【短編小説】ケーキ屋と少年
やっべ、何も分からねぇ
この言葉が俺の心を確実に蝕んだ。
初めての海外旅行、フランス旅行初日、ボンジュールとメルシーしか分からない俺は今、ケーキ屋の店員の会話で詰んでいる。
ケーキ食いたいだけなのに、それだけ。
「Could you speak English?」と言っても英語の欠片は全く落ちてこない。
フランス語でペラペラ話されても俺は何も分からず、ただずっとショーケースの前で呆然としている。
「She said, "Anything else?"("他に注文ないですか?"と言ってますよ)」
急に英語が降ってきて肩がビクリと立った。ふと右を向くと、隣にはおばあちゃんがいた。眼鏡をかけて、ピンクのコートを着たザ・マダムのような装い。「フランスのマダムってこんな感じか・・・」と思わずおばあちゃんの帽子のてっぺんから足先までまじまじと観察してしまった。
「She said, "Anything else?"("他に注文ないですか?"と言ってますよ)」
おばあちゃんはゆっくり俺に話しかける。いや、分かってるって。そんなゆっくり言わなくても。
そう突っ込みながら俺は店員にかぶりを振った。そこから何事も無かったように会計が終わった。
会計が終わった瞬間、俺はおばあちゃんの方を見た。おばあちゃんはフランス語で俺を喋り倒した店員と立ち話している。俺はおばあちゃんに向かって「メルシー」とだけ言って店を出た。
店を出ると辺りはフランス語で溢れかえってる。カフェで話す人、ハンズフリーで電話しながら信号無視して歩く人、人目を全く気にせずイチャつくカップル。
英語は英検2級レベル、日本語はネイティブ。それ以外は分からない。
転校初日の転校生のようなアウェー感を感じながらもホテルを目指して歩く。「日本帰りたいな」と心の中でボソッと呟きながら。
その瞬間、サッカーボールが俺の足元に転がってきた。
「A, Are you OK?(大丈夫!?)」
金髪の少年が慌てて俺の方にやって来た。恐らくこのボールの持ち主だろう。背は多分、小学校低学年くらい。
「OK」
それだけ言って俺はボールを少年に向かって蹴り返した。
「A…A, Are you,, alone?(もしかして一人?)」
少年はボールを抱えながらそう言った。俺が頷くと少年はある場所を指さした。そこには2軒のケバブ屋がある。
「The right side is is, good, but le, left is, bad(右の店は美味しいけど、左の店は不味い)」
プッと思わず吹き出した。つられて少年も笑う。それから少年は通りにあるお店の口コミを余すこと無く教えてくれた。
どこが良いのか、不味いのか、全部本音で。そして、つたない英語で。とにかく話そうとする少年があまりにも可愛くて、全部相づちを打っていた。
少年の話が一通り終わる、いつの間にかイチャついてるカップルはいなくなってる。
「Il est temps de rentrer.(そろそろ帰るよ)」
その言葉に少年と俺は振り返った。俺は目を疑った。だって、その声の主はさっきのおばあちゃんだったから。おばあちゃんも少し目を大きくさせながら俺を見ている。
「Thank you for chatting him(あの子のおしゃべりに付き合ってくれてありがとう)」
おばあちゃんは俺にそう言うと、そっと俺の肩を叩いた。何か話したそうな雰囲気がして俺は無意識におばあちゃんの顔に耳を預けた。
「Actually, he is stammer.(実はあの子吃音なの)」
その一言に俺は耳を疑った。ただ英語が苦手だと思ってたからだ。その少年はおばあちゃんの耳打ちの内容を何も知らないかのように無邪気に微笑みかける。
「I did't realize that.(気付かなかったです)」
そう笑って俺は少年に手を振った。少年は迷わず振り返す。
障害や気質、全てその人の性質をテンプレ化する言葉にすぎない。何も知らず、出来ないことや苦手なことを「出来ないだけ」「ただ苦手なだけ」と見て相手と向き合うことも意外に悪くない。だって、相手が相手という事実は変わらないのだし。
その少年も吃音を持ってても、英語を話すのが苦手なのも、全部ひっくるめて少年であることは変わらないのだから。
ホテルまでの道でそっと考えた。
ホテルに戻って箱からチョコケーキを取り出す。ケーキに刺されている板チョコはドロドロに溶けていた。(1819字)
後書き
Hej! あかりんです!
初めてnoteに小説を投稿しました!
note徘徊してるときにふと見た企画が「面白そう」と思い、急遽執筆しました!(現地深夜1時、なお完成時間は30分)
素敵な企画ありがとうございます!
長編小説のネタはかなり溜まってますが、ショートショートを書くのは1年ぶり?ですかね(因みにそのショートショートは英語で書いたので日本語で書いたのは中学生以来かもしれない)
この小説は昨日オルレアンのケーキ屋でフランス語で接客された自分の経験が元ネタになってます
そこでもし「上手く通訳してくれる人が居たら自分はどうなってたんだろう?」と思ったとこから始まりました
まぁおばあちゃんと少年はフィクションですけどね笑
フランスに行って雰囲気はデンマークと違うなぁと感じてます
デンマークもアウェー感を感じることはありますが、フランスは尚更アウェー感を感じてしまいます
それはなぜか
この答えを見つけ、上手く昇華できたらええなと感じながら残りの旅行期間過ごしたいなと思います
