「AIを使う国」から「AIで動く国」へ。AIホワイトペーパー2.0が描く日本の構造転換
「これは人間社会に迫るとてつもない変革の、まだ序章に過ぎない。」
そう語ったのは、AGI、すなわち汎用人工知能という言葉を世に送り出したGoogle DeepMindの共同創業者、シェーン・レッグ博士。3月17日、私が事務局長を務める自民党のAI・web3小委員会にお越しいただいたときのことでした。
その一言で、会議室の空気が変わりました。
AIは、もはや「便利なツール」の話ではない。社会の構造そのものが問われている。そうした確信と危機感を胸に、私たちはこの4月、「AIホワイトペーパー2.0〜AI駆動型国家への構造転換」を取りまとめました。

ChatGPTの衝撃から3年
振り返れば、2023年の春。ChatGPTが社会に衝撃を与えてまもない頃、自民党のAI政策はまだ手探りの状態でした。
平井卓也本部長、平将明座長のもと、自民党デジタル社会推進本部「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」で事務局長として初代AIホワイトペーパーの策定に携わったのが、私のAI政策との本格的な出会いでした。
あの頃は夢中で走り続ける毎日でした。OpenAIのサム・アルトマンCEOの来日、Microsoftのブラッド・スミス社長との会合、EUのAI法起草者との意見交換。完成したばかりのホワイトペーパーの英語版をスミス氏に手渡すと、「この報告書を一行一行読み込んで、日本の期待に応えるよう取り組んでいきたい」と力強く応じてくれました。
その後、Microsoftは日本への大型投資を発表し、OpenAIは東京にアジア初の拠点を開設しました。政策文書そのものが投資を決めた、などと言うつもりはありません。しかし、日本がAIに前向きで、同時に信頼できるルールづくりを重視する国だというメッセージは、確かに届いていたのだと思います。(詳しくは、以前のブログ「OpenAI日本進出の背景」をご覧ください。)
2024年、2025年と後任の同期の仲間(尾崎正直、小森卓郎両代議士)がホワイトペーパーを積み重ね、そして今年。私は改めてAI・web3小委員会の事務局長として、「2.0」と銘打った新たな提言の取りまとめを担うこととなりました。
AIを「持てる国」と「持たざる国」
構想の種は、昨秋のイタリアで蒔かれました。
2025年10月、スタンフォード大学とRAND研究所が主催するAGIに関するハイレベル会議に、日本から唯一の参加者として招かれました。
舞台は、イタリア北部のベラージオ。ルネサンス以来、世界の知が交差してきた湖畔の街です。米国の歴代安全保障担当補佐官、フロンティアAI企業の幹部、第一線の研究者ら約20名が、AGIが社会に普及した先の未来を3日間にわたって議論しました。
そこで繰り返し問われていたのは、AIのHaves(持つ国)とHave-Nots(持たざる国)の格差が、これからどこまで広がるのかという問いでした。最先端のAIモデル、それを動かす計算資源、必要な電力、データ、そして人材。これらを掌握する国とそうでない国との間に、これまでにない非対称な力関係が生まれつつある。AGI時代を見据えたとき、日本はどちら側に立つのか。
昼下がり、湖畔を歩きながらAI科学者と言葉を交わしました。
「全ての国がソブリンAI、つまり国産AIを持つ必要があると思うか」
そう問うと、彼はしばらく考えてから言いました。
「米中以外で先端AI開発を国内完結させようとするのは、技術的にも経済的にも非現実的です。でも、AIを止められないようにすることは、国の死活問題です。複数のモデルへのアクセス保証、国内の推論計算資源、機微データの国内ホスティング。これらがAI主権(AI Sovereignty)の核心ではないか。」
なるほど、と思いました。
「ソブリンAI」と「AI主権」。似て非なる概念です。前者は「国産のAIを持つこと」。後者は「AIを動かし続けられる力を持つこと」。
この区別が、今回のホワイトペーパーの柱の一つになりました。全面的な自前主義ではなく、同志国との分業を前提にしながら、確保すべき中核領域で戦略的に自律性を高め、世界のAI供給網の中で日本の不可欠性を確立する。それが日本の取るべき道だという手応えを、ベラージオで得ました。(当時の思いは「ベラージオで見た知と倫理の境界線」に詳しく書いています。)

