ショートショート 「コーヒー牛乳」 #せりふ三題噺
湯気の中で「ひそひそ…あれベイダーじゃね?」温泉には不釣り合いな頬骨が特徴的な黒いヘルメットを被った男を指さす若い男達。
シュコ〜、シュコ〜…
生命維持装置の独特な呼吸音が温泉の熱気と混じり、静寂の闇へ溶けていく。
温泉の揺らぎを見つめながら、「…フォースは、湯の流れにも宿る」男の顔はマスクに覆われ確認はできないが、いたくご満悦のように伺えた。
「…整った」そう呟くと、ヘルメット男は湯船に波を立てないようにゆっくりと上がる。脱衣所に入る前に手ぬぐいでしっかりと体の水分を拭き取り、温泉に一礼する。その所作は妙に丁寧で、どこか武士のようでもあった。
お気に入りらしい柔らかなパジャマに袖を通すと、足早に自動販売機へ向かった。
ガチャン!
慣れた手付きでコーヒー牛乳にストローを差し込む。
「ゴク……ゴク……ぷはー…」
豪快な飲みっぷりな音が脱衣所に響く。
「これしか勝たんのよ」
男は紙パックのコーヒー牛乳を見つめる。
「でもやっぱ瓶がよかったな…」あの冷たくて重みのある瓶の感触を思い出すように、ほんの少しだけ首を傾ける。
そして、飲み終えた紙パックを丁寧に折りたたみ、可燃ゴミへと静かに投げ入れた。
「ありがとう…」
湯気をまだ纏ったまま、黒いヘルメットの男は静かに客室へと戻っていった。廊下の灯りが彼の背中を照らし、影だけがゆっくりと伸びていた。
完
(本文568字)
あとがき
はらとけいさんの企画『せりふ三題噺』お題は下記の通りでした。
■セリフ「これしか勝たんのよ」
■三題
・温泉
・パジャマ
・頬骨
