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AIに広告費を食われる時代、World IDは「人間だけに届く広告」を作れるか

World ID(サム・アルトマン氏らが共同発明した、虹彩スキャンによる人間証明ID)が、博報堂DYホールディングスが設立した「人間にだけ広告を配信する」新会社「Ads for Humanity」で採用されるというニュースが出たので、詳細をNoteで書いていく。


World IDとは
18歳以上しか登録できない人間の証明

World IDは、2023年7月に日本にも上陸し、当時は虹彩スキャン会場に長蛇の列ができる人気だった。

筆者も最寄りのOrbスポットにて虹彩スキャンをおこない、その時の様子もNoteに書いた(下記)。

虹彩スキャンをすると、毎月10ワールドコインがもらえ、1年位で24万円ほどになっていたと記憶している。現在はすでに暴落し、18,515円ほどになっている。

今回の用途はWorld IDのかなり本筋

このニュースは、World IDが「暗号資産・Web3界隈の変な実験」から、ようやく実需っぽい文脈に出てきたという印象がある。しかも今回の用途は、かなり本筋だ。「一人の実在人間であること」を証明する技術なので、広告配信でAIボットやAIエージェントを弾くという使い方は、World IDの設計思想とかなり噛み合っている。

以前、World IDをコンビニの酒・タバコ販売時の認証に使うという計画があったが、それは主に「年齢確認」用途だった。ただ、日本でその用途に使うにはかなりハードルが高い。年齢確認には本人確認・公的ID・店舗責任・個人情報管理が絡むし、「虹彩スキャン」という言葉自体への心理的抵抗も強い。コンビニのレジ前で「目をスキャンしてください」と言われるのは、一般消費者にはまだ重すぎると思う。

しかし広告の「人間認証」は、ユーザーが直接レジで顔を出すようなものではなく、裏側の認証レイヤーとして働く。広告主から見ると、AIボットに広告費を吸われるアドフラウド対策になる。媒体社から見ると、「これは人間に届いたインプレッションです」と売れる。World IDから見ると、「個人情報を明かさずに人間性だけを証明する」という売り文句を、初めて大規模商用に近い形で出せる。

「人間の証明」から「AI時代の広告在庫の品質証明」へ

今回の面白さは、World IDが「人間の証明」だけでなく、「AI時代の広告在庫の品質証明」になっているところだと思う。AIエージェントがWebを巡回し、フォーム入力し、広告をクリックする世界になると、広告業界は「誰が見たのか」以前に、「それは人間だったのか」を売らなければならなくなる。つまり、広告配信のKPIが「imp/click/conversion」から、「verified human impression」のようなものへ一段シフトする。

社会的な警戒のおそれ

ただし、これは普通にディストピア味もある。虹彩IDは「IDから個人情報がわからない、単なる人間証明」であるとしても、広告・認証・ブロックチェーン・虹彩というワードが並ぶと、社会的にはかなり警戒される。特に日本だと、マイナンバーですら不信感が強い。虹彩認証を広告に使うとなると、「結局、誰がどこまで見ているの?」という反応は避けられない。

なので、World IDが本当に日の目を見るかどうかは、技術力そのものよりも、「ユーザー体験からどれだけ虹彩スキャン感を消せるか」と、「事業者がどれだけ“個人を追跡していない”と説明できるか」にかかっていると思う。技術としては筋がいい。しかし社会実装としては、まだかなり危うい橋を渡っている。今回の博報堂DYの件は、その最初の商業的な実験場になりそうだ。

クリック単価で払われるGoogle広告・AdSense

AIエージェントがWebページ上の広告をクリックすることは、かなり現実的に起きていると思う。ただし正確には、「AIがクリックしまくっている分をそのまま全部広告主が払っている」というより、Google側も無効クリック検出・返金・請求除外の仕組みは持っているが、検出をすり抜ける分は当然ある、という構図だ。

Google広告やAdSense系のクリック課金モデルは、昔からボット、クリックファーム、競合による嫌がらせクリック、低品質メディアによる不正クリックと戦ってきた。そこにAIエージェントが入ってくると、問題が一段ややこしくなる。従来のボットは挙動が機械的だったが、AIエージェントはページ内容を読み、検索意図っぽい文脈を作り、滞在し、スクロールし、フォーム入力までできる。つまり「人間っぽいノイズ」を出せる。

広告主から見ると、最悪なのはクリックが増えているのに、売上や問い合わせ品質が上がらない状態だ。クリックするのも訪問するのもボットであれば、当然そうなる。Google広告の管理画面ではクリック数、CTR、CVR、CPCなどが見えるが、そのクリックの背後が「購買意図のある人間」なのか、「情報収集しているAIエージェント」なのか、「不正ボット」なのかは完全には見えない。ここが広告主にとってかなり気持ち悪い。

広告を見る主体はAIに移り始めている

特にリスティング広告は検索意図に課金しているモデルなので、本来は「このキーワードで検索した人間は買う可能性が高い」という前提で成立している。しかしAI時代には、検索や比較やクリックを人間本人ではなくAIが代行する。たとえば人間が「旅行先を探して」とAIに頼み、AIがホテル広告や比較サイトを巡回する。この場合、クリック元は人間の代理ではあるが、広告を見る主体はAIだ。これは不正ではないが、広告主が想定していた「人間の注意」ではない。

だから今回のWorld ID広告の文脈はそこに刺さる。「広告が人間に届いたことを証明する」という売り方は、クリック単価モデルへの根本的な不信から生まれている。クリック数そのものが汚染されるなら、次の価値は「認証済み人間に表示された」「認証済み人間がクリックした」「認証済み人間がコンバージョンした」になる。

博報堂DYはAI時代の広告へ進化できるか

ただ、Google広告やAdSenseにそのままWorld IDを入れるのは簡単ではないと思う。Googleは自社で巨大な不正検知システムとログインID基盤を持っているし、外部の虹彩認証IDに広告品質を依存することは嫌がるはずだ。むしろ博報堂DYのような広告会社や媒体ネットワークが、「Googleとは別の、高信頼な人間認証広告枠」として売るほうが自然だろう。

要するに、今のCPC広告は「クリック=人間の関心」という前提がもう崩れ始めている。AIエージェント時代には、クリックは単なる機械的行動ログになっていく。広告業界はたぶん、「クリック数を買う」から「認証済みの人間接触を買う」方向に寄っていく。World IDは、その新しい広告メートル法の候補として出てきた感じだ。


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