エージェントAIの時代が始まった
帰国して半年。議論はさらに深まりました。

これまでの生成AIが「問いに答える」存在であったとすれば、いま台頭しつつあるエージェントAIは「目的を遂行する」存在です。与えられた目標に向けて、自ら計画を立て、情報を収集し、外部ツールを呼び出し、実行し、結果を検証する。AIは、単なる道具から「実行する主体」へと急速に進化しつつあります。
この変化は、日本に何を迫るのか。
AIが社会のインフラになりつつある今、問うべきは「AIを何に使うか」ではなく、「国の仕組みをAIを前提に設計し直せるか」です。
少子高齢化、人手不足、地域格差、インフラ老朽化。日本が抱えるこれらの課題は、見方を変えれば、AIによる自動化・効率化の恩恵が世界で最も大きい国であることを意味します。課題先進国であるがゆえの、チャンスがある。
この認識を出発点に、「AI駆動型国家への構造転換」を日本の新たな国家目標として掲げたのが、今回のホワイトペーパー2.0です。
ホワイトペーパー本文は約40ページ、提言は全部で104本にのぼります。それを、3つのパラダイムシフトという軸で整理しました。
第一に、「ソブリンAI」から「AI主権」へ。
第二に、「AIが何に使えるか」から「人間にしかできないことは何か」へ。
第三に、「規制の強弱」から「信頼の設計」へ。

パラダイムシフト1:「ソブリンAI」から「AI主権」へ
第一の柱は、ベラージオで掴んだ問いそのものです。AI基盤を他国に握られては、AI駆動型国家を自律的に運営することはできません。
世界のAI競争を眺めると、最先端の基盤モデル、巨大な計算資源、莫大な電力、そして膨大なデータ。これらを掌握できるのは、現実的には米中の一握りのプレイヤーに限られつつあります。HavesとHave-Notsの格差は、放っておけばこれからますます広がっていくでしょう。
では、米国でも中国でもない日本は、どうすべきか。
「全部国産で揃える」ことを目指すのは、率直に言って現実的ではありません。一方で、一部の国や企業に過度に依存すれば、いざという時にAIを止められたり、価格を吊り上げられたり、機微なデータを抑え込まれたりしかねない。これは経済安全保障上、看過できないリスクです。
そこで私たちが打ち出したのが、戦略的自律性と戦略的不可欠性を組み合わせるという発想です。

AIは目に見えないソフトウェアだけで成り立つものではありません。基盤モデル、半導体、製造装置、ウェハー、素材、光電融合、サーバー、データセンター、電力。これらが一つのスタック(積み重ね)として、AIを動かしています。このAIスタックのどこか一カ所でも握られれば、AIは止まる。逆に言えば、どこか一カ所でも日本が「絶対に必要な存在」であり続けることができれば、日本は世界のAIサプライチェーンの中で交渉力を持ち、AIが生み出す価値の一部をしっかり取り込むことができます。
幸い、日本はいくつもの強みを持っています。
今は最先端でなくても、一定の基盤モデル開発の能力を持ち、磨き続けている国内の研究者や民間企業がいます。また、半導体製造装置、シリコンウェハ、素材・部材、産業用ロボット、現場の熟練技能などでは世界有数の競争力を誇っています。「作る力」と「動かす力」の領域で、日本は世界に大きなシェアを持ち、不可欠な役割を果たしてきました。光電融合など日本が優位性を持つ新たな技術も少なくありません。これらをさらに磨き、世界のAI供給網における「不可欠な地位」へと転換していかなければなりません。
そしてもう一つ、忘れてはならないのが電力と計算資源です。AIを動かすには膨大な電力と計算が必要です。データセンターの戦略的立地、省電力化、サプライチェーンの強靱化。電力・データセンター・計算資源は、もはや個別の産業政策ではなく、AI時代の戦略的自律性を担保する国家基盤そのものです。
その上で、日本固有の現場知を活かす二つの方向を提言しました。
一つはフィジカルAI——ロボットや機械と結びつき、現実世界で動くAIです。製造、物流、介護、インフラ、災害対応など、日本が長年磨いてきた現場力が問われる分野です。

もう一つはバーティカルAI——医療、製造、金融、行政など、それぞれの業界に特化した専門AIです。日本には、現場でしか得られない知識やノウハウが大量に眠っています。熟練者の判断、工場の改善ノウハウ、介護や医療の細やかな対応、地域行政の実務知。これらをAIが使えるデータとして資産化できれば、日本は単なるAIの利用国ではなく、現場知を武器にしたAI国家になれます。

