【カメラを置いて鍬を持つ】第15話 北海道の大地と、8階の小さな花
まずは、カメラ置いてないのがバレますが、北の大地へ行ってきました。
実は先日、仕事で北海道に4日間ほど行っておりました。撮影と研修と営業を兼ねた出張です。
せっかくなので、撮ってきた写真を少しだけ。

まずは稚内、「日本最北端の地」の碑。三角形のモニュメントの向こうに、ただただ青い海が広がっていました。ここから先はもう海。日本という国のいちばん端っこに立っているのだと思うと、不思議な感慨がありました。

宗谷丘陵の、どこまでも続くなだらかな緑。視界の果てまで草原と海しかないというのは、北千住で暮らす身からすると、ちょっと現実離れした景色でした。

そして美瑛。残雪をいただいた十勝岳連峰を背景にした、青々とした麦畑。手前にぽつんと建つ三角屋根の家。──これはもう、絵葉書ですね。

有名な白金 青い池にも寄りました。立ち枯れた木々と、本当にコバルトブルーの水面。自然がつくり出す色とは思えない不思議さで、しばらく見入ってしまいました。

すぐ近くの白ひげの滝。崖の途中から地下水がしみ出して、そのまま滝になって落ちている。流れ込む川まで青くて、北海道の水の豊かさを思い知らされました。
……と、まあ、職業病でついシャッターを切ってしまうわけです。スマホですがね(笑)。鍬を持つと決めたはずなのに、雄大な景色を前にすると、やっぱり身体が勝手に構えてしまう。20年は伊達じゃないということで、ご容赦ください。
それにしても、北海道の農地のスケールには圧倒されます。私が目指している実家の50坪なんて、この風景の中では点にもならない。けれど、いつかこういう景色の中で土に向き合えたら――そんなことを、麦畑を眺めながら少し考えていました。
でも、心はずっと8階のベランダに
そんな雄大な大地を旅していても。
私の心は、ずっと北千住の8階のベランダにありました。
そう、トマトです。出張中、水やりは妻に任せてきたのですが、これがなかなか気が気じゃない。「台風が来たら倒れないか」「水は足りているか」と、最北端の海を眺めながらトマトの心配をしている自分。我ながら、ずいぶん遠くまで来たものだと笑ってしまいました。
そして出張3日目。妻から一通の連絡が届きました。
「花、咲いたよ」
写真付きで。黄色い、星形の小さな花が。

正直、最北端の碑を見たときよりテンションが上がりました。家族には内緒ですが。
帰宅、そして対面
出張から戻って、荷物を置くより先にベランダへ直行。
咲いていました。本当に、黄色い花が。
トマトにとって花が咲くというのは、ただの「開花」ではなく、「ここから実をつけるモードに切り替わりました」というサインなんだそうです。葉や茎を伸ばして体を大きくするフェーズが一区切りして、いよいよ次の世代――私たちが食べるあの赤い実――を作り始める準備が整った、ということ。
この最初の花のかたまりを「第一花房(だいいちかぼう)」と呼ぶのだとか。第14話まで「話」ばかり書いてきた私には、妙な親近感のある響きでした。
留守を守ってくれた妻に、心から感謝です。
……でも、なんだか元気がない
ところが。喜んだのも束の間、よく見ると気になることが。

