能動的なクリアランスシステム
AKIRAです。
本日は、以前の記事(↓)の続きになります。
生体機能はそれそのものが非常に優秀な人体運営システム
恒常性(ホメオスタシス)
パソコンなどのコンピュータを動かすのにシステム(OSなど)があるように、ヒトの日常の行動や生きるための行動を支えるシステムも存在します。それは私たちが当たり前にあるもののように感じている一方、実は普通のPCよりも圧倒的に優秀なシステムになっています。
ヒトの体が、「いつも通り」に動く・動かせるようにするための機構を恒常性(ホメオスタシス)と言ったりしますが、動くために必要なエネルギーを生み出したり、傷ついた部分を修復したりする機能も精密かつ大規模に設計されていたりします。
我々生命科学分野の研究者は、それらの作用機序や生理学・病理学的な知見を実験を通して研究し、論文や学会発表等でそれらを知識体系化するわけです。しかし、様々な研究分野が切磋琢磨し様々な報告が挙げられている現代においてもなお、ヒトの体の仕組みはよくわかっていません。
それだけ、ヒトの体の”つくり”は非常に精密かつ精巧、優秀なシステムを構築しており、それらすべてが「恒常性」という言葉に集約されています。
ヒトの体にも互換性がある
しかし、そんな優秀なシステムも、欠陥が全くないわけではないので正しく制御するためにはそれらのシステムに対する高解像度な理解が必要です。
PCだって、mac OSでしか動かないプログラムをwindowsデバイスにダウンロードしても、動くわけがありません。仮に、OSを統一されていたとしても、バージョン(windows7では動くけどwindows10以降は動かないなど)が違えば、途端に動かなくなるでしょう。
いわば、互換性の有無がヒトの体にもあるわけです。
それが、どういった要素によって決定されているのかは、様々な条件によって厳密に制御されていますので、それを同定するのはなかなか難しいですが。
高度ゆえにわかりにくい、だからこそ体系的な理解が必要
なんでもそうですが、精密なものほど壊れやすいもの。
PCなんてまさしくその典型で、ちょっとした衝撃でもパフォーマンスに影響が出てしまうほどの精密機械です。
当然、直すのも一苦労。ハードが悪いのかソフトが悪いのか。
それを考えるのにも知識が必要です。
ヒトの体も同じ。
それだけ高度であれば、治すのも一苦労なのです。
違うのは、ヒトの場合は「替えが利かない」点。故障してしまった部分を取り換えてハイ終了、とはいかない。ただし、それがどういった理由で故障しているかが分かれば自分で修復できます。それが、ヒトの体の摩訶不思議なのですが。
とはいえ、治すためには高度な知識が必要になる。かつて大昔は「医学」分野で十分だったのが、現代においては「分子生物学」「細胞生理学」「遺伝子工学」「生化学」など、生命科学分野の知識までもが標準装備です。
人体の構造と機能への理解なしに、「治す」など不可能です。
そして、それはPCを分解して中身の構造を理解する以上に難しいことだということをまずはご理解ください。
生体機能への理解と製薬
クリアランスも能動的でなければならない
以前、「薬剤はどうやって体外に排出されるのか」というテーマでの簡単な記事を投稿しました。
そこでもお話ししたのですが、一般的に錠剤という形で投与される薬剤の代謝は、ヒトが肝臓に持つ酵素CYPによる分解によって行われ、適切な排泄機構によって処理されます。
そう、CYPは「能動的なクリアランスシステム」なのです。
理由は単純に「薬剤を作る側がCYPで分解されるように設計しているから」です。
ヒトが生来より持つ体の機能を利用して、投与した薬剤を分解する。
その反応が薬剤に対して特異的であるからこそ、最適な濃度で投与すれば副作用なく薬剤の効能を発揮させて、そのまま代謝して排泄できるわけです。
特に、この「酵素による反応」は、生化学的に非常に特異的な反応です。
だからこそ、外から体に入れたものでも問題なく代謝できるという「機序」が成り立っているわけです。
私はこのような代謝によるクリアランスを「能動的クリアランス」と呼んでいます。
制御機構は様々
例えば、栄養素や先ほど上がった毒物などは酵素による分解で代謝できます。プラスチックなどの分子は、残念ながら人間には代謝できませんのでそもそも摂取しませんよね?
ただし、フグ毒(テトロドトキシン)など、毒は毒でも分解できないものも存在します。これは、ヒトが持つ酵素にフグ毒を分解する能力がないためです。したがって、濃度を下げても服毒すれば毒性は発揮されてしまいます。日本人は「食」へのあくなき探求心からなのか、ふぐ刺しを食べたりしますが、海外ではおよそあり得ないことです。まあ、だからと言ってふぐ刺しが危険だ!という気はさらさらありませんが、それでもそれを避けるのはヒトの本能に根差したシステムによる危機回避機能が働いている証拠と言えるでしょう。
組織レベルで言えば、例えばホルモン。
細胞単位で制御するのは難しくても、離れた臓器同士の相互作用によって、血中濃度をコントロール(フィードバック制御)することは可能です。甲状腺ホルモン(T3, T4)は文字通り甲状腺から分泌されますが、このホルモン分泌を刺激するTSH(甲状腺刺激ホルモン)は下垂体前葉から分泌されます。つまり、甲状腺ホルモンの分泌量は下垂体にフィードバックがかかることで調節されるということです。
細胞レベルなら、遺伝子発現。
自身が持つ遺伝子(ゲノムDNA)であれば、そこから転写されてできるmRNAやタンパクをコードしないncRNAの量は調節できます。ゲノムDNAにフィードバックがかかるからです。
これは、タンパク発現でも同じ話。
タンパクが合成されるのはmRNAが合成され、そこからタンパクが作られるからですが、このmRNAを抑えるのだって細胞の発現制御によって能動的に分解する(miRNAなどのRNA干渉によるもの)機構が働いているためです。言い換えると、RNAにフィードバックがかかっているということもできます。
これらは程度の差はあれど、立派な人体の調節機構です。
こういった、細胞が自分で(能動的に)制御をかけることができるのも、制御をかける遺伝子が自身の持つゲノム上に記録されている遺伝子だからできるわけです。外から導入した遺伝子が能動的な制御無く朽ち果てるのを待っていたら、いつなくなるのかがわかりません。
自身で発現量を調節できないなんて馬鹿げている
仮に。
細胞が自ら、外部から導入された遺伝子の発現量を制御できない。
そんな製品があるとしたら。
中途半端です。
やめた方がいい。

