ショートショート 「去る者は追わず」 #アマノ文筆クラブ
甘野充さんの企画『甘野文筆クラブ』に参加させて頂きます。お題は「去る者は追わず」です。
去る者は追わず…
いや、追わないのではない、追えないのだ。
私を椅子に縛り付け、あのもじゃもじゃ頭の男は去っていった。
足元には怪しい小箱。
中からチックタックチックタックっと音が漏れてくる。
混乱して頭が回らない…。
どうしてこうなった?
薄暗い電球灯、陰影だけの世界。
いよいよ時間が過ぎて意識が明滅してきた頃…
バン!
一気に部屋は明るくなり、天井に吊るされた玉が割れた。
ヒィ!思わず声が漏れる…
ダン!ドアが開く。ゾロゾロと人が流れ込み、小箱からは御馴染みのメロディが流れ出す。
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユ〜…」
ニヤニヤしながらクラッカーを俺に向けて発射してくる。
俺は呆然とした…。
今日は俺の誕生日じゃない!
誰だこいつら…
「あ!」誰かが声を発した。
なにやらモゾモゾと話し合い出す集団。
「あ!」そのうちの1人が窓の方を指して叫ぶ。
バン!照明が完全に落ちる。
闇に紛れ、遠くに逃げる音。
そして沈黙は訪れた。まるで全てが幻聴だったかように。
取り残されたのは火薬の臭いと椅子に縛られたままの俺。
…。
数日後、俺は今去った者を追っている。
地獄の果てまで追い込んでやる…。
完
(本文)
