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郵便局が「家主を追う」時代へ。日本郵便が空き家所有者の転居情報を自治体に提供する、その意味を現場から読む

唐突ですが、最近「所有者がわからないから動けない」という言葉を、自治体の方からも、不動産業者さんからも、本当によく聞くんですよね。
つい昨日も、「ここの所有者さん東京に住んでるらしいけど、連絡先は誰も知らない…」という話をしたところなんです。

空き家の隣に住んでいる人が困っていても、相続で誰のものかわからなくなっていても、「所有者不明だから」という壁の前で、みんなが止まってしまう。

今日はその壁に、ちょっと大きな変化が起きそうだという話をしたいと思います。

郵便局が、空き家の家主を追いかけ始める

2026年度から、日本郵便が「管理が行き届いていない空き家」の所有者について、転居情報を自治体に提供する制度を本格的に動かし始めます。

実は、前回の空き家等対策特別措置法の改正で、市区町村が電力会社ガス会社などに所有者情報の提供を求めることができるようになったんです。
「電気の契約者は誰か」を調べることで、持ち主の手がかりを掴もうというわけですね。

で、今回の郵便局の動きは、その流れの延長線上にあります。
転居届の情報から持ち主を追跡できる。理屈としては完璧です。

これざっくり言うと、引越しのときに郵便局に出す「転居届」の情報を、空き家対策のために自治体が使えるようになる、ということです。
住民票の住所が古いままでも、不動産登記が更新されていなくても、郵便の転送先をたどれば「その家を管理するべきひとが、今どこにいるか」がわかるかもしれない。そういう仕組みです。

全国に所有者不明の空き家は4万7,000戸あると言われています。
そのうちのどれだけがこの制度で解決するかはわかりませんが、「連絡のしようがない」という状況が少しずつ変わり始めるのは確かです。

「所有者がわかれば解決する」という考え方

この制度変更は、「所有者さえ特定できれば話が進む」というものです。
それはたぶん、半分正しい。

自治体の担当者さんからしてみると、「どこに連絡すればいいかわからない」というのは本当に困る状況です。

管理不全の空き家を放置しておくと景観が悪化するし、倒壊リスクや火災リスクもある。
でも所有者がわからなければ、行政指導も何もできない。
だから「所有者さえわかれば前に進む」という感覚はわかります。

ぼく自身も、所有者が特定されることで動き出したおうちをいくつか見てきました。
だからこの制度には、一定の意味があると思っています。

でも、「わかれば動く」とは限らない

とはいえ、現場にいると「所有者が判明した=問題が解決した」では全然ないこともあります。

所有者に連絡が取れたとして、その人が積極的に動いてくれるかどうかは、まったく別の話。
実家が親の代から空き家になっているケース、相続で兄弟間の合意がまとまらないケース、「売りたいけどどこに相談すればいいか全然わからない」という方。
リアルな現場には、所有者が特定されても、なかなか前に進まない理由がたくさんあります。

「面倒くさいから先送りしている」と思われがちですが、ぼくが会ってきた所有者のほとんどは、むしろ悩んでいるんです。
手を打とうにも何から始めればいいかわからない。
そのまま時間が経ってしまっている、という感じです。

たしかにそうなりやすいよなあ…、と思います。
空き家って、単なる「物件」じゃないことが多いですから。
親が住んでいた家、自分が育った家。
感情と記憶が詰まっていて、簡単に「じゃあ売りましょう」「壊しましょう」とはならない。

ぼくが注目しているのは、むしろここ

今回の制度で面白いと思っているのは、「所有者を特定する仕組みが整備される」こと自体が、ビジネスの面でも大きな意味を持つという点です。

所有者が把握されると、自治体からの接触が始まります。
「管理してください」「対応してください」という連絡が来る。
すると所有者は、初めて「何かしなければいけない」という現実と向き合うことになります。

これは言い方を変えると、「今まで潜在的な顧客だった人たちが、表に出てくるタイミング」でもあります。

空き家管理、売却査定、解体、リフォーム、法的整理…。
所有者が動き出すとき、いろんな業種のサービスが必要になります。
それが組織的に、しかも全国規模で起きてくる可能性がある。

空き家ビジネスに関わっている方にとっては、これはリスクではなくて、むしろチャンスの始まりだと思っています。

現場と市場は、こう変わる

制度が動き出すことで、ぼくが予想している変化をざっくり整理してみます。

まず自治体の動きが速くなります。
「所有者がわからないから後回し」だった案件が、順番に動き始める。
行政代執行(自治体が代わりに解体などを行うこと)の件数も増えるかもしれない。
つまり、「放置」という選択肢が以前よりも取りにくくなります。

次に、所有者側の心理が変わります。
「誰も気づいていないだろう」という感覚が薄れて、「いつか連絡が来るかもしれない」という意識が広がる。
これが、早め早めの相談行動につながっていくと思います。

市場という観点では、「問題が顕在化した空き家」が増えるということは、それだけ処理・活用の需要が増えるということです。
空き家管理の市場規模は数兆円とも言われ、解体・管理・売却・リフォームなど多様なビジネスが絡み合っています。
この制度変更はその入口を広げる可能性を持っています。

特に影響がある立場の人たち

この変化は、さまざまな業種に関わってきます。

不動産業者さんは、所有者が動き出したタイミングでの売却・賃貸の相談が増えることが予想されます。司法書士・行政書士の方は、相続未了の案件や名義変更の依頼が増えるかもしれない。解体業者・リフォーム業者は、放置されていた物件が処分・活用に向けて動き出すことで、案件が増える可能性があります。

空き家管理の会社、清掃・警備の会社も同様です。「所有者はいるけど遠方で管理できない」という方への定期巡回管理サービスの需要は、これから確実に伸びてくると感じています。

自治体職員の方は、これまで以上に「所有者と業者の間をつなぐ」役割が求められるようになるかもしれません。行政と民間が連携するモデルを、今から考えておく価値があります。

というわけで、今日は「日本郵便が空き家の家主を追いかけ始める」という話から、現場と市場がどう変わっていくのかを整理してみました。

「制度が変わると困る」という見方もできますが、ぼくはどちらかというと「やっと動き始めた」という感覚があります。
所有者が表に出てきて、向き合う機会が増えることで、空き家が「放置の対象」から「活用の対象」に変わる流れが加速するといいな、と思っています。

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