ショートショート 「猫にこんばんは」 #アマノ文筆クラブ
「夜中に猫を探すバイト?」
深夜0時過ぎ、コンビニの前で缶コーヒーを片手に、友人のタカシが唐突に言った。
「そう、しかも時給一万円!」
「イヤイヤ、絶対それ闇バイトだろ!猫って、確かレクサスの隠語って聞いたことあるぞ…」
「大丈夫だって。求人サイトには“猫にこんばんは”って言うだけの仕事って書いてあったんだよ」
「怪しすぎるだろそれ。闇バイト、ダメ、絶対」
「“経験不問、猫好き大歓迎”って書いてあったし。あ、でも深夜のバイトだから、身元確認できるもの――『免許証』『保険証』のコピーを撮らせて貰いますって書いてあるね」
「100%闇バイト確定じゃねえか!やめとけって!」
「でももう応募しちゃったんだよね」
「……え?」
「しかも“友達も誘ってOK”ってあったから、お前の情報も送っておいたから」
「……え?」
「そろそろ集合時間だな。ここが集合場所って書いてあった」
「……え?」
そのとき、路地の奥から黒ずくめの男たちがゾロゾロと現れた。サングラスに無表情、まるで映画のワンシーンのようだった。
「人生詰んだな……俺たち」
「お前たちだな。よろしく頼むよ」
男の一人が無言で1枚の写真とチャオチュールを差し出してきた。写真には、白黒の猫が写っていた。
「探してもらうのは、某有名人の飼い猫“チャーチル”だ。写真をよく見て、顔と模様を覚えてくれ。もし見つけたら、失礼のないように“こんばんは”と挨拶すること。いいな?」
「し、失礼なことを聞きますが……これ、闇バイトじゃないんですよね?」
「ハハハ、そんなわけないだろ。でもな、怪しまれてほとんど応募が来ないんだよ。ホワイト案件だよ、ホワイト。ハハハ」
男たちは笑いながら去っていった。僕たちは顔を見合わせ、ため息をついた。
こうして僕たちは、闇が明けるまで“闇バイト風”の猫探しバイトをすることになった。
そして奇跡的に、僕はチャーチルに出会えたのだった。月明かりの下、塀の上に座るその猫に、僕はそっと声をかけた。
「こんばんは」
チャーチルは「こんばんニャー」と言った…気がした。
完
闇バイト、ダメ、絶対
(本文845字)
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