空き家バンクは掲載サイトじゃない。地方の空き家を「誰かの暮らし」に戻す入口の話
地方の空き家活用に関しては、空き家バンクの担う役割ってけっこう大きいと思うのですが、まだまだ一般的に理解されていないというか、すこし面倒と思っていることも多いんですよね。
「空き家バンク、うちの自治体にもあるけど…なかなか登録が増えなくて」という声、よく聞きます。
あるいは、「登録してくれと言っても、所有者がなかなか動いてくれない」という嘆きも。
ぼくはこの仕事を通じて、所有者の迷い、自治体の苦労、事業者の本音を、けっこう間近で見てきました。
そこで今日は、「空き家バンクをどう活かすか」というテーマで、現場目線から整理してみようと思います。
制度の話だけじゃなくて、「じゃあ実際どう動くの?」というところまで、一緒に考えていきましょう。
空き家バンクは「掲載サイト」じゃない
まず、大事なことをひとつ。
空き家バンクって、名前の響きからか「空き物件を載せる検索サイト」みたいなイメージを持たれることがあります。
でも本来は、そういうものじゃないんですよね。
地方の空き家って、築40年以上の古い家だったり、荷物がどっさり残っていたり、相続の整理がまだ終わっていなかったり、ということが普通にあります。
そういう物件は、一般の不動産市場だとなかなか扱ってもらえません。
「売れない・貸せない・でも放っておくわけにもいかない」という宙ぶらりんな状態に置かれてしまう。
空き家バンクは、そこに手を差し伸べるための窓口なんです。
所有者の相談を受け止めて、移住希望者との接点をつくって、補助金や改修支援につなげる。
物件を「掲載」するだけじゃなくて、空き家をもう一度、地域の資源として流通させるための入口として機能することが、本来の役割だと思っています。
「登録してください」が届かない理由
空き家バンクの登録を増やそうと思ったとき、多くの自治体がまずやるのが広報です。
チラシを配ったり、広報誌に載せたり。それ自体は悪くないんですが、ぼくの印象では、それだけだとなかなか動かない。
なぜかというと、所有者が抱えている問題が、「登録するかしないか」という話じゃないからです。
たとえば、こういう状況を想像してみてください。
親が亡くなって、実家が空いた。兄弟が3人いて、誰がどう相続するか、まだ話し合いがついていない。
仏壇も位牌も残っていて、どう扱えばいいかわからない。家の中は荷物がたくさんあって、片付けるだけで数十万円かかるかもしれない。
家自体も古くて、人に見せるには恥ずかしい状態…。
こういう人に「空き家バンクに登録しませんか?」と言っても、「え、今すぐ?」ってなりますよね。
登録する気がないんじゃなくて、登録できる状態じゃないし、そこまでたどり着く前にやることがありすぎる、ということなんです。
必要なのは「登録のお願い」ではなく、登録できる状態まで一緒に歩く伴走支援です。
登録を「3段階」に分けてみる
ここでぼくが提案したいのが、空き家バンク登録を段階に分けて設計するというアイデアです。
「登録したら公開されて、買い手・借り手が来てしまう」というイメージが所有者にある限り、登録のハードルは下がりません。
だから、まず「情報を公開しない相談登録」という入口をつくることが有効です。
1段階目:非公開相談登録 まずは自治体や支援担当者が情報を把握するだけ。物件の状態、所有者の意向、課題を整理します。外には出ません。
2段階目:準備中登録 片付け中、相続整理中、修繕検討中の物件として扱います。この段階で、家財整理、登記、改修見積もりなどの専門家につなぎます。
3段階目:公開登録 ここで初めて、移住希望者や購入希望者に向けて物件情報を公開します。写真、間取り、補助金情報、地域の暮らし情報もセットで見せると、ずっと魅力的なページになります。
「まだ決めきれていないけど、相談だけなら」と思えれば、最初の一歩が出やすくなります。
補助金は「セット」で伝える
地方の空き家活用において、補助金の存在は想像以上に大きな力を持っています。
自治体によっては、空き家バンクへの登録が、改修補助や家財処分補助の条件になっていることがあります。
つまり、登録することで使えるお金が出てくる可能性がある、ということです。
