【せりふ三題噺】快速・極楽本線|新幹線花びらレモンスカッシュ
天国へ行ける新幹線があるという。
丑三つ時(深夜二時)、桜色のチケットを持ってS駅のホームに立つと、存在しない便が到着し、それに乗ると天国へ行けるそうだ。実際、この駅で行方不明者が続出している。その調査のため、探偵はホームに訪れた。
嫌な予感はした。自分に付けたGPSが反応しなくなり、助手との無線が途切れた。腕時計は進んだり戻ったりし、電光掲示板は『おめでとう』の羅列ばかり。ホームの出口は見えるが、いくら進んでも出口に近づけない。
ほどなくして新幹線が到着した。何の変哲もない白い車体、ホームの前でドアが開き、探偵は意を決して乗り込む。
乗客は誰もいない。しかし座席に人の服や荷物だけが残っている。学生の制服、ビジネススーツ、薄汚れた服。
成人男性が多いな。探偵は思った。
何より、空気が異様だった。
「甘いな」
探偵が思わず呟くほどだった。花束に顔を突っ込んでもここまで甘くならない。吐き気を覚えるほどの甘さだ。
乗客が残した荷物に、ペットボトル飲料があった。少し前のCMに出ていたレモンスカッシュ、賞味期限は数か月前。半分ほど飲まれているが、まるで買ったばかりのように冷たく、炭酸もかなり残っている。
ぞっとして探偵は腕時計を見た。針は、同じ一秒を刻み続けている。
——ご乗車ありがとうございます。
背後から声がした。振り返っても、誰もいない。
——この列車は、快速・極楽行き。
気付けば列車は発車していた。車窓を流れる景色は、探偵の知るこの街の景色ではない。深夜だというのに陽光に照らされ、果てまで広がる白い雲海。
ふと、心地よくなってきた。体が暖かく、瞼が重くなる。探偵は開いている席に座った。隣の座席には、男性のスーツの上下が残っており、つまり”召された”跡なのだろう。
体が座席に沈むようだ。体から垢が零れるように、花びらがポロポロと……。
『先生!聞こえますか!?』
無線から聞こえる助手の声で意識が戻った。探偵は座席から飛び起きた。体から僅かに零れた桜の花びらを払い、無事を確認する。
「助手、俺の位置座標は?」
『駅周辺で変な挙動しています』
「てことは天国には」
『まだ行ってませんね』
探偵は煙草に火を点けた。
——社内での喫煙はご遠慮ください。
「断る」
——お客様。
「生憎、客じゃない」
探偵は桜色のチケットを取り出した。この列車に乗る条件は桜色のチケット。しかし、このチケットは偽造品である。
「悪い奴は天国に行けないよなあ!」
車窓の景色ががらりと変わった。深夜の真っ暗闇。窓を打つ血の雨と、赤い手形。
上等だ。直通の天国より、各駅停車の地獄の方が俺に合っている。
後日、幾人もの行方不明者がS駅で見つかったと報道されるが、居合わせた探偵は、関与を否定。
S市は今日も、依頼に事欠かない。
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