葉っぱの色が、薄いんです。
本来トマトの葉はもっと濃い緑をしているもの。それがうちの子は全体的に黄緑色で、「健康優良児」というより「ちょっと食が細い子」みたいな顔をしている。花は咲いたのに、なんだか元気がない。出張中の世話のせいではなく、これは鉢植えにありがちな肥料不足のサインのようでした。
鉢植えは畑と違って、水やりのたびに養分が下から流れ出てしまう。父の畑なら卵の殻だの藁だので土そのものを豊かにする「地力勝負」ができるのですが、8階のベランダではそうもいかない。北海道のあの広大な大地とは、まさに正反対の世界です。
心配になった私は、調べに調べました。「追肥は、何をあげればいいのか」と。
追肥、何をあげるか問題
これが、なかなか奥が深かったので共有させてください。
選択肢は大きく3つありました。
① 液体肥料(ハイポネックスのトマト用など)
水で薄めて水やり代わりに与えるタイプ。効きが早いのが特徴で、「葉の色が薄い、すぐ何とかしたい」という今の状況に一番向いています。週1回ペース。
② 置き肥(マグァンプK・IB化成など)
土の上に置くと、水やりのたびに少しずつ溶け出す緩効性タイプ。手間がかからないので、今回みたいに出張で家を空けがちな私には、実は相性がいい。
③ その合わせ技
即効性の液肥で今の薄い葉を立て直しつつ、置き肥も仕込んでおく。ベランダ農家の現実的な落としどころ。
そして、ここが大事なポイント。
トマトは窒素(N)が多すぎると「つるボケ」する。
つるボケというのは、葉ばかりワサワサ茂って肝心の実がつかなくなる現象。今はまさに実をつけてほしい時期なので、窒素多めの観葉植物用なんかをあげてしまうと逆効果。「トマト用」「実もの野菜用」と書かれた、リン酸とカリがしっかり効くものを選ぶのが正解でした。
撮影現場で「道具と手順で失敗を防ぐ」のが私の持ち味でしたが、農業でも同じ。気合で水をやるのではなく、正しいものを正しく選ぶ。結局そういうことなんですね。
一方、バジルくんは絶好調
トマトが食欲不振気味な横で。

同じ鉢のバジルは、やたら元気に茂っています。トマトとバジルは「コンパニオンプランツ」という相性抜群の名コンビ。一緒に植えると互いに良い影響があるとされる、畑の相棒です。
ただ、相棒とはいえ肥料は取り合いになる。トマトに実をしっかりつけさせたい今、このバジルの勢いは少々考えもの。そこで登場するのが「摘心」です。
バジルの先端を少し摘んでおくと、養分がトマトに回りやすくなる。しかも摘むことでバジル自身もわき芽が増えてこんもり茂る、一石二鳥のお話。
そして摘んだバジルは――もちろん、そのまま食卓へ。
第10話の最後で妻がほうれん草とベーコンとしめじを炒めてくれた話を書きましたが、今度は私が摘んだバジルが食卓に並ぶ番です。撮るだけだった私が、ようやく「収穫して、食べさせる側」に少しだけ近づいた気がして、これがなかなか嬉しいのです。
来週やること
トマト用の液肥を週1回与えて、薄い葉の色を立て直す
置き肥も土に仕込んで、次の出張に備える(合わせ技)
肥料は必ず「トマト用・実もの用」を選ぶ(つるボケ防止)
バジルの先端を摘心して、トマトへ養分を譲る(摘んだ分は夕食へ)
晴れた日の午前中、花を見つけたら指でトントン受粉
第一花房に小さな実がつき始めていないか毎朝チェック
今回のまとめ
仕事で北海道を縦断。最北端の地から白金青い池まで、雄大な大地に圧倒された
が、心はずっと8階のベランダのトマトにあった(妻に世話を感謝)
出張中に第一花房(黄色い花)が開花。帰宅して感動の対面
ただし葉の色が薄く、肥料不足のサイン。鉢植えはこまめな追肥が必須
追肥は「トマト用」を選ぶのが鉄則。窒素過多は「つるボケ」を招く
相棒のバジルは摘心して養分を譲ってもらう(摘んだ分はおいしくいただく)
北海道で見た、地平線まで続く農地。あの中に立っていた私が、家に帰って真っ先にしゃがみ込んだのは、8階のベランダの小さな鉢の前でした。
スケールはまるで違う。けれど、土と向き合って何かを育てるという一点において、北の大地もうちのベランダも、地続きなのかもしれない。──そんなことを、薄い緑の葉っぱを眺めながら思った帰宅初日でした。
さて、追肥の成果やいかに。来週には、葉っぱが少し元気を取り戻してくれるでしょうか。
それではまた、次回。
📕 連載「カメラを置いて鍬を持つ」
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