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📖【短編小説】「櫻」

(あらすじ)
桜は自然の生き物として、咲くことにも散ることにも何の意味も感じていなかった。人間がお花見をし、毎年同じ桜を見ているつもりでいることなど、桜にとってはどうでもいいことだった。今年にしか咲かない花弁は、ただ風に散り、地面に落ちて腐るだけ。それが当然だった。しかし今年、その一本の桜の木に咲く一輪は違っていた。毎年同じ場所に座って桜を眺める人間の男に、初めて「もう一度会いたい」という想いが芽生えた。他の桜のようにただ散っていきたくない。この男の記憶に、ずっと残る桜でありたい。自分だけを見てほしい。自然の桜にとって、人間の恋に似た執着は醜く下劣なものだった。それでも、花弁の裏側に生まれたむずむずする感覚は消えない。
散りゆく季節が近づくにつれ、桜は初めて「散りたくない」と強く思う。人間の恋を知ってしまった桜は、静かに、しかし確実に苦しみを知る。



短編小説「櫻」

私は桜だった。毎年、春になると咲く。花弁は薄ピンクで、風が吹けば簡単に散る。それが私の役割だった。意味なんてない。咲くことも、散ることも。ただの自然の営み。人間が「お花見」と呼んでシートを敷き、酒を飲み、写真を撮るのも、私たちには関係なかった。彼らは「去年の桜」と言うけれど、去年の私と今年の私は、細胞一つとして同じではない。毎年、新しい私が生まれ、毎年、違う私が散る。それを、私は何とも思わなかった。

今年は、違った。公園の端に立つ一本の桜の木。私はその枝の一つに、二十三個の花弁を持っていた。人間の男が、毎年同じ場所に座るようになった。三十歳くらい。眼鏡をかけ、ノートパソコンを開いて、桜を見上げながら何かを書いている。去年も、一昨年も。彼は私の花弁を、じっと見ていた。他の桜の枝ではなく、私の枝を。最初は、ただの視線だった。でも、ある朝、彼が私の下で呟いた。「今年もきれいだな」その言葉が、私の花弁の裏側に、細い糸のようなものを通した。むずむずする。花弁が一枚、わずかに震えた。自然の桜は、そんなことを感じない。風に吹かれて散るだけ。なのに、私はその震えを、抑えられなかった。

人間の恋、というものを、私は知らなかった。でも、それが何なのか、ぼんやりと理解した。会いたい、と思った。散りたくない、と思った。他の桜のように、ただ風に飛ばされて、地面に落ちて腐って、来年の肥やしになるのは嫌だった。私は、この男の記憶に、ずっと残っていたい。私の花弁だけを、特別に見てほしい。他の桜ではなく、私だけを。それは、醜い想いだった。自然の生き物にとって、執着は下劣だ。花は咲いて散るためにある。残ろうとするのは、腐った果実が木にへばりつくような、気持ちの悪いことだ。私は知っていた。それでも、止まらなかった。

彼が来るたび、私は花弁を精一杯に広げた。色を濃くしようとした。風が吹いても、必死に枝にしがみついた。花弁の縁が、痛いほど張りつめていた。人間の恋は、こんなに苦しいのか。胸の奥――いや、私には胸などない、枝の芯のあたりが、熱くむずむずする。虫が這うような、でも虫ではない何か。散る季節が近づいた。風が強くなった。花弁が一枚、また一枚、剥がれていく。他の枝の桜たちは、淡々と散っていた。地面に薄ピンクの絨毯を作り、人間たちは「きれいだ」と笑う。私は、必死に耐えた。残りたい。この男が、もう一度、私を見てくれるまで。彼が最後に来た日、風が特に強かった。彼は私の下に座り、桜を見上げた。眼鏡の奥の目が、少し寂しそうだった。「今年も、きれいだったな」その言葉で、私は耐えきれなくなった。一枚の花弁が、風に飛ばされた。私の体の一部が、地面に落ちる。痛みはなかった。でも、喪失感が、枝全体を震わせた。散りたくない。会いたい。また来年も、私を見てほしい。でも来年の私は、違う私だ。今年の私は、もう二度と咲かない。人間の恋を知ってしまった桜は、苦しむ。散りゆくときに、初めて、死にたくないと思う。私は最後の花弁を、必死に握りしめた。指などないのに、握りしめた。男が立ち上がり、去っていく背中を見つめた。彼は振り返らなかった。私は地面に落ちた花弁たちの中に、混じっていった。薄ピンクの死骸の山。

来年、また新しい私が咲くだろう。でも、私はもう、ただの桜ではいられない。人間の恋は、こんなに醜く、こんなに重い。それでも、私は思う。もう一度だけ、会いたい。他の桜ではなく、私だけを、見てほしい。風が吹いた。私は、静かに、散っていった。

「櫻花开了」
作詞.🦊

桜が狂い乱れた夜
人の温もり感じた春
下劣極まり、堕落の天国
2度と桜に戻れぬ身体

人知れず
咲き誇る美学
崩れ始めた
情念の春
散りゆくことに
意味などないと
懐かしむのは
去年の桜

綺麗に咲くのは・・
今年も貴方に出会うため
一際汚く綺麗に咲いて

だからお願い・・
我开
私を見つけ出してね

あなたのために
咲いてみせるから
みじかく咲いて
一春の情念

出来るだけ長く長く
咲き誇る

散りゆくのなら
あなたの前で
果てたい

何度生まれ変わっても
巡るサクラ
何度生まれ変わっても
巡るサクラ

あなたの中に残せた?
私の生きたすがた

焼き付けて・・

忘れないで・・

懐かしんで・・

思い出して・・

醜く咲いて
今年もあなたに
みじかく咲いて
一春の情念

出来るだけ長く長く
咲き誇る

散りゆくのなら
あなたの前で
果てたい

何度生まれ変わっても
巡るサクラ
何度生まれ変わっても
巡るサクラ

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