目指すのは「何でも国産化すること」ではありません。日本の強みを守り、磨き、国際分業の中で「日本がいないとAIスタックが回らない」という状態をしっかり作っていく。そのうえで、依存性が高まりすぎないよう、確保すべき中核領域では自国製または複数の他国製の選択肢を確保し自律性を高めていく。地味で、骨の折れる仕事ですが、エージェントAI時代の日本が「持てる国」の側に立ち続けるために、これ以上に重要な戦略はないと考えています。
パラダイムシフト2:「AIが何に使えるか」から「人間にしかできないことは何か」へ
第二の柱は、人間の側の問いです。
「俺たちが社会に出る頃には、人間の仕事ってなくなってるんじゃない?」
食卓での息子たちからの冗談めいた問いに、一瞬言葉につまりました。巨大な変化の波を若い世代ほど敏感に感じ取っています。
「全部なくなるわけじゃない。でも、仕事の中身は確実に変わる問いを立てる力、探究する力、他人と協働する力、責任を持って判断する力。そういうものが、これまで以上に大事になる。」
そう答えながら、自分自身に問いかけていました。そうした力を、どうすれば私たちの社会は次の世代に手渡せるだろうか、と。
AI駆動型国家は、すべてをAIに委ねる国家ではありません。
AIが単純・反復的な業務を代替していく中で、社会全体が「人間にしか担えない仕事」へと円滑にシフトしていく。この移行を、恐れるのではなく、社会総がかりで設計しなければなりません。
ここで正直に向き合いたいのは、移行コストの問題です。失業、転職、賃金変動、地域格差の拡大。これらは現実に起こり得ます。「AIでみんなが豊かになる」と言うだけでは無責任です。そのための仕組みづくりこそ政治の責任です。
まずはエージェントAIがもたらす労働市場への影響を緻密かつ継続的に政府として調査し、把握しなければなりません。その上で、子どもから大人までのリスキリング支援、セーフティネットの強化、ジョブ型雇用への移行、ハローワーク機能の拡充。こうした「公正な移行」のための制度設計を一体で進めることを、今回の提言では明確に打ち出しました。同時に、「AI時代のための教育」も再設計する必要があります。問いを立てる力など、AIに代替されない力を育てなければいけません。今夏、教員3,000人を対象にAI活用研修を実施することも盛り込みました。

一方、地元・愛媛を回っていると、中小企業の経営者から繰り返し聞かれる声があります。
「AI、やらんといかんのはわかっとる。でも、どこから始めたらいいんか、わからんのよ。」
人手は足りない。後継者もいない。新しい技術には興味があるが、何にどれだけ投資すれば成果が出るのか、自分一人では判断がつかない。多くの経営者が、AIの可能性に期待しながら、最初の一歩で立ち止まっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)のときも、同じことがありました。一部の大企業だけが先に進み、中小企業との間に大きな格差が生まれてしまった。AIで、同じ轍を踏むわけにはいきません。
進めるべきは「AX」、すなわちAIトランスフォーメーションです。単にAIツールを導入するだけではなく、AIを前提に業務、組織、意思決定の仕組みを作り替えることです。今回のホワイトペーパーでは、全都道府県で経営者のAX理解促進のためのセミナー開催、AI推進人材の育成、伴走支援の拡充、補助制度の切れ目ない整備まで、大企業から中小企業まで、すべての事業者を一体でAXへと引き込む仕掛けを提言しました。

