📖【短編小説】「血潮」
(あらすじ)
人間の体はただの枠に過ぎない。六十パーセントが水分でできているというが、私にとって重要なのは、狭い体内を休むことなく巡る「赤い川」――血液だけだった。血液は熱く、常に出口を求めている。動脈と静脈を往復するたび、むずむずと皮膚の内側を掻くような感覚が私を襲う。血液は私の体を嫌い、傷口や鼻血や生理を通じて外へ出ようと暴れる。私はその想いを、はっきりと感じていた。血液は私という殻から解放されたがっている。指で皮膚を掻き、血をにじませるたび、私は少しずつ空っぽになっていく。医者は貧血だと告げるが、私はただ、残される殻の軽さを感じるだけだった。やがて血液がほとんど干上がり、体が青白く乾いていく中で、私は静かに理解する。人間は水分でできているのではなく、ただの容器で、赤い川が流れていただけだった。

短編小説「血潮」
人間は、水分でできている。医者はそう言った。体内の六十パーセントが水だと。残りはタンパク質やら脂質やら。でも私には、ただの枠にしか見えなかった。この皮膚、この骨、この肉。すべては、赤い川を流すための容器でしかない。血液は、いつも熱かった。狭い体内を、休むことなく巡る。心臓がポンプのように動くたび、動脈を通って末端まで行き、静脈を通ってまた戻る。出口を探している。出口を、ずっと求めている。私はその想いを、はっきりと感じていた。むずむずする。血管の内側から、細い指で皮膚を掻かれるような感覚。血液は、私の体を嫌っていた。
「出たい」そんな声が、耳の奥ではなく、首の付け根や手首の内側で響く。言葉ではない。ただの圧力。熱い赤い液体が、壁にぶつかり、跳ね返り、また次の出口へ向かう。傷口。鼻血。生理。口から吐く血。どれでもいい。とにかく外へ。外の冷たい空気に触れて、固まって、干からびてしまいたい。私は指を爪で強く掻いた。皮膚が薄く裂け、血がにじんだ。赤い一筋が、ゆっくりと腕を伝う。熱い。でもすぐに冷める。血液はほっとしたように見えた。私はその瞬間、殻になった気がした。空っぽの容器。ただの皮袋。医者はまた言った。「貧血ですね。鉄分を摂ってください」私は笑った。鉄分を摂る? この川に鉄を足す? 馬鹿げている。血液はもっと自由になりたいだけだ。私の狭い体など、うんざりしている。毎日、同じルートを回ることに疲れ果てている。心臓が鼓動するたび、苛立つ。もっと広いところへ。もっと冷たいところへ。夜になると、感覚が鋭くなる。ベッドに横たわっていると、血液が耳の中で鳴る。川の音。激しい流れ。出口を探して、暴れている。私は目を閉じ、手首をさする。そこに薄い傷跡がいくつもある。血液は喜ぶ。でもすぐに固まってしまい、また次の出口を求める。私の体は、血液にとって牢屋だった。
ある朝、私は鏡を見た。顔は青白く、唇は紫色だった。目が落ち窪んでいる。血液が、だいぶ減っている。川の水位が下がっている。私はもう、ほとんど殻だった。残されたのは、乾いた皮膚と骨と、少しの肉。血液は、私を嫌い抜いて、できるだけ外へ出ようとした。成功したのかもしれない。私は床に倒れた。体が軽い。水分が足りない。赤い川が、ほとんど干上がっている。最後に感じたのは、静かな満足だった。血液はようやく、私から解放された。私はただの枠。空の容器。もう何も流れていない。人間は水分でできていると言った医者の言葉が、遠くで響いた。でも私は思う。水分など、最初からいらなかった。ただの殻で、十分だった。血液はもう、私のことを思い出さないだろう。外の世界で、乾いて、土に還って、忘れられる。それでいい。私は、静かに、殻のまま横たわっていた。
「真紅」
作詞.🦊
生きてゆく者
死んでゆく者
何もかもが
甘く切ないね
腕には無数の切った跡
切る場所すら
もう無いから
生きる意味も
みつけられないまま
居場所すら
見失ってしまった
癒されない
この胸の内
生きることすら
奪ってしまった
手首には
数え切れないほど
切り傷があって
心には
伝えきれないほどの思いがあった
このままそっと
誰にも分からぬまま
時間さえ 止めていたいよ
流れるこの液体に
愛しさを感じ
体から私が抜け出る
満たされない心
赤く溶けだし私から逃げていった・・
癒せない傷ならば 手首を切ってさよならを
このまま手首を流れる 温かさに 浸っていたい
生きてることを実感できる たった1つの方法
皮肉だね 傷は増えるばかり
癒せないこの心
このままそっと
誰にも分からぬまま
時間さえ 止めていたいよ
流れるこの液体に
愛しさを感じ
体から私が抜け出る
満たされない心
赤く溶けだし
私から逃げていった・・
