髭は恋をする。【毎週ショートショートnote】
眠れる乙女たちが、暗く狭い部屋の中で目を覚ます。
――ああ、外の降り続く雨が恨めしい。
――でもこの涙雨が上がれば、きっと運命のひとに巡り会える。
乙女たちが契りを結ぶのは、2000万に1人という相手。
やがて部屋の壁を叩く雨音が途絶えた。
外の空気がほのかに熱を帯びるにつれ、彼女たちの秘めた想いも次第に熱く燃え上がる。
――行きましょう。まだ見ぬ彼の人のために。
乙女たちは外に向けて、一斉に白く細い手を伸ばした。
部屋の外は雪だった――否。
だが辺り一帯に、白く細かな粉が舞っている。
――ああ、我が君。
――我が君、わたしはここよ。
乙女たちは口々に叫び、2000万の群れの中からただ1人の相手を抱き寄せる。それこそが彼女たちの憧れ、スイート婚……
「このスイートコーン、美味しい! でも髭が邪魔だね」
「それ、トウモロコシのめしべなんだって。1つの粒ごとに1本あって、時期が来ると外へ伸びて、おしべが飛ばした花粉を受粉するんだよ」
今年も夏が近づいてきた。
そして髭は、また恋をする。
(435字)
【あとがき】
今回のあとがきは、以下の記事をもって代えさせていただきます(笑)
*この記事は、以下の企画に参加しております。
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