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家の正解だけが増えていく

半年くらい前から、家の台所にスパイスが増えた。

普段わたしは、家で飲むものと言えば麦茶か牛乳だった。
ある時、カフェで飲み物を横に置いて作業してる人みたいに何か飲もうと思った。

マグカップに麦茶入れた。

なんか違う。
それじゃただの水分補給。

けど、コーヒーはそこまで飲みたくない。
ジュースは甘い。
紅茶は好きだけど、他にないかなと思っていた。
ぼんやりしていたら、「チャイ」が浮かんだ。

その時は冬だったので「チャイ作り方」で検索したら生姜入れたりして体が温まると書いてあった。
生姜好きだし一回作ってみようかな?

家にはお菓子作りで買ったパウダーのシナモンがあったので、それで作ってみた。
甘さはいらないから無糖で。

あれ?何これミルクティーよりおいしい!!

そうなると、だんだん他のスパイスも入れてみたくなる。

匂いやばっ!何これ?本当にコレ入れんの!?って、おいしそうじゃない香りに驚いたものもあった。

だけど出来上がったチャイは、意外なほどおいしかった。
知らない香りが、気分を上げてくれた。
作業中に飲み物を置く憧れの風景の完成である。

それから、毎日カルダモンを増やしたり、ブラックペッパー足したり、豆乳にしてみたり。
気分で変えて遊んだ。
スパイスカレー屋にも、インド料理屋にも行った事ないわたしは正解を知らないまま、自由にやっている。

「これ入れたら、どう空気変わる?」

納豆にクミン
粕汁にシナモン
餃子にフェンネル

みたいなことをやってしまう。
しかもそれがおいしい!

いつもの納豆が、知らない顔になる。
粕汁が、少しだけ遠くに行く。
餃子の湯気が、いつもと違う。

味を変えるというより、気分を曲げる。

お店の正解を知らないまま、家の正解だけが増えていく。

「これ、意外と合う」
「これは、やりすぎた」

正解かどうかは、まあ置いとく。

料理を“異国”にしなくても、いつもの場所のまま、空気だけ変わる。

今日の台所を、少しだけ違う場所にするために。

……今、うちの台所は「クミン沼」って看板立ってるかも。




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