【せりふ三題噺】骨占い|長靴ネモフィラ骨
「待たせたね」
レインコートの老婆が部屋に入ってきた。時刻は夜。しかし雨は降っていないし天井がある。なのに老婆のレインコートは常に濡れ、長靴は湿った足音を鳴らす。
老婆は男の向かいに座った。二人の間に机一つ、その上に紙とペン、ランプがある。ランプからは花の香りがする。
「それで、今夜はどんな占いをご希望かな?手相、カード、姓名診断、それとも星占い?」
「骨占いを。俺の運命上にある探し物を」
老婆の眉が一瞬吊り上がり、微かに笑った。この店の看板に骨占いなんてない。つまり、男は裏メニューを知っている客である。
男は靴を脱いで寝台に寝かされた。老婆は厚く古い本を片手に、男の体と本を交互に見ながら全身の何かを確かめている。老婆の目には、まるでレントゲンのように男の骨格が捉えられているのだという。
「骨に命の在り方が現れている。ウマ、クジラ、コウモリ。これらは全て哺乳類。しかし草原のウマは足と蹄を、海のクジラはヒレを、空を飛ぶコウモリは翼を獲得し、骨もその形に従う」
老婆は何かを紙に書きながら言った。
「俺の骨を見て俺の生き方を診断するというのか?整骨院が廃業しないか心配だ」
男が冷ややかに言うと、老婆は乾いた笑いを返す。
老婆は指を鳴らした。すると寝台の下、床一面を青白い花が広がる。ぼんやりと青く光り、風もないのにゆらゆら揺れている。香りはほとんどない。
「さて、整骨院との差別化といこうかね」
ふと、全身の力が抜けた。瞬きもできない。老婆がそっと男の瞳を閉じる。肺と心臓が動いているのみで、指一本動かない。
「お前さんの筋肉や内臓を、一時的に骨から切り離した。その間の生命維持はこのネモフィラたちが肩代わりする」
不思議なことに息苦しさはなかった。肺や横隔膜が肋骨から分離しているというのに。
「肋骨の氣と大腿骨の氣が繋がりすぎている。それから仙骨の氣が強い。活力と思いやりの相…ふん、誰かのために必死になっているね。あんたの探し物が分かったよ」
体の感覚が戻り、目を開けた。気付けばネモフィラは光を失い、寝台から起き上がると、老婆はいなかった。
左手に何かが握られている。何かが書かれた紙だ。薬指に巻き付けるように握らせたのが、厭味ったらしい。男は薬指の青白い指輪をそっと撫でた。
*
「ほんとにいたんだって!」
彼女は業務用のスマホの画面を見せながら言った。
「真夜中に現れるレインコートの老婆の噂、この目で見たのに、撮ろうとしたら逃しちゃって!絶対次の記事の特ダネになると思ったのに!」
編集室の一角で、男はコーヒーを一口含んだ。自分と同じ指輪をする彼女に、一枚の紙を差し出した。
「なにこれ、占いの紹介クーポン?」
「探し物が必ず見つかるっていう占い師だってさ。君が欲しいものが見つかるかも。今度一緒に行こう」
ネモフィラの花言葉は”どこでも成功する”。君のそばにも咲きますように。
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