ナンパ細胞【毎週ショートショートnote】
「だめだ、沈む! 空も波も穏やかなはずのに!」
当代一美しい船と評判の帆船・タラハーカニ号は、紺碧の海のど真ん中で沈没しかけていた。
「セイレーンだ! セイレーンの歌声にやられたに違いない!」
「おお、この美しい歌声……俺はもうどうなってもいい……!」
「船長!!」
「……また、あなたですか。セイレーン」
「えー、アタシ歌ってただけなんだけどぉ」
「何度も言ったでしょう、あなたの歌声は船乗りにとって命取りだと。その歌声を聴いた男はみな誘惑され、船はすべて難破する――それがあなたの生まれ持った宿命なのです」
「生まれつき? そんなDNAレベルの話、アタシのせいじゃないし」
その時、セイレーンの元へ一通の手紙が届いた。
「何これ、シアトルのコーヒー会社? 『調査の結果、あなたの体にはナンパ細胞という特殊な誘惑細胞が存在することが判明しました。通る人をすべて魅了するという素晴らしい能力に敬意を表し、あなたを我が社のロゴマークに採用したく……』――マジ天才じゃん、アタシ」
呆然とする大海神を尻目に、セイレーンは嬉々として遠い大陸へと泳ぎ去っていった。
(467字)
*この話はフィクションです。実在の人物・企業・怪物等には一切関係ございません。
【あとがき】
セイレーンは上半身が女性、下半身が魚の海の怪物だそうです。美しい歌声で人を惑わし、船を難破させて、乗っていた人の肉を貪り食う……らしい。
そのセイレーンをロゴマークにしたのが、皆さまよくご存じのこのコーヒーチェーン!! まさか本当にこういう理由だとは思わなんだ……(ナンパ細胞のくだりは除く)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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