海底ケーブルが切れても、世界と完全には切れない時代が来る
世界の通信を支えているのは、宇宙に浮かぶ衛星ではない。
現在も、国際通信の大部分は海底に敷かれた光ファイバーケーブルを通っている。私たちが海外のウェブサイトを見たり、動画を再生したり、クラウドサービスを使ったりできるのも、海の底を走るケーブルがあるからだ。
そのため、海底ケーブルの切断というニュースを見ると不安になる。
もし日本につながるケーブルが切れたら、インターネットが使えなくなるのではないか。海外との通信が途絶え、金融や物流、行政まで止まってしまうのではないか。
しかし衛星通信が台頭することで、海底ケーブル切断の意味は少しずつ変わり始めている。
海底ケーブルは通信の高速道路
海底ケーブルは、大量のデータを高速で運ぶことに優れている。
動画配信、クラウド、金融取引、企業間通信、AI処理など、現代社会では毎秒膨大なデータが国境を越えている。
これをすべて衛星通信だけで処理するのは、現時点では難しい。
通信容量、速度、遅延、コストの面を考えると、海底ケーブルは今後も国際通信の中心であり続けるだろう。
つまり、衛星通信が発達しても、海底ケーブルがすぐに不要になるわけではない。
衛星通信は空にある迂回路
一方で、衛星通信には海底ケーブルにはない強みがある。
地上の設備が壊れても、広い範囲に通信を届けられることだ。
海底ケーブルが高速道路だとすれば、衛星通信は高速道路が通行止めになったときの空中迂回路に近い。
普段は海底ケーブルを使い、障害が発生したときだけ衛星へ切り替える。
通信速度は低下するかもしれない。動画を高画質で見たり、大容量ファイルを高速で送ったりするのは難しくなるかもしれない。
それでも、メッセージ、位置情報、決済、災害情報、行政通信などが残れば、社会の完全停止は避けやすくなる。
重要なのは、いつもと同じ速さで使えることではない。
完全に孤立しないことだ。
「つながるか、つながらないか」ではなくなる
これまでの通信は、基地局の電波が届くか、固定回線が生きているかという、比較的単純な構造だった。
しかし将来は、複数の通信手段を状況に応じて使い分ける形になる。
通常時は光ファイバーや基地局を使う。山間部や海上では衛星を使う。災害時には、地上回線から衛星回線へ切り替える。
通信手段が一つではなくなるのだ。
その結果、海底ケーブルが一本切れただけで、国全体が通信不能になる可能性は下がっていく。
別の海底ケーブルへ迂回し、それも難しければ衛星へ逃がす。
通信網そのものが、多重化されていく。
電波塔がなくなるわけではない
衛星通信が発達すると、電波塔や携帯基地局は将来なくなるのではないかとも思える。
しかし、完全になくなる可能性は低い。
衛星通信は広い地域をカバーすることには向いているが、都市部に集中する大量の通信を処理することは得意ではない。
駅、繁華街、住宅密集地、ライブ会場などでは、短時間に非常に多くの人が通信を行う。
こうした場所では、利用者の近くにある地上基地局のほうが効率がいい。
さらに、衛星通信は屋内、地下、トンネル、高層ビルの谷間などでは不利になりやすい。
そのため、未来の通信網は衛星か基地局かの二者択一にはならない。
都市部では基地局、山間部や海上では衛星、災害時には両方を使う。
役割分担が進むと考えたほうが自然だ。
地上、海底、宇宙の三重構造へ
これからの通信インフラは、地上だけでも、海底だけでも、宇宙だけでもない。
地上の基地局、海底ケーブル、低軌道衛星。
この三つを組み合わせた構造になっていく。
どれか一つが止まっても、別の経路へ逃がせる。
これは単なる通信技術の進歩ではない。災害対策であり、経済安全保障であり、国家のインフラ防衛でもある。
特に日本のような島国にとって、海外との通信経路を複数持つことには大きな意味がある。
海底ケーブルが切断されても、高速通信が少し遅くなるだけで、最低限の通信は残る。
そんな状態を作ることができれば、海底ケーブル切断のニュースに、必要以上に怯える必要はなくなる。
海底ケーブルが消えるのではない
衛星通信が台頭しても、海底ケーブルは消えない。
基地局もなくならない。
それぞれが得意な場所で使われ、弱点を補い合うようになる。
未来は、すべての通信が衛星に置き換わる世界ではない。
海底ケーブルが切れても、地上基地局が壊れても、別の経路で世界とつながり続けられる世界だ。
海底ケーブルに依存しなくなるのではない。
海底ケーブルだけに依存しなくなる。
その違いこそが、衛星通信がもたらす最大の安心なのかもしれない。
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