📖【短編小説】「偽装」
(あらすじ)
佐智恵は、体の不自由な姉・智恵を支える義務を負わされた少女。母の愛はいつも姉にだけ注がれ、佐智恵は冷たく叱られる日々を送る。二人は瓜二つの容姿なのに、母の心には智恵の「不足」だけが愛らしい。ある日、佐智恵は姉に成り代わるため、冷酷な計画を実行する。事故を装い姉を殺し、自らも傷つけて姉と同じ障害を負う。母は、目の前にいるのが佐智恵と気づかず「智恵でよかった」と安堵する。姉の名を騙り、母の愛を独占する佐智恵だが、夜の鏡に映るのは姉の目――。嫉妬と復讐が織りなす、暗く切ない心理サスペンス。

短編小説「偽装」
サチエは静かに姉の部屋のドアを閉めた。部屋の中には、トモエの細い呼吸だけが響いている。車椅子の姉は、窓の外をぼんやりと見つめていた。外は秋、木の葉が赤く染まり、風に揺れている。サチエは姉のそばに立ち、髪をそっと撫でた。トモエの髪は、サチエのものと同じ黒で、つややかだった。顔も、背格好も、まるで鏡に映したように似ていた。だが、母の目はいつも姉のトモエだけを見つめていた。
「お母さんが呼んでるよ、サチエ」トモエの声は弱々しかったが、どこか甘えるような響きがあった。サチエは唇を噛み、黙って頷いた。母の声が階下から響く。「サチエ! トモエの薬、ちゃんと用意したの? また忘れたんじゃないでしょうね!」サチエはため息をつき、姉に背を向けた。母はトモエを溺愛していた。トモエが生まれつき体の不自由な子だと知った日から、母の心はずっと姉に傾いていた。
その気持ちは、名前にも表れていた。「佐」は「助ける」「支える」を意味する漢字だった。智恵(トモエ)の一生を助けるためだけに生まれたのが、妹の「佐智恵(サチエ)」だった。サチエがどんなに努力しても、母の目はトモエの弱さにしか向けられなかった。「不足があるものほど愛らしい」と、母はよく言った。サチエが成績で一位を取っても、母は「トモエがこんな体じゃなかったら、もっとすごいことができたのに」と呟く。サチエがこぼしたスープに母は眉をひそめ、トモエが同じことをしても「大丈夫、トモエは頑張ってるから」と笑う。サチエの心は、静かに、だが確実に冷えていった。
ある晩、サチエは姉を連れて裏庭の古い井戸の近くへ行った。トモエは車椅子で、サチエが押していた。月明かりが二人の影を長く伸ばしていた。「サチエ、寒いよ。なんでこんなところに?」トモエが震える声で尋ねた。「ちょっと、トモちゃんに見せたいものがあるの。」サチエの声は穏やかだったが、その目は冷たく光っていた。
井戸の縁に近づくと、サチエは車椅子のブレーキを外した。「サチエ、危ないよ!」トモエが叫んだ瞬間、サチエは車椅子を強く押した。トモエの体は井戸の奥へ落ち、鈍い音とともに静寂が訪れた。サチエは井戸の中をのぞき込み、トモエが動かなくなっているのを確認すると、勢いよく井戸に飛び降りた。井戸の底に転がる石で姉のトモエの顔を激しく殴打した。トモエだとわからないくらい殴った。その後、井戸の上に向けて大声で叫んだ。「助けて! サチエが!」
母は病院のベッドの前で泣いていた。サチエは包帯に巻かれ、車椅子に座っていた。母はサチエの手を握り、涙を流しながら言った。「トモエ、よかった、生きててくれて。死んだのが、サチエのほうでよかった」サチエは目を伏せ、かすかに微笑んだ。母は気づいていなかった。目の前にいるのがサチエだと。井戸の中で冷たくなったのはトモエだったのに。それからの日々、サチエは「トモエ」として生きた。母は妹のサチエが化けている「トモエ」に優しく、愛情を注いだ。サチエがこぼしたスープにも笑い、弱々しい声で話すサチエに涙ぐんだ。サチエは母の愛を浴するたび、心の中で冷たく笑った。
「これが私の復讐よ、ねえさん。母さんの愛は、全部私のもの。」夜になると、サチエは鏡を見る。そこには自分とうり二つのトモエの顔が映っていた。自分の顔のはずなのに、姉の目がじっとサチエを見つめている気がした。車椅子の軋む音が、夜の静寂に響くたび、サチエの心は少しずつ凍りついていった。サチエの中で、姉のトモエとしてではなく、サチエとして愛されたいという想いが抑えきれずにいた。サチエは意を決して、母に自分の正体を告げた。
「お母さん、私、ほんとはサチエなの。」自分がトモエではなく、サチエであることの証明として、車椅子から立ってみせた。母は、はじめ驚いた顔をしていたが、やがて倉庫から柄の長い金づちを取り出すと、私の足を思いきり殴りこう叫んだ。「私のトモちゃんはね!足が動かないのよ!!」想像を絶する痛みと骨が粉々になる音を聞き、気を失った。今、私は母が引く車椅子に乗っている。「トモちゃん、ママがずっといるから大丈夫よ」
「ヒロイン」
作詞.✋
だいすきな人の目の中に
いつも私はいなくて
それがたまらなく悔しいから
あなたと入れ替わることに
決めたの
愛されるためなら
私、どんな化け物にもなる
私が私を捨ててでも欲しかったもの
ずっとあなたのカゲで
虐げられてきた
脇役の引き立て役から
今夜、逃げ出すの
罪づくりなシンデレラ
魔法よ、解けないで?
ごめんね?
痛かった?
私もずっと痛かったから…
これでおあいこ
日陰の私
日向のあなた
今夜、入れ替わる
月夜の晩、隠れて踊った
ムーンライトダンサー
私、幸せになる…
愛されるためなら
私、どんな化け物にもなる
私が私を捨ててでも欲しかったもの
ずっとあなたのカゲで
虐げられてきた
脇役の引き立て役から
今夜、逃げ出すの
罪づくりなシンデレラ
魔法よ、解けないで?
十二時の鐘が鳴っても
ずっとこのまま…
夢よ、覚めないで…
