読書メモ『プロパガンダ教本』~エドワード・バーネイズのPR手法について~
『プロパガンダ教本 こんなにチョろい大衆の騙し方』(1928年発刊。原著『Propaganda』)は、「広報・宣伝(PR)の父」と呼ばれたエドワード・バーネイズの著書。
ネットどころかテレビさえ普及していなかった時代に書かれたPR手法に関する本ですが、現在の広報・宣伝にも通じるものがあり、興味深かったので読書メモを残します。
※政治に関する話では全くなく、広告・PR手法についての本です。
「大衆はエリートに誘導されるべき」。エドワード・バーネイズと「プロパガンダ」について
エドワード・バーネイズ(1891~1995)はユダヤ人としてウィーンに生まれた後すぐにアメリカに移住し、その後はアメリカ人として生きた宣伝・プロパガンダの専門家です。精神分析学で有名なフロイトの甥。
ベーコンの販売促進といった商品PRや、女性の喫煙キャンペーンといった社会運動の先導、そして戦争への世論誘導など数多くの実績を残しました。
彼は「大衆は、一部のエリートによって、正しい方向に誘導されるべきである」というような考えを持っており、本書にもその記載があります。
本書の構成ですが、バーネイズの原著『Propaganda』本編と、巻頭・巻末に訳者である中田安彦氏の解説が付いているというつくり。解説があるのでバーネイズ本人についてや、当時の状況の客観的な解説があり、理解しやすいものになっています。
さて、「プロパガンダ」とはそもそも何か?についてですが、Weblio辞書によるとこう解説されています。
プロパガンダ(propaganda)とは、意図をもって、特定の主義や思想に誘導する宣伝戦略のこと。大きな括りでは国家においての思想統制や政治活動、小さな括りでは宣伝広告や広報活動もプロパガンダに含まれる。
プロパガンダとは何? Weblio辞書
中田氏によるとバーネイズは、パブリック・リレーションズ(つまりPR)とプロパガンダを同じ意味で使っているとのこと。「プロパガンダ」と言われると政治的なもののような印象を受けますが、企業の商品広告もそれに該当するものがあります。
本書では企業、学校、美術館などがどのようにPRを成功させるかについての話が中心。
個人的に特に面白いと思ったのが以下の2点でした。
・インフルエンサーマーケティングらしきものがすでに存在していたこと
・Big Think(ビッグ・シンク)という考え方
内容1:影響力のある人の口を借りる
SNSやYouTubeなどのメディアにおいて、特定分野にファンを多く抱える人物を企業の商品PRに起用する「インフルエンサーマーケティング」ですが、バーネイズも似たような手法を使っており、本書でもその重要性について繰り返し語っています。
それについて記述されているのが、ピアノの販売数を伸ばす方法の案(たとえ話としての記載なので、実際に実施されてはいません)。
その方法とは、
「有名なインテリア・デザイナーが設計したオシャレな音楽ルームの展示会を開く」というものです。
イベントには、消費者のカリスマとなっている重要人物を呼ぶ。有名なヴァイオリニストや著名なアーティスト、コミュニティのリーダーなどを一堂に招くわけだ。こういった人たちが集まって、このイベントでは、これまでは大衆のイメージには存在しなかった「音楽ルームのある家」というイメージについて、そのすばらしさを語り合う。
そこから「音楽ルーム」の流行を作り、習慣にする過程を説明しています。
バーネイズはこのように、社会を構成するグループ(地域社会から趣味の活動まで)の成り立ちと、そのリーダーを分析し適切にはたらきかけることの重要性を説いています。
実際アメリカは戦争時、地域社会のリーダーに愛国心を煽る演説をさせたことで団結したわけですから、有力者の口を借りる方法の有効性はバーネイズ以前から認識されており、活用されていたんですね。
また、バーネイズは現在でも使われている「専門家の権威を借りる」という手法も活用していました。
彼はベーコンの販売促進を依頼された際、多くの医者から「朝食にベーコンを食べると健康に良い」という言葉を引き出して記事にし、ベーコンの売上を飛躍的に上げたとのことです。
今でも、広告やWebメディアにおいては、専門家の力を借りて信頼性を上げることは重要な事項です。Googleの評価にも影響しますし。
(まあ専門家の執筆や監修の有無によって、情報の信頼性を判断するというのは妥当っちゃ妥当ですが、専門家が「誘導」されていないかどうかはユーザーとしては確かめようのないことなので手放しで信用できないとは思いますが。)
