ショートストーリー 「投げやりな恋」 #投げやりな恋 『アマノ文筆クラブ』
風は静かに芝を撫で、鱗雲は神々の目のように見下ろしている。
アモルは、黄金のやりを手に、静かに立つ。
その瞳は遠く、100メートル先の一点を見据えていた。
空気を裂くような緊張が、彼の周囲に漂う。
まず、助走が命。
そして、適切な角度。
高速回転をつけるように投げる。
アモルは頭の中で何度も何度も唱え、イメージする。
息を吸って止める。
一度反り返ると、それを反動に前へ。
助走でスピードを蓄積し、クロスステップで下半身を使い、
ブロックでそのエネルギーを上半身へ伝える。
今だ——!
最終的なリリース時、やりの角度に最大の注意を払いながら、 手首を返し、回転を加える。
やりを放つ。
それと同時に全身が震え、雄叫びが漏れる。
ベストな投射角で飛び出したやりは、放物線を描きながら、 うねり、ねじれ、空間を裂く。
放たれた黄金のやりは、100メートル先の男の左胸に突き刺さった。
男は驚きに目を見開き、隣にいた女性に恋をした。
「さすが、アモル。やり投げもうまいね。」
クピドは、雲の上から見下ろしながら言った。
「最近『フリースタイル投法』から『逆手投法』へ変えたら、さらに調子がいい。」
アモルは、軽く肩を回しながら答える。
彼はパリオリンピックでやり投げを見てから、
長年使っていた弓矢をやめ、やり投げ一筋となった。
「そーいえば、南口選手に恋したんだっけ?」
キューピットも恋をするのだ。
「そう。でもやり投げにした理由はそれだけじゃないんだ。」
アモルは語る。
「投げやりな恋ってあるじゃん。あれを正したいんだ。」
クピドはあまり興味を示していないが、アモルは持論を続ける。
「こんなにもやり投げは奥深くて神聖なものなのに、 “投げやり”ってなった途端に品位が落ちる。 僕は僕のやり投げを通して、投げやりな恋の意味を真剣な恋に変えたいんだ。」
「でも、人間にはうちらの姿見えないし、神様に頼んでみたら?」
「それじゃ意味がない。大切なのは想いと行動。結果は後から付いてくるんだよ。」
ふーん。クピドは生返事。相変わらず興味はなさそう。
「よし、次はあの子だ。」
アモルは目視で距離を測る。
今度は距離が長い。助走を多めにとるか?
いや、投射角で調整か?
頭の中で巡らせる。
助走が命。
適切な角度。
高速回転をつけるように投げる。
アモルは投射のモーションへ入る。
黄金のやりは、天高く綺麗な放物線を描き、
また新たな恋を射抜いた…。
完
(本文1017字)
あとがき
はじめまして。初めて甘野充さんの企画に参加させて頂きました。これまた初めてのアクション描写…。難しいですね。けど、楽しく書けました。また参加させて下さい。素敵なお題ありがとうございました。
