息をするように本を読む163〜トマトスープ「天幕のジャードゥーガル」〜
ここではいつも本の話をしています
私はフィクションと名がつく面白い物語が大好きなので、もちろんコミックも読みます
今回は、コミック、さらにはそのアニメ作品のお話です
お好きでない方々には申し訳ありません
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私は物語が好きだ。
面白ければどんなジャンルでも読むが、特にミステリや、社会派と呼ばれるような経済小説とか刑事物、そして、歴史小説が好きだ。
そしてそれは、とにかく面白い物語であればいいので、小説はもちろん、ドラマでも映画でも、コミックでもかまわない。
この作品は、東洋史が大好きな次女に教えてもらった。
5年前より、WEBのコミックサイトで連載中。紙の本も6巻まで出ているらしい。
さらに、今月からテレビアニメの放送も始まっている。
トマトスープ、というのは作家さんの名前。少々変わった筆名だけど、WEB連載から始まったということで、特におかしくはない。可愛い名前だと思う。
ジャードゥーガル、とは、ペルシャ語で、魔女、という意味だ。
天幕、とは、大きなテントのこと。ここでは、モンゴルの遊牧民が暮らしていたゲル、のことを指す。
モンゴルの魔女、というくらいの意味、だろうか。
これは、実在の人物、実在の場所、史実を元にしたフィクション。
壮大なユーラシア大陸の歴史、その中を走り抜けたある少女の物語。
時は13世紀初頭。
最初の舞台は、ペルシャ(現在はイラン)の東部のトゥースという街。
主人公は、街の裕福な学者の家の女主人に仕える、シタラという名の奴隷の少女。
奴隷、というと、何かとても過酷な境遇のようだけど、この時代、身寄りのない女性が裕福な家庭で奴隷として働くということは、雇い主に恵まれさえすれば、そこまで悪いことではなかった。
もちろん、職業や住居の自由はなく、あくまでも雇い主の所有物、財産、という立ち位置ではあるのだけど。
笑顔が可愛らしくて働き者のシタラは、女主人や同僚の女奴隷たちに可愛がられる。
仕事の合間には勉強を教えてもらい、学者の家の使用人らしく、書庫にあるさまざまな貴重な書物、数学や天文学や神学や法学の本を読むことも覚えた。
そうして8年が過ぎ、この穏やかな暮らしは突如として粉々になる。
遊牧民の軍勢が街を襲ったのだ。
13世紀ユーラシアの雄、モンゴル。
勇猛果敢で獰猛なモンゴル軍はたちまちのうちにその軍靴の下に容赦なく家々を破壊し、街の住民のうち、職人や女子どもたちは奴隷として連行され、それ以外は皆殺し、街は壊滅した。
当時モンゴルは、蒼き狼の子孫、チンギス・ハーンの旗下、大陸を縦横無尽に駆け回り、破竹の勢いでその版図を広げていた。
シタラたちの街トゥースに攻め入ってきたのは、そのチンギスの末子、トルイだった。
征服者の容赦ない襲撃によって、住む家と街を、優しかった女主人や仲の良かった同僚たちを失い、ひとりぼっちになったシタラは、モンゴルに対する激しい憎しみに燃える。
そして、奴隷の名であるシタラを捨てて敬愛する女主人の名、ファーティマを名乗り、モンゴルへの復讐を決意する。
シタラの女主人は、折に触れて言っていた。
「知を求めることは、イスラムの勤めよ」
女主人の息子、この家の跡継ぎで後に高名な学者となるムハンマドも、勉強なんか嫌だという幼いシタラに言って聞かせた。
「勉強して賢くなれば、どんなに困ったことが起きたって、何をするのが一番いいか、わかると思うんだ」
そう、この時代のペルシャ、アラブ、いわゆるイスラムの国々は、古代文明のシュメール、メソポタミア、エジプトから続くオリエントの知恵を受け継ぎ、学問の花開いた場所だ。世界でも稀有な叡智の地、だったのだ。
その豊かな知の力を使い、侍女や側仕えとしてモンゴル社会の奥深くまで入り込み、いつか内部からこの国を破滅させてやる。シタラ改めファーティマは密かに誓う。
大モンゴル相手に、少女ひとりに何ができるのか。
実は、強大なモンゴル帝国にも弱点はあった。
モンゴルは元々ひとつではなく、幾つかの氏族が集まってできている部族であり、他にもたくさんの部族が存在する。
さらにはファーティマのような被征服民、たとえば、トルコ、ウイグル、ロシア、中華、ペルシャ、アラブ、その他、もっと多数の地域や国の出身者を内に抱えている。
それは、討ち滅ぼした国の民でも有能な者は率先してその能力をモンゴルのために使わせる、そういう、寛大というか、鷹揚というか、ある意味では非常に有効だけど、別の意味ではとても危険な、モンゴルの風習に拠るところ。
服従したように見えて、ファーティマのようにモンゴルに対する強い憎悪を秘めている、そんな人物は内部にたくさんいただろう。
そしてそういう人間は、奴隷のような下仕えから、兵士、学者、職人、官僚のような者たちだけでなく、もちろん、王宮の奥にも存在していた、はず。
果たして、ファーティマの復讐は遂げられるのか。もしそうなら、どんな形で。
まだまだ、絶賛連載中。
続きが楽しみだ。
ヒロインが、今、何かと話題のイラン、ペルシャ人であり、舞台がモンゴル、というのがとても興味深い。
世界は、現在のように西欧や大国だけを中心にして回っていたわけではない。
そして、征服された民族が皆、唯々諾々と負けを認めたわけではない。
歴史には知るべきことが多くある。
そして、ここが大事、やっぱり面白い。
本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。
先日始まったアニメも見たが、とても素晴らしい作品だった。
音楽、演出も卓越しているし、全体のタッチ、人物や風景が、水彩画のような柔らかな色合いで美しい。
キャラデザも、いわゆる今風の、きれい過ぎる、写実過ぎるものでなく、何と言うか、デフォルメが絶妙で、手塚治虫さんの作品を彷彿とさせるような、そんな情緒がある。
時折、ファーティマの回想に出てくる懐かしいトゥースの街の風景や、今、暮らしているモンゴルの広い広い草原、そしてそこで見上げる広い夜空の星、そんな描写もとても叙情的だ。
もしよろしければ、ぜひご覧になってみてください。
