「七転び、やっと起き」 #アマノ文筆クラブ
俺は勇者見習い。
今日、ついに初めてモンスターの巣窟へ足を踏み入れた。
洞窟の入り口は、まるで巨大な獣の口のようにぽっかりと開いていて、冷たい風が中から吹き出してくる。背筋がゾクッとした。緊張で足がもつれ、さらに湿った地面が追い打ちをかける。
「うわっ!」
ズルッと足を滑らせた俺の体は、まるで糸の切れた操り人形のように、洞窟の中へと吸い込まれていった。
一回転、二回転、三回転…
加速度はどんどん増していく。視界がぐるぐると回り、上下の感覚も曖昧になる。
四回転目、ゴツン!
岩に頭をぶつけて、意識が遠のきかけた。
五回転、六回転…たぶん七回転目――
ドン!
何かに激しくぶつかり、同時に生ぬるい液体が全身を包んだ。
「うっ…な、なんだこれ…?」
その時…
ギャアァ〜ー…!
洞窟に響き渡る、断末魔のような叫び声。
俺はようやく目を開けた。
目の前には、真っ赤に染まった魔王がいた。
「え…?」
何が起きたのか、理解が追いつかない。
魔王は苦悶の表情を浮かべ、腹に深々と突き刺さった剣を見下ろしていた。
それは、魔王が愛用していたという伝説の剣
“刺したら絶対絶命きっ刀”。
「部下の目を盗んで…楽しくソロキャンプしてたのに…グッハッ…」
そう言い残し、魔王は崩れ落ちた。
…どうやら俺は、転がりながら魔王に突っ込み、偶然にもその愛剣を腹に突き立ててしまったらしい。
洞窟の奥には、焚き火の残り火が揺れ、焼きマシュマロが地面に転がっていた。
俺は、七転びやっと起き、伝説となった。
完
(本文626字)
あとがき
甘野充さんの企画『アマノ文筆クラブ』お題「七転び、やっと起き」に参加させて頂きました。
