ショートショート 「携帯電話を川に落としたよ」 #アマノ文筆クラブ
「携帯電話を川に落としたよ…」ブラックバスを片手に呟く男。
「違うか…間違って携帯電話をリリースしたよ」ヤケクソになって男は一人にこやかに笑った。
大物のブラックバスを釣り上げて携帯電話で写真を撮った。そこまでは良かった。ちょっと足元がズルっといったので、注意が床にいった。転ぶ前にリリースしようと放り投げた…携帯電話を。
携帯電話は男の手を離れた瞬間、まるで意志を持ったかのように空を舞った。銀色のボディが朝日を反射し、キラリと一閃。放物線を描いて宙を滑空しながら、風を切る音すら聞こえてきそうだった。
まるで「俺は自由だ!」と叫ぶかのように、ブラックバスのようにしなやかに身をくねらせ、最後の一跳ねで水面を突き破る。
バシャァン!
水飛沫が陽光に照らされ、虹色の粒となって宙に舞う。男の目には、まるでスローモーションのように映った。携帯電話は、泡をまといながら川底へと沈んでいく。まるで、釣り上げられた魚の魂が、機械に乗り移って川へ還ったかのように。
…。
男は本物のブラックバスをリリースした後、しばし呆然と立ち尽くし、やがてまたぽつりと呟いた。
「…ナイスキャスト…元気でな」
完
(本文483字)
あとがき
甘野充さんの企画『アマノ文筆クラブ』お題「携帯電話を川に落としたよ」に参加させて頂きました。携帯電話あるある?釣りはしないけど、似たようなことはありますね…。
