生命科学的バタフライエフェクト

AKIRAです。
今回の記事はちょっと変わったことを書くかも。


バタフライエフェクト

「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」

この一文がバタフライエフェクトです。

要は、全体でみると大したことのない変化でも、その変化がのちに全体にとんでもない大きな影響を与えてしまっている、という物理学のカオス理論における予測不可能な運動理論的現象を指します。

一般的にはよく小説などの物語を盛り上げる際に、登場人物の行動などの些細な変化でとんでもない展開に持っていくときに使う手法として知られます。皆さんにもわかるように言うならば、「伏線」や「フラグ」といったほうがいいでしょうか。

細胞学的バタフライエフェクト

そして、細胞学におけるバタフライエフェクトは何に該当するのか。

これは、細胞内のシグナル伝達などが該当します。

人間の体は細胞の塊です。
当然、細胞同士でも分子を用いてやり取りをします。皆さんにもわかるような例は、ホルモンなどでしょうか。
ホルモンは、ホルモンを分泌する臓器から作られ、血管内を流れていき、ホルモンの目的地である別の細胞までたどり着くと、細胞膜表面や細胞内の受容体に結合して効果を発揮します。
インスリンなんかは有名なホルモンですね。

インスリンは細胞膜表面の受容体に結合すると、細胞にグルコースを取り込んだり、細胞内のグリコーゲンをグルコースに分解するシグナルが細胞に発信されます。
このシグナル、というのはインスリンが直に出しているものではなく、インスリンの信号を受け取った受容体から細胞内の関連するすべての分子がバケツリレーのように情報を渡していくことで起こります。
例えば、インスリン1分子が受容体に結合すると、A→B→C→D・・・・という風にいくつかの分子につながっていくのです。


イメージとしてはこんな感じでしょうか。
たった1分子のインスリンが受容体に結合するだけで末端のほうでは何十、何百、何千、何万もシグナルが増幅されます。
逆に言えば、少しの量で大きな効果量を出してしまうとも言えるのです。

そういう意味では、これも一つのバタフライエフェクトと言えるのではないでしょうか。

分化誘導におけるバタフライエフェクト

主に創薬スクリーニングや再生医療などに扱われるiPS細胞は、一般的には未分化(皮膚や神経、筋肉の細胞みたいに役割がまだ決まっていない細胞の性質)状態であると理解されています。
このような未分化細胞を神経や筋肉の細胞に時間をかけて変化させる実験手法を分化誘導実験と言います。

分化誘導は、狙って特定の細胞に分化させるため、iPS細胞を放っておけば勝手に分化するものではありません。分化誘導に使う試薬を培地中に混ぜて分化を刺激してやらないといけません。
良く扱われる試薬はBMP4タンパクですがなぜこれを使うかというと、実際に受精卵の状態から特定の役割をもつ組織に分化するときに細胞からBMP4が出てきて中胚葉誘導がかかるためです。

ですが、このBMP4をはじめとした分化誘導にかかわる分泌因子と呼ばれる分子は、先ほどのインスリンと同様にちょっとの量でも効果を発揮する因子ですので、濃度が高すぎるのも問題なのです。
よく細胞培養の時は細菌が繁殖するのを防ぐために抗生物質を培地に入れたりしますが、その抗生物質よりも1000倍くらい薄めて入れるくらいです。
つまりそれだけ薄めないと強い効果が出てしまうということ。

それくらい、分泌因子というのは生命科学的バタフライエフェクトが強く影響してしまう一例です。

カスケード

こういった、一つの分子が次々とほかの分子へとシグナルを渡す際に、酵素や分子の数が何百万倍にも膨れ上がる分子生物学的現象をカスケードと言います。言い換えれば、分子生物学的バタフライエフェクトと言えば、このカスケードであると言えるかもしれませんね。

通常、こういった現象を発生させる反応系にかかわる試薬は、濃度を厳密にしないと望ましい結果から遠く離れた結果を導いてしまうことがしばしばです。
当然ですが、転写因子などの遺伝子から発現するタンパクも同じです。あまりに発現が強すぎるせいでうまくいかないこともあります。
これは私見ですが、分化にかかわる転写因子の遺伝子発現にかかわるものは、比較的大きなシグナルカスケードを持つ印象です。
インスリンも分化誘導で扱われることが多いですしね。

mRNAとタンパク発現も同じ

当たり前ですがmRNAとタンパクにおいても同じことが言えます。
基本的な遺伝子発現制御はDNA上の制御配列依存ですが、それとは別にRNAを軸にした制御もあります。(主に正の制御、増やすかそのままか。)

当たり前ですが、有害事象などを考えるとき、直接的な原因となる分子を検出するなり定量するなりしないとわかりません。
mRNAの量が細胞にとって適量でも、そこからコードされているタンパク質の発現までコントロールはできないです。
まあ、何が言いたいかというと、mRNAにおいてもバタフライエフェクトの影響がありうるということですね。


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