【シロクマ文芸部】里帰りはゆっくりと
ゆっくりと溶ける雪が、黒い屋根の傾斜を滑り落ちるのが見えた。この北国にも春が訪れた。
橋の真ん中で立ち止まり、その下を流れる川に目をやる。この前まで凍っていた川に、清い雪解け水がサラサラと流れている。もう少ししたらツクシが伸びるだろう。
「どうした、何かあったか?」
師匠に呼び止められ、少年は首を振る。
「いいえ、失礼いたしました」
少年は師匠に付き従い、橋を渡った。鳥の声が聞こえる。雪の時代がもうすぐ終わるのだ。
ここは、かつて日本と呼ばれていた。人がたくさん住んでいた。少年にも日本人の血が流れており、この身の内にある何かが、この地に帰りたがっている。本能レベルの郷愁。人に教わるまでもなく、この地への帰郷を強く望んだ。
地上奪還作戦。日本のみならず、かつて人々は地上に住んでいた。それを、我々生き残りが取り戻す。これはそんな物語である。
