平凡な私でも、本をつくりたい!希望が生まれた読書体験
「本、すぐつくれますよ。なんなら明日でも!」
これは今年、人からかけてもらったうれしいことばランキングの2位だ。
ちなみに1位は、今年の1月11日(偶然にも1だらけ!)、3年にわたった転職活動が、ようやく実を結んだ日に遡る。
その日は朝からスーツに身をつつみ、今の勤め先へと出かけた。すでに最終面接はパスしており、後は年収や休暇などの条件面がまとまればという段階。転職エージェントを介していなかったため、自力で調整に向かったのだった。底冷えする京都のまちを、期待と不安が入り混じる体でずんずん歩いていく。
会社の会議室で、手渡された採用条件通知書に目を通すと、ほっとして緊張がほどけた。事前に私から伝えていた要望を叶えてもらっており、この場所で働くイメージができたからだ。
帰宅し、夫へもらったばかりの通知書を見せた。
夫は無言で一読した後、私の目を見て、「夢に向かってがんばってください」と短く言った。これが、今年のうれしかったことばナンバーワンである。
冷静かつ合理的な思考の持ち主である夫にとって、40歳を前にして、人生の方向転換をもくろみ、公務員を辞めて転職すると言い出した妻に、複雑な思いはあったに違いない。そんな夫からの、最大級のエールだった。
ふいに涙がこぼれそうになった私は、慌てて下を向いた。重力にひっぱられてさらにこぼれ落ちかけたけれど、なんとかこらえた。
私の夢、それは書く仕事をすること、そして「本をつくること」だ。
こどもの頃から、書いたり読んだりすることが好きだった。好きが高じて、30代半ばから書く仕事を志し、4月に転職して広報の仕事に就いた。広報誌やウェブ記事を書きながら、夢を叶えつつある。
一方で、「本をつくること」は、才能や実績のあるスゴイ人だけができる特権であり、叶わない夢だと思っていた。『本が生まれるいちばん側で』を読むまでは。
もともと諦めがわるい私は、本づくりの夢がたとえ叶わなくてもチャレンジしようと、転職後、月1本のペースでエッセイを書き始めていた。
だけど、「誰にも求められていない文章」を書く恥ずかしさや報われなさとの戦いは、体力も気力も消耗する。
夢へのモチベーションが右肩下がりになる一方の時に、この本を開いた。そこには、有名無名、色々なつくり手さんの、ありとあらゆる本づくりの実例やエピソードが詰め込まれていた。
今や売れっ子文筆家のあの人も、初めは自分で本をつくるところからスタートしたんだ!
私の今の年齢で本をつくって、文学フリマで売り子をした人がいるんだ!
ページをめくるたびに、しぼみかけていた本づくりの夢が、また熱を帯びていく。著者であり、“個人の本づくり”に、15年以上伴奏してきた藤原印刷の三代目・藤原兄弟が「本つくろうよ!」と、何者でもない私を誘ってくれているようだ。
冒頭のことばは、この本のトークイベントに参加し、藤原兄弟の兄・隆充さんにかけていただいた。イベント終了後、勇気をふりしぼって「いつか本をつくるのが夢なんです」と伝えてみたところ、目をまっすぐ見て、「本つくりましょう」と。
その瞬間、1月のときのように、涙があふれそうになり、慌てて隆充さんから目をそらした。
本を読んで、もう1つ、とても印象に残ったことがある。
それは、藤原兄弟がびっくりするほど「仲が良い」ことだ。この本は、前半を兄の隆充さん、後半を弟の章次さんが語る構成になっている。それぞれが「子どものころから、ほんとうに仲がよかった」、「40代に入ったいまもずっと仲がいい」と口々に言う。
これほど仲が良い大人の男兄弟を、私は知らない。
一つ年下の仲が良い妹がいる私にとって、兄弟で仲良く、ものづくりの仕事をすることは、憧れでもある。
妹は、絵がうまい。
子どもの頃から、動物や人の絵を色んなタッチで描いているのを隣で見て、すごいなぁと感心していた。
大人になってからも描き続けており、LINEスタンプでいくつも作品をリリースし、良い収入源になっているようだ。
ほのぼのして、ひとさじのユーモアがある妹の絵が私は大好きで、もっと世に出てほしいと思っている。
転職してまだ間もない春先、妹が家に遊びに来た時に、「私が文を書くから、イラストを描いてくれへん?」と、軽い気持ちで本づくりを誘ってみた。すると妹は、目をキラキラさせて「やろうやろう~!喜んで描くよ!」と言って、その場ですぐに表紙のラフ画を描き始めた。隣で私が「ペンギン描いて。あと、コーヒーの絵も」と口を出していると、たちまち何パターンもできあがっていく。まるで子どもの頃、一日中一緒に落書きをして遊んでいた時のように、無邪気で楽しいひとときだった。
こうして生まれたラフ画を、いつか完成させたい。

本の中で、藤原兄弟は「本づくりは、みんなのものだ」と言い切る。年齢も、才能も、実績も関係ないのだと。
本をつくりたい。だから、つくろう。インフルエンサーでも、何者でもない私だって本をつくっていい。
この本を読み終わる頃には、本づくりの夢と希望で、心の中が満タンになっていた。
ちなみに、本づくりの実例では、予算や本のサイズや用紙の種類といった仕様も掲載されている。
どれひとつとして同じ姿かたちのない本たちの写真を眺めながら、「サイズは四六判変形にしようかな」「本文の用紙は、OKライトクリームNツヤにしようかな」と、まだ見ぬ自分の本の仕上がりを、超具体的に妄想できて楽しい。
我に返って手元を見ると、肝心の本の中身が、まだまだ真っ白だ。
だから、どんどん書こう。
この読書感想文も、私の本の1ページになるかもしれない。

