昔、本の編集の現場には、ポジフィルムがあった。
出版社でパートタイマーとして働いている。
きょう、若い編集部員さんが、私の隣の席で作業しているベテランパートさん(おそらく、元社員さんであろう)に「これって、何ですか?」と質問していた。
「友達と『プラダを着た悪魔2』を観に行ったんですけど、○○さん、観ました?」
「あ〜、主人公が編集者なんだってね。でも、私、まだ見てないねん」
「そうですか、で、映画の中でこんな場面が出てきて、友達と『何これ?』ってなって」
若い社員さんが差し出したスマホ画面を、ベテランパートさんが覗き込む。
そして、
「ああ、ポジや、ポジ! ポジフィルム!」
と声を上げた。
「ポジフィルム」という響きに思わず私も反応してしまい、「ポジ? 懐かしいですね」と椅子ごとお二人に向き合った。
私は普段、とても静かに仕事をしていて、仕事以外のことを話すことは滅多にないから、お二人も驚かれたと思う。
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今は「撮影」というとデジタル写真が納入されるが、昔(20年ほど前)はポジフィルムをカメラマンさんが直接編集部まで持ち込んでくれたものだ。
ポジフィルムはサイズが小さく(基本は24mm✖️36mmらしい。細かな数字は初めて知った)、目視では細部まで見られないため、ライトボックスの上にのせて専用のルーペでのぞきこむ。ピントが合っているか、被写体が人物だったらどんな表情をしているか、いろいろなことを考慮して、誌面に載せる写真を決定する。
そんな場面が『プラダを着た悪魔』にあったらしく、「本の編集という同じ仕事をしているのに、私はあんなものを見たことがない」と若い編集部員さんは不思議に思ったようだ。
ベテランパートさんと私が、「昔は写真と言えばポジフィルムでした」「ですね」と懐かしい気持ちに浸っていたら、彼女は言った。「小さくて見づらいじゃないですか。パソコンでバーンと写真を見る方が、便利ですね」と。
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うんうん、そう、その通り。私もそう思います。
でも、ポジフィルムをのぞきこむワクワク感というものが、昔は確かにありました。例えると、万華鏡をのぞくときの心持ちと似ている。自分と被写体だけの世界。静かに対話する感じ。
自分がセッティングした取材・撮影だったら、ここまで来た達成感に浸り、力を貸してくださったカメラマンさんやスタッフさん、同僚たちに感謝の思いを強くする。そして、「良い誌面になるぞ」という期待感と高揚感に包まれ、なんとも満たされた気持ちになる。
外部から貸し出されたフィルムだったら〜私の場合は映画俳優だったが〜これはもう至福以外の何者でもなく、お気に入りの俳優を独り占めしている悦びに浸った。
もちろん、パソコンの画面で写真を見ても、同じような気持ちになるのだろう。数人でモニターを囲んで「ああだこうだ」言うのも編集作業の楽しい工程だ。
だが、小さなレンズを挟んで被写体と1:1で向き合う経験は、今となってはとても貴重なものだったと思う。あの時間は特別だった。
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余談ですが、私の雑誌編集「はじめの一歩」は、なんと「版下作成」でした。その話はまたいずれ、ですね。
