見出し画像

ショートストーリー 「華のない二人」 #アマノ文筆クラブ

派手さは必要ない。  

セリフも要らない。  

余白の中で、ありのままの通行人や死体役を演じ、映画やドラマにそっと華を添える。  

いや…「華のない役で華を引き立てる」 

その矜持を胸に、端役専門として二十年。  

伝説のエキストラ夫婦、A男とB子は、今日も事件現場の野次馬役を完璧に演じ終えた。

撮影が終わり、スタジオの裏手にある細い路地を歩いていた。  

夕暮れの光がビルの隙間から斜めに差し込み、アスファルトに長い影を落とす。  

二人の足取りは軽くもなく重くもなく、いつものように静かだった。

そのとき…


「すみません!あのー!」


背後から、少し息を切らした声。  

振り返ると、制服姿の高校生くらいの女の子が立っていた。  

リュックの肩紐を握りしめ、頬を紅潮させている。

A男とB子は道を聞かれるのだと思い、にこやかに応じた。


「どうしました?」


「あの…A男さんとB子さんですよね?」


一瞬、時が止まる。  

顔を見合わせる二人。  

その無言の間に、心の中で交わされる会話…


『あれ?』  

『あれ?』  

『なんで私たちを知ってるの?』  

『え?』  

『え?』  

『華のない二人組の私たちが知られているわけはない…』


沈黙を破ったのはA男だった。


「そ、そうですけど、ど、どうかされました?」セリフこそあったが、挙動不審者の役だとしたら100点満点の芝居だった。


「ファンなんです!サイン頂けますか?」


女の子は満面の笑みで、色紙を差し出してきた。  その手は少し震えていた。

困惑する二人。  

ファンだと言われたのも、サインを求められたのも、初めてだった。  

同時に、心の奥で葛藤が渦巻く。  

私達はエキストラのプロ。目立たない、裏方に徹するのが信条だ。サインをすることはそれに反するのではないか?


「私たちのもらっても嬉しくないでしょ?もっと有名な俳優さんの方がいいでしょ?」


B子は一歩踏みとどまった。  

やはり、サインはできない…そう思った。

だが、女の子は真っ直ぐに首を横に振り言った。


「私は小さい頃からドラマや映画等でお二人を見て、ずっと憧れていたんです。  セリフがないから目立たないけど、自然に世界に溶け込む演技に。  私も、そんなエキストラになりたいって思ったんです。  お二人は、私の目標なんです!」


その言葉に、A男とB子は目を見開いた。  


次の瞬間、二人は抱き合って泣いていた。  


エンドロールに名前すら乗らない、名もなき役者。


その自分たちの演技が、誰かの心に間違いなく届いていたこと。  



それが、ただただ嬉しかった。


都心の片隅、夕暮れの路地裏で…


新しいドラマが、静かに生まれていた…。



(本文1048字)

あとがき

今回も難しいお題でしたが、「華のない二人」ってネガティブな響きがあるので、絶対に逆に振ってやるって思いながら楽しく書けました。ありがとうございました。


#アマノ文筆クラブ
#華のないふたり
#ショートストーリー
#フィクション
#エキストラ
#通行人役
#死体役
#野次馬役
#矜持
#ドラマ

いいなと思ったら応援しよう!