ショートショート 「かわいいライトを買ったよ~」 #アマノ文筆クラブ
「かわいいライトを買ったよ〜」
妹は玄関を開けるなり、満面の笑みでそう言った。手にはピンク色の懐中電灯。ラメがきらきらと光を反射し、まるでおもちゃのように愛らしい。
「どんなの買ったの?見せて」
僕がそう言うと、彼女は得意げにそれを差し出してきた。受け取った瞬間、ずしりと手に重みがのしかかる。
「重っ!」
見た目の軽やかさとは裏腹に、まるで鉛でも詰まっているかのような重量感。よく見ると、ボディにはいくつものスイッチが並んでいた。赤、青、黄色、そして…黒。
「多機能ってことか。最近のはすごいな」
そう納得しかけたその時、ひときわ異質なスイッチが目に入った。黒地に白文字で「撃退用」とある。
「なんだこれ…?」
興味本位で、ポチッと押してみた。
次の瞬間、先端から緑色のレーザーが一直線に放たれ、壁に「ジュッ」と音を立てて突き刺さった。焦げた匂いが鼻をつく。慌ててスイッチを切ると、壁には黒い焼け跡がぽつりと残っていた。
「おいおい、防犯用にしては出力強すぎだろ…目に入ったら即アウトだぞ、これ」
「ふふふ、すごいでしょ?このかわいいライト、もっとすごい機能あるよ」
妹の目は、まるで星でも宿しているかのように輝いていた。
「どれどれ…拡散、切断、非行ボタンって…もはやライトのボタンじゃないじゃないか!?」
「でも商品名が“かわいいライト”なんだよ。漢字で“華愛威雷煌”って書くの」
「当て字がヤンキーみたいだな…」
その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。外がざわついている。
「お前、もしかして外で使った?」
「使ったよ。昼間だったから光はあんまり見えなかったけど」
嫌な予感がして窓を開けると、視界いっぱいに赤い炎が広がっていた。黒煙が空を覆い、熱風が顔を撫でる。家の周囲は、まさに地獄絵図。
「いや〜、お兄ちゃん助けて〜!」
「お前が蒔いた種だろ…」と言いたかったが、喉の奥で言葉を飲み込んだ。
「もしかして…」
僕は妹の手を引き、玄関を飛び出す。
「僕に捕まってろ!手を絶対に離すなよ!」
「うん!」
僕は“華愛威雷煌”を地面に向け、「非行用」と書かれたスイッチを押した。
バシュウウウウウッ!
凄まじい光線が地面を貫き、爆風とともに僕らの体がふわりと浮かび上がる。次の瞬間、重力が消えたかのように加速度が増し、僕らは空へと放り出された。
そして、意識が遠のいていった。
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目を覚ますと、そこは白い天井。病院のベッドだった。点滴の音が静かに響く。
隣のベッドでは、頭に包帯をぐるぐる巻いた妹が眠っている。どうやら、命は助かったようだ。
「お、お兄ちゃん…?か、かわいい防犯ブザーも買ったよ…?クゥー…」
寝言に変な汗が滲み、背中をつたった。
「当て字は…暴氾武咲?それとも棒反舞座?…とりあえず“華愛威”シリーズは却下だな…」
僕は天井を見上げながら、静かに呟いた。
完
(本文1158字)
あとがき
甘野充さんの企画『アマノ文筆クラブ』お題「かわいいライトを買ったよ~」に参加させて頂きました。とっくに書き終わっていたのですが、どうも納得がいかなくて破棄しようか迷っていたのですが、せっかく書いたのでアップしました。このお題は今まで感じたことのない不思議な縛り感があってモヤモヤしました。私だけ…かな?
