【シロクマ文芸部】花びらを貨幣に
花びらを貨幣とする街があった。
少年は財布の中の結晶化した花びらに目を落とした。季節ごとに咲く花が変わる。薄桃色の広く丸い花びらが、まるで鯉の鱗のような形をしており、ほのかに甘い春の香りが財布を満たしている。
随分と溜まった。少年は財布と、愛用のカメラを懐に入れて家を出た。
少年の仕事は考古学者の弟子。前時代の遺物を掘り出したり、それを調べて発表する。そうして花びらを稼いでいるのだ。
「ごめんください」
少年はある店の扉を開けた。この街唯一の、写真屋である。
「現像をお願いします。それと、新しいフィルムを」
少年は懐からカメラを取り出し、フィルムを巻いて抜き取り、店主に渡した。
店主は、少年と同い年の少女だった。
「お客さん、前回の現像も済んでいるから、お渡しするね」
店主は山吹色の綺麗な紙で写真を包んで渡してくれた。少年はそれをそっと懐に仕舞う。
「デジタルデータと違って現像した写真の寿命は短いよ。すぐ色褪せるし、紙も劣化する。どうしてフィルムに拘るの?」
店主は少年に問うた。
「……むかしは花は貨幣じゃなかった」
少年は店の料金表を見ながら花びらを計算し、財布から出す。
「花は咲いて、少しの間彩りを誇って、季節を越えず朽ちていった。それを繰り返していた。今は違う。全ての花は結晶化してしまった」
店主は花びらを特殊な天秤に乗せ、計算しながら聞いていた。
「その現象で花の美しさは永遠のものになった。その代わり、咲いたり散ったりするという美が失われた。この損失は、大きい。
だから僕は、現像された写真が好きなんだ」
少年は店主に礼を言い、写真と新しい空白のフィルムを受け取った。
——それに、写真が朽ちてくれるおかげで、何度も貴女に会える。少年にはそれを言う勇気が、まだ無かった。
