ショートストーリー 「ムー◯ン狩りと贖罪の旅」 #あなたの旅ショートストーリー
目を覚ますと、僕は見知らぬ土地に立っていた。
両脇には切り立った山々がそびえ、谷間の底にぽつんと取り残されたような感覚。
正面には、どこまでも広がる真っ青な野原。風に揺れる草の海を、小川が蛇のようにくねりながら流れている。水面は陽光を反射し、きらきらと踊っていた。
足元に目をやると、くるぶしほどの大きさの奇妙な生き物たちがうようよと蠢いていた。
水色、緑、茶色――まるでカバのようなフォルムだが、どこか人間臭い。
ぷっくりと膨らんだ腹、短い二本足でよちよち歩く姿は、まるで休日の温泉街を歩くおっさんたちのようだった。
最初はその数に圧倒され、少し気持ち悪さを覚えた。
だが、よく見ると…可愛い。
その愛嬌に満ちた動きに、妙な親近感すら湧いてくる。
――あれ?
僕の右手には虫網が握られていた。
背中には大きな竹籠。まるで昆虫採集に来た少年のような装備だ。
これは…やるしかない。
虫網を両手で構え、振りかぶる。
僕の殺気を察したのか、カバおっさんたちは四方八方に逃げ出した。
その逃げ足の遅さが、逆に僕の闘争心に火をつける。
そこから先は――言葉にするのを躊躇うというより、自粛すべき光景だった。
竹籠には、おびただしい数のおっさんたちが詰め込まれていた。
その表情は、どこか哀愁を帯びていた。
ふと、視線を感じる。
振り返ると、パイプをくわえた目つきの鋭い男が立っていた。
ボロボロの緑色の洋服、羽根のついた帽子――どこか物語の住人のような風貌。
その目が合った瞬間、僕の体は石のように動かなくなった。
あれ?
男の瞳が渦を巻き、闇が僕を包み込む。
――ハッ!
夢か…。
僕の手には、フィンランド土産でもらったウォッカの空き瓶が握られていた。
頭が痛い。重い。世界がグルグル回る。
あれは…ムー◯ンだったのか?
夢の中とはいえ、妙な罪悪感が胸に残る。
「ムー◯ン狩り…いやいや、ムー◯ン谷に行こう…」
ふと、フィンランドへの旅行費を計算してみる。
…。
うん。
「『ムー◯ンバレーパーク』に行こう」
こうして僕は、夢の愚行の贖罪として、埼玉県飯能市にある『ムー◯ンバレーパーク』への小旅行を決意した。
完
※994文字
あとがき
よしまるさんの企画に初めて投稿させて頂きました。
旅の醍醐味の一つに「どこに行こうか」思い馳せる事もあるな…、と誇大解釈。
先日、会社の同僚が「ムー◯ン谷に行きたい」を「ムー◯ン狩りに行きたい」と言い間違えたのが面白かったので無理矢理組込んでみました。
楽しい企画ありがとうございました。また、企画参加させて下さい。よろしくお願いします。