インフルエンサーや権威者の力を借りるというのも、手法そのものは昔からあったわけですね。
内容2:Big Think(ビッグ・シンク)
「ビッグ・シンク」に関しては、中田氏による訳者解説の中に記述があります。
タバコの販売促進を依頼されたバーネイズ。当時は一般的でなかった「女性にもタバコを吸ってもらい、販路を広げる」ということを思いついたそうです。
そこで彼はまたしても権威者である医者を通して、「タバコは痩せる」という情報を発信。影響力ある有名な女優に街を、歩きタバコをしながら行進してもらったりして、ターゲットが自然に商品購入に走るように「状況を作り」ます。
そして驚いたことに、バーネイズはタバコのパッケージが緑であることに目をつけ、女性の間で緑が流行色となるようファッション業界から手を回します。
この一見、関連のない業界まで動かして需要を作り上げてしまうのが彼の得意手だったとか。
訳者解説抜粋:
このやり方は、彼の評伝の中では「ビッグ・シンク(Big Think)」と呼ばれている。自分のクライアントの業界だけに目を向けるのではなく、自分が社会をどのように作り変えたいかという明確なイメージやグランドデザインを持って行動せよ、ということである。
ー中田安彦
現代のマーケティングにも有効活用できそうな考え方です。
(この後、バーネイズは平然と禁煙キャンペーンに雇われます。この華麗な寝返りに対しコメントを求められて答えたのが『私はタバコは吸わない。実は、タバコよりもお菓子の方が好きなんだ。』でした。倫理観がちょっと危ういところがあったようです)
あとがき
エドワード・バーネイズ、個人的に人柄や考え方がすごく興味深かったので、詳しく調べてみようと思います。
彼の著書はこの『Propaganda』のみで他には論文がいくつかあるだけのようです。
(ちなみに、彼の理論はナチス・ドイツの宣伝大臣ヨゼフ・ゲッペルスにも参考にされ、ナチスのプロパガンダに利用されました。自らの同胞であるユダヤ人虐殺の礎にもなってしまったわけです。皮肉。)
さて、
バーネイズと中田氏の話を合わせると、本書の目的・提供する価値としては「プロパガンダのメカニズムを紐解き、影響力を明らかにすること」「一人一人が、プロパガンダに騙されないようにすること」のようです。
私は今の時代だと、これに「プロパガンダに加担しないこと」が加わるかなと思います。
ブログやSNSで誰にでも情報発信が可能になったこと。
発信よりも気軽な「シェア」という方法で、拡散に参加できるようになったこと。
バーネイズの時代に比べて大衆の発言力は強くなり、個の存在感は増したかと思います。
しかしその裏で私たちは
気づかないうちに誰かを追い詰めたり、何かの企みに手を貸したりしてしまうかもしれない大きなリスクも抱えています。
目の前に現れた情報は、正確なのか?誰かを傷つけるものではないか?誰にどの程度の不利益を与えるのか?最終的に誰が得をするのか?
ついつい流されがちですが立ち止まって考えたいですね。
陰謀論にハマってしまいそうですが
これだけ意図を持った情報にあふれた世の中なのですから、敏感すぎるぐらいでちょうどいいのかもしれません。
そして個人でも気軽に仕事を請けられるようになった昨今、
副業や個人事業として、人から仕事を請ける際にも注意が必要だと思います。
手にしたその仕事は、大きなビジネスの流れから切り出されたほんの一単位。「これは何なのか?自分はどの役割を担っているのか?」を認識し、「知らなかった。そんなつもりじゃなかった」は避けたいものですね。
以上、『プロパガンダ教本』の読書メモでした。
蛇足
隙あらば布教します。
大掛かりなPR(政治的プロパガンダなど)や、人を操作する"言葉"について興味のある人におすすめなのが伊藤計劃氏のSF小説『虐殺器官』です。
アメリカの軍人クラヴィス・シェパード大尉は、行く先々の国で紛争や虐殺を起こす言語学者ジョン・ポールの暗殺を命令され、彼の行方を追う。というお話。
ジョン・ポールは、人間を虐殺に走らせる器官を活性化させる「虐殺文法」を使い、PR会社勤めの経験を活かして様々な地域にそれを広げていきます。
プロパガンダについての話もありますし
思考と言語、進化と適応、本能と社会性といった話もたくさん出てくるので、そういうのが好きな人におすすめ。
アニメ映画にもなっていますが少しグロいのと、あと内容が倫理的にアレだったのかR15指定です。
映画も良いんですが、尺の都合かカットになってる部分も多いので、原作小説の方をぜひに。
