ショートショート 「お月様とススキ」 #虹色創作部 #すすき
季節はもう晩秋。
荒川の河川敷には、爽やかというには少しばかり冷たすぎる風が吹いていた。
夕方の塾を終えた帰り道、隆と香織は並んで歩いていた。
空には、雲ひとつない夜空にぽっかりと浮かぶ真ん丸な月。
その光は、河川敷のススキの穂を銀色に染め、ふたりの影を長く引き伸ばしていた。
隆は、ずっと前から香織に好意を抱いていた。
けれど、それを言葉にするには、あまりにも彼女の横顔が眩しすぎた。
ふと、風が強くなり、ススキの群れがざわめいた。
その音は、まるで誰かが囁いているかのように、隆の耳に届いた。
「ザワザワ〜、心ザワザワ〜、今サラサラ〜、今サラサラ〜」
ススキの声に心をくすぐられ、隆は思わず口を開いた。
「す、好きだ!」
唐突に、けれど確かに、内に秘めていた想いが言葉になった。
その瞬間、突風が河原をうなりながら横切っていった。
ススキが大きくしなり、月の光が一瞬、揺らいだ。
「え? 何? ゴメン、よく聴こえなかった」
香織は、悪びれた様子もなく、ふわりと微笑んだ。
隆の耳が、急に熱くなる。
「…あ、あ…す、ススキだ〜、綺麗だね〜」
「そうだね。お月様と、いいカップルだよね」
ふたりの間に、少しの沈黙。
けれどその沈黙は、どこか心地よく、風の音とススキのざわめきに包まれていた。
…時が止まればいいのに。
隆は切に願った。
けれど、空に浮かぶお月様は、どこかいたずらっぽく笑っていた。
『駄目』とでも言うように。
完
(本文621字)
あとがき
虹色創作部さんの企画に2回目の参加です。
ススキが好きだ、ススキ好きだ、す、好きだ。
という下らない発想から書いてみました。
秋って切なくって大ススキなんです…。すみません。次回もよろしくお願いします。
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