AIの恩恵は、一部の大企業だけのものにしてはなりません。人手不足に悩む中小企業、地域の事業者、現場で日々汗を流す方々。社会課題解決に取り組む現場でこそ、AIは大きな力になるはずです。
パラダイムシフト3:「規制の強弱」から「信頼の設計」へ
第三の柱は、AIガバナンスの根本にかかわります。AI駆動型国家は、信頼なくしてはなりたちえません。
AI政策の議論は、しばしば「どこまで規制するか」という問いに矮小化されがちです。「EUは厳しすぎる。アメリカは緩すぎる。日本はどうするんだ。」こうした議論が何年も続いてきました。
しかし、これだけ強力で進歩の速い技術を規制やルールだけで縛るのはもはや限界です。本当に問うべきは「どうすればAIを社会が信頼できるか」という設計の問いです。
Sora2が問いかけたもの
この「信頼の設計」の必要性を強く実感したのが、昨年10月にOpenAI社が公開した動画生成AI「Sora2」をめぐる出来事でした。
リリース直後から、日本のアニメやゲームのキャラクターが、権利者の十分な関与なしに生成・改変され得るのではないかとの懸念が広がり、私自身も強い危機感を覚え行動しました。率直な対話を通じOpenAI側も迅速に対応してくださり、フィルタリング強化などの技術的制御が施されるなど、事態は改善に向かいました。(詳しい経緯は、以前のブログ「Sora2が問う『創作の尊厳』」をご覧ください。)
その際、制度的な支えとなったのが、2025年に成立したAI推進法第16条です。同条は、不適切なAI活用により国民の権利が侵害された場合に、政府が関係事業者に対する指導、助言、情報提供その他の必要な措置を講ずる根拠となる条文です。昨年、私たちが「いざという時に政府が動けるように」との思いで盛り込んだものでした。法的権限をただ振りかざすのではなく、制度を背景に、信頼関係に基づく対話で改善を促す重要な装置として機能してきました。
しかし、AIの進歩はますます加速しています。アンソロピック社があまりにも強力すぎるとして公開範囲を限定した「Mythos」などのように、我々の想定を上回るスピードで強力なAIが今後も次々と登場する可能性があります。だからこそ、制度は、危機が訪れる前に整えておかなければ意味がありません。
AI推進法16条の要請に従わない悪質な事業者に対する罰則適用を含め、AIの透明性を担保する仕組み。開発者自身の自制と技術的制御。リスクを事前に防御側がチェックできる制度と能力。利用者が自らを守ることができる理解度。AIホワイトペーパーの中で我々は、①ルールと②技術的制御と③ユーザーリテラシーの三位一体で、AIに対する「信頼」を立体的に設計しようという新たなガバナンスのフレームワークを今回提唱しています。

AIの誤動作やサイバー攻撃は、国民の生命・財産、さらには国家安全保障にまで影響を及ぼし得ます。深刻な事故が起きてから法整備に着手するという従来型の発想は、もはや通用しません。
AI推進法16条の実効性確保、AISIの技術評価・監査能力の強化、官民情報共有によるサイバー連携、AIリテラシー向上と公的相談窓口の拡充。これらを組み合わせ、「信頼そのものを日本の国際競争力にする」という発想が大事です。信頼の仕組みを丁寧に設計できる国は、利用拡大とイノベーションを安全に両立できる。これは国内のAI普及を促進するだけでなく、国際市場における競争優位にもつながります。
そして、政府自身もAIの利用者であるだけでなく、AI時代の制度設計者でなければなりません。
AIを単に行政に導入するだけでは不十分です。法律、制度、データ、業務そのものを、エージェントAI前提で根底から設計し直す必要があります。これが、ガバメントAXです。これを強力に推進するためのAI臨時行政調査会(AI臨調)の設置、Japan AXダッシュボードによる進捗の可視化、そしてこれらを束ねる司令塔機能の強化——日本AX推進チームの立ち上げや、AI戦略本部の事務局体制の倍増以上への拡充も提言しました。

序章の、その先へ
ホワイトペーパーは、提言であり、出発点です。
多くの政策提言が言葉としては並んでいます。しかし、それが本当に意味を持つのは、AI駆動型国家の理念が広く浸透し、政治、行政、産業、市民が一体となって実装していくときです。
政治の仕事は、書くことではなく、動かすこと。そのことを、自分自身への戒めとして改めて刻んでいます。
この半年間、AIホワイトペーパーづくりを支えてくださった全ての方に、心からの感謝を申し上げます。特に小委員会で貴重な知見を共有してくださったAnthropicのダリオ・アモデイCEO、冒頭のシェーン・レッグ博士をはじめとする国内外の有識者の皆さま。明確なビジョンで議論を導いてくださった平井卓也本部長と平将明委員長。各章を分担して提言起草から省庁協議まで進めてくださった事務局次長チームとワーキンググループの専門家チームの皆さん。そして、ファクトチェックや関連資料の確認を支えてくださった関係省庁の皆さまに心から感謝申し上げます。(AI・web3小委員会の開催実績及びプレゼン資料はこちらのリンクからご覧いただけます。)

「これはまだ序章に過ぎない」——シェーン・レッグ博士の言葉が、耳に残っています。
変化はこれからが本番です。AIを恐れるだけでも、礼賛するだけでも足りません。私たちが何を守り、何を伸ばし、どんな社会を子どもたちの世代に渡すのか。その問いに、政治は正面から向き合わなければなりません。
日本を、AIに使われる国ではなく、AIを信頼と成長の力に変える国へ。「AIを使う国」から、「AIで動く国」へ。
AI駆動型国家に向けて、皆さまのご意見やご提案をぜひお寄せください。
<資料>
AIホワイトペーパー2.0(案)の全文と概要スライドは以下のリンクからご覧いただけます。
<メディア>
