春燦々【せりふ三題噺】【屋上春一番ローファー】
卒業式まであと一週間となった2月下旬のある日。その日は天気も良く気温も上がっており、気持ちの良い午後だった。
美術部の私たちは、迫る卒業式に向けて装飾パネルを仕上げるべく、休日を返上して校舎の屋上に集まっていた。と言っても美術部2年女子のイチコ、ニイナ、ミク、私シュウの4人だけ。
先週までは、やれ雪が降るだの今冬一番の寒さだの言っていたのに、一気に春めいて今日にいたっては4月上旬並みの暖かさらしい。
パネルは大方仕上がっていたが、こうやって広い屋上で全体像を見ながら、細かいところを修正していく。
パステル調の花々がパネル一面に広がっていて、それを囲む様にヒラヒラとしたゴールドのリボンが描かれており、中央寄りに''卒業おめでとう!''の文字。講堂出てすぐの中庭に設定予定のそれは、フォトスポットとして使われることを想定して作成したものだ。
最終チェックを終え完成したパネルは、暫しペンキを乾かす為に手摺に立てかけて置く。
その間、広げていたペンキの缶や水の入ったバケツ類を片付けていると、
「あっ!」
振り向くと、体操服のトレパンにローファーという出立ちのイチコ。そのローファーに撥ねたピンクのペンキが点々と飛び散っていた。
「ぅうわー、最悪ぅ・・」
「ほらぁ、体育シューズに履き替えないから。」とニイナが言った。
幸い水性ペンキだから色は落とせたが、バケツの水でジャブジャブやった靴は中まで水が染みてしまい、パネルと一緒に乾かすことになった。
裸足のイチコと私で片付けの続きをしている間、ニイナとミクは近くのコンビニに買い出しへ。
ふと、イチコの足先を見ると、きれいにペディキュアが施されていた。
「爪、きれいやな〜」
爪先の春の空のような淡いブルーと若葉のグリーンとのグラデーションは、日に当たらず真っ白な足の甲によく映えていた。
手の爪だと校則的にダメだけど、足なら靴下脱がなきゃ分かんないでしょ、とイチコが笑う。
塗り方のコツなど聞いていると、買い出しに行っていたニイナとミクが、コンビニ袋を携えて帰ってきた。
「アイス食べよー!アイス、アイス!!」
先週まで、肉まん肉まん言ってたのにねー、何て言いながら、ワイワイ言ってアイスを選ぶ。
シュワシュワなイチゴソーダ味のアイスをかガリリと齧ると、中から練乳のソースが出てきて、口の中に甘い練乳の味が広がった。
食べながら喋る内容は、たわいもなく、でも私たちにとっては面白い日常の話。もうすぐ高3だし、進路や将来のこととか心の内は不安でいっぱいだけど、このアイスみたくシャワシュワでトロリと甘い部分もある、いいことばかりな楽しい感覚にもう少しだけ浸りたい。
おーい、そろそろパネルを中に仕舞うぞ、と顧問の山田がやってきた。今夜は雨降るみたいだぞと言われ、すっかり乾いたパネルを山田にも手伝ってもらいながら、慎重に部室まで運んだ。
そういえば、少し風が強くなってきた気がする。今はこんなにいい天気だけど、今夜雨が降るのは本当だろう。
校庭でまだ活動している運動部達を後目に、私たちは帰路に着いた。明日は日曜日だけど、4人とも塾だ。急に現実に引き戻され愚痴をこぼす。先程より強くなった風のせいで乱れる前髪を気にしながら。
今日吹いた風は春一番だった、と夜のニュースで言っていた。日が沈むころに雨も降り出し、昼間と打って変わって気温もだいぶ下がっていた。明日も雨で気温も低いらしい。三寒四温。寒い暖かいを繰り返し、春になって行くのだろう。
卒業式は晴れて暖かい日であってほしいな。あのパネルの絵が映えるのは、春の陽射しが燦々と降り注ぐ中だと思うから。卒業する先輩達へ祝福の気持ちを込めて、晴れますようにと願った。
