都市の税は、住める家を居住に戻す税。
寝屋川市の税は、使われていない家を市場に戻す税。
どちらも「まだ住宅需要がある」という前提の上に立っています。
でも地方には、売りたくても売れない家があり、貸したくても借り手のいない家があり、施設入所で突然空いてしまった留守宅があります。
だから「市場に出さないなら課税する」というやり方だけでは、たぶん解決しません。
問うべきなのは、その家が使われているかどうかではなく、所有者が地域に対する管理責任を果たしているかどうかではないでしょうか。
だとすると、地方に必要なのは「市場に戻す税」ではなく、「管理に戻す税」なのかもしれません。
空き家であること自体を責めるのではなく、放置して地域に迷惑をかけている状態にこそ向き合う。
そういう発想の税です。
とはいえ、「じゃあその税、具体的にどう設計するの?」という話になりますよね。
管理していれば課税しない仕組みをどうつくるのか、施設入所の留守宅はどう扱うのか、そもそも税収をどう使うのか。
このあたりは、ぼくなりの提案も含めて、次回じっくり書いてみようと思います。
今日は「都市の税をそのまま地方に持ち込むのは、ちょっと待ったほうがいいかも」というところまで。
というわけで、もし地方に空き家をお持ちなら、まず一つだけ。
その家が今「売れる家」なのか「当面は管理して守る家」なのか、頭の中で分けてみてください。
そこがはっきりするだけで、次にやることがずいぶん見えやすくなります。
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