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内部統制

就任当初

将棋連盟の理事に就任した当初、多少の引き継ぎや部員との顔合わせはしたものの、その後は部員からの報告や相談は殆どなく、毎日淡々と時間が過ぎていきました。先輩理事からの助言を受け、過去の資料や契約書を読み込んだりして知識を吸収する日々。

業務執行理事にはなりましたが、部員とのコミュニケーションは不足しており、当初は大きな戸惑いを覚えました。こちらから情報共有を求めない限り情報が出てくることがありません。もちろん部署によって状況は変わりますが、部内や部を横断して情報共有する組織文化やチームで取り組む意識が希薄であったことは否めないでしょう。
重要案件であっても担当理事や役員会まで相談や上程がなく、現場で意思決定がなされ、トラブルや炎上が発生しても、その報告が責任者である理事にも届かないという状況は、まさに経営リスクのブラックボックス化と言えます。マネジメント側からすれば恐怖でしかありません。

当時の状況を内部統制に関するCOSOフレームワークに当てはめれば、以下のようであったと言えます。

統制環境=報告する文化・規範が根付いていない
リスク評価=炎上・トラブルを事前にリスクとして洗い出す仕組みがない
統制活動=承認プロセス・事前エスカレーションルールが不足している
情報と伝達=経営層に届くべき情報の経路が確保しきれていない
監視活動=報告状況や案件進行をモニタリングする体制がない

原因分析

なぜこのような機序に至っているのか。
それには当時の状況理解と将棋連盟がこれまで積み重ねてきた組織文化など多面的に要因を紐解く必要があります。
因果関係は常に単一の要因に帰結するものでもありません。時間軸を含めて、複数の要素がいくつも絡み合った分散因果性によって形成されていると考えられます。行動生物学では前の世代の慣習や価値観、遺伝までも考慮するようですが、組織運営においても多面的な解釈は不可欠と言えるでしょう。

理事と職員の関係

将棋連盟の理事と職員の関係は、一般的な企業の役員と社員の関係とは異なります。一般企業であれば、経営手腕に長けた人物が役員として組織を牽引しますが、将棋連盟の場合は、正会員(棋士、女流タイトル獲得者又は女流四段以上)による選挙によって理事が選任されます。
選挙で選ばれ、定められた任期があり、その運営を職員が支えるという構造は、一般企業の役員と社員というより、むしろ政治家と党職員の関係性の方が近いと言えるかもしれません。

将棋連盟の理事の任期は1期2年と短く、継続する場合は再度立候補する形となります。多くはマネジメント経験に乏しい状態で就任しているのが現状です。体系的なマネジメント教育を受けているわけではなく、過去に理事経験がある棋士であっても、それはあくまで将棋連盟内部での経験に留まります。
長年将棋という特定の分野に情熱を注いできた棋士は、高度な専門知識を有する一方で、個性豊かな人物が揃った集団でもあり、理事としてのマネジメント能力は就任後の成長力も含めて個人差が非常に大きい状況と言えるでしょう。

運営体制

こうした状況下において、職員は理事が誰になっても最低限運営を回していく必要があります。最低限の運営業務、すなわちプロの公式戦やアマチュア大会の開催、大盤解説会等のイベントへの棋士・女流棋士派遣、教室運営、そして棋士・女流棋士への報酬や職員への給与支払いなどを、滞りなく遂行できる能力が求められます。
職員、特に生え抜きの職員は、将棋への深い愛情と、将棋に関わる仕事への憧れを持って入社する傾向が強く、長年にわたり将棋連盟独自の組織文化の中でキャリアを形成してきた方が殆どです。そのため、一般的なビジネススキルを幅広く習得しているというよりも、将棋界という特定の領域に特化した専門性を有していると言えるでしょう。

一方で、理事は対局や報酬といった棋士に関わる事柄については助言や指示が可能ですが、新規事業の立ち上げやIT関連の相談等々、自身の知識や経験が十分でない分野においては、適切な意思決定を行うことが困難となる場合があります。理事自身が対局で不在となることもあり、現場に一任するケースも多かったと思います。

つまり、現場レイヤーと意思決定レイヤーの認識にノイズ(ばらつき)が生じやすく、案件によっては現場主導で意思決定を行った方が組織運営にとって効率的なことも多々存在していたため、内部統制に関する組織文化が醸成されてこなかったとも言えます。

過去の理事経験者の発言を見てみても、その一端が伺えます。

「今までは将棋連盟の理事というのは、八段になって、功成り名遂げた人が、最終的に、まあ名誉職的になる。」

将棋ペンクラブログより(https://shogipenclublog.com/blog/2015/05/05/%E7%A0%94%E4%BF%AE%E4%BC%9A%E3%82%92%E4%BD%9C%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%A3%8B%E5%A3%AB/

しかし、社会情勢の不確実性が増す現代において、長年にわたり将棋界を支えてきた新聞業界の経営状況も厳しさを増し、将棋連盟を取り巻く環境は大きく変化しています。
内部統制の不備や意思決定レイヤーにおけるスキル不足は、組織のコンプライアンス体制を脆弱化させ、発展を阻害する要因となりかねません。組織を改善するためには、私自身が担当部署および組織全体から求められるスキルを早期に習得し、周囲に遅れを取らないよう努め、さらには周囲からの理解と信頼を獲得していくことが不可欠でした。

信頼関係の構築

村社会で信頼関係を築くには、地道なコミュニケーションと真摯な業務遂行以外に道はありません。周囲の理解と信頼を得られないまま改革を試みても、組織全体を俯瞰した際に、自身が異質な存在として認識されてしまいます。
幸いなことに、佐藤会長をはじめとする業務執行理事は、組織発展に向けた変革意識を持っており、理事間での意識共有は早期に実現しました。これは非常に幸運なことでした。

さて、部員から情報共有が不足しているならば、コミュニケーションを積極的にを図り、自ら情報を収集・蓄積していくしかありません。しかし、当時の私は情報を分析し、適切な意思決定をしていくためのインテリジェンス能力が不足しています。理事としての経験も浅い状況なので無理もありません。
関連書籍を渉猟したりもしましたが、スキルアップには実戦経験が不可欠であり、自分にとってメンターとなる存在が必要でした。

このようなメンターとのコミュニケーションはその後の大きな成長要因となるのですが、この点についてまた別の機会に書いていきたいと思います。

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