ショートショート 「今の祭り」 #アマノ文筆クラブ
モクモクモク…
白煙に燻される浦島太郎。
波打ち際に膝をついたその足元には、黒い漆塗りの箱が転がっている。蓋は開き、白い煙が空へと昇っていく。
太郎の肌はみるみるうちに皺だらけになり、手足は今にも折れそうな細木のように痩せこけた。
指先が震え、視界が霞む。
「……あぁ、後の祭りだぁ……」
後悔の念が津波のように押し寄せる。
乙姫は確かに言っていた。「開けちゃダメダメ♥」と。
約束を破ったのは自分。自業自得。だけど、だけど、だけど……
「そりゃないよ〜!」
魂の叫びは大海原を揺らす。
空が一瞬、ピカ〜ンと光った。
ドドドドドッ!!
遥か彼方から轟音が響き、海がざわめく。
波が逆巻き、海面が裂ける。
パッカ〜ン!!
割れた海の間から、サンバのリズムが流れ出す。
太鼓、笛、カウベル、タンバリン。音が重なり、熱を帯びていく。
『オレ〜、オレ〜、暴れん坊サンバ〜♪
オレ〜、オレ〜、暴れん坊サンバ〜♪
オレ!』
黄金に輝く集団が、歌い踊りながらゆっくりと姿を現す。
羽根飾り、ラメ、スパンコール。
波しぶきを浴びながら、踊り狂うその姿は、まるで地獄のカーニバル。
「おい、そこの阿呆!一緒に踊るか?」
白塗りのチョンマゲ姿の男が、腰をくねらせながら声をかけてくる。
太郎は戸惑いながらも、老いた声で返す。
「ワシを…誘っているのか?」
「お前、浦島太郎だろ?乙姫に騙された」
「え?だ、騙された?」
男は踊りながら語る。
「乙姫の策略。竜宮城の宴は、漁師を軟禁し魚たちを守るための罠。 玉手箱は地雷。欲深き者を老いへと誘う呪具だ」
太郎は記憶を辿ろうとするが、頭の中は靄がかかっている。
亀を助けたはずなのに、その場面が思い出せない。
「無様だな…お前はどうする?一緒に来て乙姫に復讐するか? オレはお前みたいな”後の祭り野郎”を集めて踊り歩いては復讐してるんだ」
「ふ、復讐…?」
「そうだ。オレもかつては”後の祭り野郎”だった。 悔恨、反省、未練、心残り、後悔のオンパレード。 だからオレはなったんだ。”今の祭り野郎”に!」
「”今の祭り”…?」
「そうだ!俺達は常に踊り続ける。
祭りが終われば”後の祭り”。
だから終わらせない。
踊り続ける。
これは世直しパレードなんだ」
パチンッ!
ボスが指を鳴らすと、集団が一斉に歌い出す。
『エライコッチャ、エライコッチャ、ヨイヨイヨイ
踊る阿呆に踊らされる阿呆
同じ阿呆なら自ら踊らにゃ損、損、損、損…』
「どうする?お前は自ら踊る阿呆か?踊らされる阿呆か?選べ!」
太郎の内心が震える。
ザッ!
一歩踏み出し、見様見真似で踊り始める。 腰を振り、腕を回し、足を踏み鳴らす。
「よし!いざ竜宮城へ!オレ!」
音楽が転調する。
ピー!ピ!ピ〜、ピーピーピー…
『オレ〜、オレ〜、暴れん坊サンバ〜♪
オレ〜、オレ〜、暴れん坊サンバ〜♪
オレ!』
集団は踊りながら進み出す。
向かうは憎き乙姫の居城。
しかし、進まない。
波打ち際で足踏みばかり。
「ボス!さっきからほとんど進んでいませんが…」
太郎が問いただすと、ボスは笑いながら答える。
「俺達は踊りに呪われた集団でもあるんだ…」
「え?」
「つまりノロイんだ、ハハハ」
踊り狂いながら、ゆっくり進む。
でも、そこに後悔はない。
祭りは終わらない。
とりあえず完
(本文1459字)