ただし、これを伝えるときの言葉は慎重に選んだほうがいいです。
「補助金が出ます」と断言すると、条件を確認せずに動いてしまう方が出てきて、後でトラブルになることもあります。
「登録が条件になっている制度があります」「対象になる可能性があるか、一緒に確認しましょう」という言い方が、正確で、かつ所有者にとっても安心感があります。
補助金は、押し付けではなく、選択肢として伝える。これが基本です。
登録したら終わり、じゃない
ここが、空き家バンクの運営でよく見落とされる部分です。
物件を登録したからといって、すぐに売れるわけでも貸せるわけでもありません。
売れるまでの間、家は存在し続けます。
草木は伸びます。雨漏りが進むこともあります。
郵便物がたまって、外から見ても荒れた印象になってしまうこともある。
そうなると、せっかく登録してもらった物件の価値が、どんどん下がっていきます。
移住希望者が現地を見て「ちょっと…」と引いてしまうことも。
だから、登録後の管理も含めて設計することが重要です。
月に1回の外観確認、草木の状態チェック、通風・通水、写真付きのレポート提出。
こういった管理業務を、空き家バンクとセットで提供できる仕組みをつくっておくことで、物件の価値を保ちやすくなります。
誰と組むか、が鍵になる
空き家バンクを自治体だけで回すのは、正直、人手の面で厳しいことが多いです。
でも、宅建業者だけに任せると、価格の安い物件や手間のかかる物件が後回しになってしまう可能性もある。
ぼくが理想的だと思うのは、自治体・宅建業者・空き家管理士の三者が役割を分担して動く形です。
自治体は制度設計と住民への周知、宅建業者は売買・賃貸の実務、空き家管理士は登録前後の管理・所有者フォロー・現地確認・活用準備。それぞれの強みを活かして連携すれば、空き家バンクはずっと現実的に動く仕組みになります。
空き家管理士協会としては、この連携を支えるための標準業務基準、研修、全国ネットワーク、相談導線、管理レポートの仕組みを提供できると考えています。
物件ページも「暮らしのイメージ」まで
最後に、物件ページの話を少しだけ。
移住を検討している人が空き家バンクを見るとき、間取りや価格だけを見ているわけじゃありません。「そこで暮らせるかどうか」を、いろんな情報から判断しようとしています。
近くにスーパーはあるか。病院は。学校は。車が必要か。地域の雰囲気はどんな感じか。改修にどのくらいかかりそうか。補助金は使えそうか。
こういった「暮らしの情報」まで載せることで、物件ページは「カタログ」から「移住の入口」へと変わります。手間はかかりますが、成約率にも関わってくる大事な部分です。
所有者に届く言葉に変える
行政的な文章が悪いわけじゃないんですが、所有者に届く言葉って、少し違うと思っています。
「空き家バンクに登録しましょう」「適正管理をお願いします」という表現は、正確だけど、心に刺さりにくい。
「その実家、まだ誰かの暮らしになるかもしれません」「片付いていなくても、相談できます」「売る前に、貸す前に、まず今の状態を一緒に見てみませんか」。
こういう言葉のほうが、「ちょっと聞いてみようかな」という気持ちを引き出しやすい。
大切なのは、所有者を責めないこと。
「手放しましょう」じゃなく、「一緒に選択肢を整理しましょう」という姿勢です。
というわけで、今日の話をざっくりまとめると、こういうことです。
空き家バンクの登録数を増やすには、「登録してください」という呼びかけだけでは足りません。所有者が動けない理由は、無関心ではなく、困りごとが山積みで、どこから手をつければいいかわからない状態にあることが多い。
必要なのは、相談→診断→片付け→管理→補助金確認→登録→活用という一連の流れを、一体で支える仕組みです。
空き家バンクは、行政サービスのひとつではなく、空き家をもう一度「誰かの暮らし」につなぐための入口です。
そしてその入口を機能させるためには、制度と人と連携の設計が必要で、そこにこそ、異業種の事業者が入り込める余地がたくさんあると思っています。
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